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ドラマ 『First Love 初恋』 感想 - 10代の恋愛は人生を左右するくらい貴重な経験・・・

Netflixで配信されている 『First Love 初恋』 という、9話完結の日本ドラマを観た。
僕はひねくれ文化スノッブなので、このテの恋愛ドラマは観る前から 「ケッ」 と思って観ないほうなのだが、Twitterではラディカルな発言をしている友人が 「こころが洗われました」 と言っていたので観てみたら、ちょっとありえないくらい泣いてしまった。フィクションの映像でこんなに泣いたことあるのか、ってくらい。50も近いオッサンがキモい。

ね、観る気しないでしょ?

こういうドラマは、いわゆる"非リア"のひとには 「異次元の話」 として相手にされないと思うし、メイン顧客は10~30代の女性だろうと思われる。では、心も体も汚れきった僕が何に感動してしまったのか、話が単純なぶん言語化がむずかしいけれど、書いてみる。

オススメなので、興味のある人は観てください。ヤバいネタバレはしません。

物語はベタそのものだ。 (タイトルどおり、宇多田ヒカルの2つの楽曲を"薄い"基軸としている)
ある高校生のカップルが、本気の本気の熱愛をしていた。しかし彼女のほうが事故で記憶の一部を失う。彼氏の存在も忘れてしまった。
作品の構成がミソで、90年代の主人公2人の恋愛時代と、(記憶喪失が原因で) 別れてしまったあとの20年後の現在、その間の期間、という3つの「時間」をめまぐるしく行き来しながら描かれる。

上記の時間軸構成ふくめ、まず作品の質的な部分を褒めてみる。

まずこれは2時間の映画という表現ではここまでのエモさは出せないんだけれど、かといって地上波のありがちな恋愛ドラマの構成とは異なる部分がある。登場人物が多くなくて、展開がどんどん進むというようなバタバタした感じがなく、一貫して独特の静けさに満ちており、詩的なシーンが多い。映像も詩的で、音楽も静謐な雰囲気の曲が多く、抑えが効いている。

そして、高校生パートと大人パートで役者が違うのだけど、この4人が、物凄く良い芝居をしていた。特に大人パート彼女の満島ひかりの芝居は、傑出していた。この女優のことをナメていた。凄い。高校生のふたりの役者も、その歳でしか出せない輝きを放ちまくっていた。演技、そして芝居の演出は重要だね。作品の核だ。

3つの時間軸が並行に描かれることで、「なぜこの2人は現在こうなっているのか」などの謎が、あとからわかる仕掛けになっている。単線的な時間で描かないことで、先の展開が気になる構造。こういう手法自体は珍しいものではないけれど、20年という長い時間のあいだに彼らに起きたことをじっくりていねいに観ることで、主人公たちの"人生の時間"の重み、そしてこの物語が深みが迫ってくる。

「ありえないくらい幸せだった過去」と、「互いに別々の人生を歩んでいる現在」が切り替わり続けるのを見ているうちに、時間の不可逆性と時間の連続性、というものについて僕の感性が反応してしまい、ギリギリと何かをねじ込まれるように感情移入してしまった。
若い2人は将来の夢があったが、悲惨な別れがあったあと、時を経て、彼氏は警備員、彼女はタクシードライバーをしている。なぜそうなっていったかの経緯は徐々に明かされる。
それぞれの、それなりに大変な出来事を経て、2人は同じ町で暮らしている。そして、別の人物を通して「つながり」は持っているのだが、近づけない。彼女の記憶は戻っていない。
(こうやって文章で書くと、ホントに何が面白いのかと自分でも思ってしまうけれど、それが映像の力ですね)

ここでミモフタもないことを差し挟むけど、若いころにこういうピュアな恋愛をしたことがない人は、ほとんど振り落とされる作品であるとは思う。さらに、これは感じワルいことを承知で言うと、僕は、こういう恋愛を中高生のころにしてきた。その経験がなかったらこんなに感動はしなかったと思う。しかしこれを言っておかないと、感想が書けない。

僕はもうアラフィフだけど、過去の似たような恋愛や別離の記憶や、もう絶対にこの人生ではこんな恋愛などできないというある種の絶望についての感受性を、揺さぶられた。けっきょく僕がエモい人間だから感動したのだ、みたいな結論になってしまう・・・

過去の時間は戻ってこない。けれど、過去の時間も一個人のなかで脈打って生きている。
絶望と書いたけれど、こんな単純なことに、人は希望を見出して、生きる力にすることは出来る。
時間の不可逆性と時間の連続性、、歳をとってくると、もう取り返しがつなかいことに後悔をしたり、取り返しがつかないからこそ永遠のような記憶を愛でることもできる。そして今の自分の人生をもっと大切にしようと思えたりする。

この作品で描かれた、奇跡のような恋愛、ある個人の人生のなかにこれほど一人の人間への愛みたいなものが深く強くあり続けることはリアリティがないと言えばないのだが、そういう可能性、夢のようなものを描いてもいいのが、ドラマであり、物語だ。
そういう、人の生のうつくしさみたいなものだってこの世にはあると思えることが、救いでもある。
本作では、仕事をして子供を育てるとか、親権問題、社会階層など生きることのつらさも描写される。

現代はさまざまな個の格差、そのことへの嘆き、諦観、また自由恋愛批判などが一部のネットでは自明化し、社会問題とさえ言える状況なので、ある種の人にはこんな、甘ったるい美男美女の恋愛モノを観たら「ケッ」 としかならないとは思うのは確かだけれど、それでも、(いろいろな意見があるのは承知で) 恋愛っていうのはすばらしいことだよ、と言いたいと僕は思った。

6話くらいから泣けて泣けてヤバかった。

いろいろ良かった点を挙げればキリがないのだが、ひとつだけ挙げるなら、主人公たちの高校生のころの恋愛がとにかくまぶしくて、たまらなかった。
お前はそういう経験が出来たから感動できただけだろ、と言われればそれまでだし、そんなのどうしようもないじゃないか、とも言われるだろうけれど、10代、20代前半のうちに恋愛をしておくことは人生にとって大事だ。
何なら学業よりもはるかに取り返しがつかないことだとも思う。これはもちろん僕の価値観、人生観だ。
それを言っちゃあおしまいじゃねえか、みたいな話だけど、感性がやわらかいうちに人を愛し人から愛される経験は、重要なことだよ。自分の子供たちにも、おおいに恋愛してもらいたいね。

なんかまとまりもないし、エモいだけの、disられそうな感想になっちやったな。

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