浪人生の卒業文(集)

2023年12月18日。今日は寒い。昨日までは六月みたいにあったかかった。だから寒くなると焦る。きづけばあと二週間しか今年がない。
切実に浪人を辞めたい。わたしは19歳になってしまった。
やっている意味がわからない。はっきりいってモチベーションがないということなのかもしれない。泣きそうだ。自分が情けなくてしょうがない。寒い、寒い。
ここ最近結構呑気に生きてきた。むろんもともとかなり呑気ではある。でも最近はとくにそう生きようとしていた。ネガティブになったら負けだと思ったからだ。それは生存戦略だった。だからそれは良かったと思う。ネガティヴになって、現実から完全に逃げて、動けなくなって布団の中で啜り泣いいて終わるよりよかったと思いたい。
だけどその分、ネガティブにならないように現実から逃げていることにようやく気がついた。それが今となってはつらい。なぜ勉強をしなかったのか。ちょっと点が取れるからである。でもそれって経験したことある。
もっと壁にぶち当たらなくてはいけない。
ああー。
何が正解なのかわからない。自分は何がしたいのか。ああー。
ちょっと前に、来年やりたいこと100個あげた。正直、今浪人辞めてそれやり始める方が有意義な気がしてきた。ふつうにやりたすぎる。あーイライラする。なんでこんなことに。

でもこれは自分で選んだ道だ。もう逃げたくない。

ひとつだけわたしを突き動かすエネルギーがある。
それは去年の自分を裏切りたくないという切なる願いである。
去年の自分はほんとうに、ほんとうに成長した。かっこよかった。ああなりたくて生きてきて、そうなれた瞬間だったかもしれない。
ほんとうに去年の自分は頑張っていた。早稲田に行きたかった。ひとつの目標にむかってがむしゃらに生きていた。
いまでも尊敬している。
正直言ってほんとうに、これしかモチベーションがないかもしれない。でも強烈なエナジーだ。地球の時点を逆回りにできるくらい、今目の前にある現実を、軽くブラジルまで吹き飛ばせるくらい強烈だから、去年のわたしはアイドルだ。
そんな強烈なエナジーを放つ彼女が叶えられなかった夢を、叶えられるチャンスがいま手のひらの中にある。
だから去年の自分を裏切りたくない。夢を追いかけて、その直前までいって崩れ落ちた自分に誇れる自分になりたい。

そしてそのためにできることが、目標を達成して、早稲田に行って、早稲田の入学式で写真撮って、去年の自分に見せてあげることだけなのだろう。ありがとう、よく頑張ったね。あなたのおかげでわたしは今の自分になれたんだよって言ってあげる。山には頂上がひとつしかないみたいに、わたしができることはこれひとつしかない。

成功とは、過去と今が繋がっているとそう実感するということなのだろう。

受験勉強をしていて過去と現在、結果がばちりと繋がったと実感したときがある。記録を通して過去の頑張りが目に見えた時だ。わたしはいいしれぬ気持ちになった。いままでそういう気持ちになったことはなかった。何も考えずに現在あったことにだた反応し、思えば受動的な人生だったと思う。時間の経過とは無縁の人生だ。

そういう自分の生来の性質が変わったとか、それを貶すとかではない。ただ過去と現在が繋がったという感覚がありありとわかって、とても興奮したことをおぼえている。新しい感覚に触れたことに対する素直な感動というものもあった。とても元来的な勘当。うれしいでも涙が出るでもない。ただ実感がある。

だからほんとうの意味でいえば、早稲田に行きたいということは、去年の自分と早稲田生になった自分がちゃんと繋がってほしい、ということなのではないか。そしてそれが今年浪人を決意したほんとうの理由なのではないのか。
(たしかにわたしにとって早稲田生になるということは、たしかにかっこよくなりたいとか、理想の自分になりたいとかそういう表面的な理由だって誰にも負けないが。)

過去と現在は繋がる感覚は、成功によって肉体的なリアリティにちかい実感でそれを感じることができる。今いる自分は、去年の自分と、来年の四月、早稲田大学の入学式にいる自分をつなぐ役割をしているのではないか、といまは思う。高校三年生、18歳のあんなに輝いていた自分が繋がって、実感として得られるには、来年の四月、自分が早稲田大学の入学式にいるしかないのである。

そして早稲田にいる自分が現在になった時、浪人生の自分もまとめてアイドルになっていて、キラキラ輝いていた過去になっていてることを願って死に物狂いになって今を生きるしかいまはないのだと思う。

迎えにいくから待っていてね。報われなかった、ほんとうに輝いていたわたし。がんばってくれてありがとう。自信がなかった自分にかがやきをくれた。もうこれからは逃げない。こんどは絶対に報われよう。だから去年で一緒に頑張っていてね。

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