【アメリカ信託法】信託の変更における委託者の意思ーイングランド法と日本法との比較ー

導入

個人向けアドバイスの中で海外準拠法の信託についてみる機会もあり得ます。アドバイスの中核は日本の税法の観点でしょうが、英米法の基礎的な部分はわかっていた方がよいでしょう。今回は信託の変更を例にとってその基礎的な部分をイングランド法(及び日本の信託法)と比較しつつ、論じてみようと思います。

信託の変更がどのような場合に認められるか

アメリカでもイングランドでも、委託者及び全受益者が同意していれば信託の変更は認められます。他方で、委託者が亡くなった場合等で、全受益者の同意だけで信託の変更が認められるかは両法体系で結論が異なります。

イングランドの場合

イングランドでは、信託された後の信託財産は受益者に帰属するという見方で信託をみることが強く、その限りで死者の手(委託者の信託時の意思・目的)は受益者が許容する限りで維持される、という結論に至りやすいとされています。したがって、全受益者が同意すれば、委託者の目的に合致せずとも、信託を変更できる、ということになります(Goulding v. James, [1997] 2 All E.R. 239 (C.A.) (Eng.))。

アメリカの場合

しかしながら、アメリカの場合には、委託者の処分の自由(freedom on disposition)が発揮されたものとして信託を理解します。したがって、信託は、信託されてしまえば受益者に帰属するもの、というよりは、条件付きの贈与のようなイメージで理解されることになります。

したがって、Claflin v. Claflin, 20 N.E. 454 (Mass. 1889)で示されたように、material purpose of the settlorに反していない限りで、受益者は信託を変更できる、というThe Claflin Doctrineが採られています。

日本の信託法

日本の信託法は149条で信託が変更できる場合を定めていますが、信託の目的に反しないことが明らかであるときは、受益者と受託者の合意で信託を変更でき(同条2項1号)、また、信託の目的に反しないこと、及び、受託者の利益を害しないことが明らかであるときは、受益者のみによって信託を変更できる(同条3項)とされています。したがって、思想としては、アメリカ法の考え方を取り入れたといえるでしょう。


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