林檎の追憶

「ママ早くぅ!!」
「慌てないで!危ないよ!」
休みの度に通う街の小さな遊園地。娘のお気に入りは、子供達に大人気のりんごの馬車が走るメリーゴーランド。娘も私も大好きなこの憩いの場も今日で閉園。りんごの馬車…りんご…そういえばそろそろ…。
 
 夕暮れ時。乗り物全部乗って疲れて眠る娘をおぶって帰宅すると案の定。実家からりんごが届いてた。母が代々受け継いで育てて来たりんごだ。
 娘をベッドに寝かせ、さっそく箱から1つ取り出し、しっかり洗って包丁を入れてみた。心の中にふと、母と私の娘が交した他愛ない会話が響く。

「ん〜!!このりんご美味しい!こんな美味しいりんご作れるなんて、もしかしてお婆ちゃん、りんごから産まれたりんごの妖精さん?」
「おやまぁ、桃太郎さんみたいな例えだねぇ、妖精なんて綺麗なもんじゃないけど、お婆ちゃんはみ〜んなに美味しいりんごを食べさせたくて、りんごの事いっぱいお勉強したりんご博士ってとこかねぇ、フフフ!」
 そんな母は昨年、強力な台風の日、りんごが心配でこらえ切れなくなって、りんご園に出向いてしまって…それで…。想い馳せながらかじったりんごは…なんだが甘酸っぱい。
「あう〜…ママァ…ずるい…よぅ…。」
あらら。りんごの香りに引き寄せられたか、寝ていたはずの娘が起きて来て、私の切なさを吹き飛ばした。口の中にりんごの甘さが広がった。
 寝ぼけまなこの小さなお口に、甘いりんごをアーン!

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