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Base Ball Bear「日比谷ノンフィクションⅨ」ライブレポ

2022年5月15日、私は1つのライブを観に行きました。

それは、Base Ball Bearというバンドのライブ 「日比谷ノンフィクションⅨ」というもの。

かれこれファンになってから10年は悠に超えていた。が、
最近少しワンマンライブに行けていない気がしていた。

当日雨か~などと数日前まで悩んだものの、「まあでも久々に見たくなったし、予定もないし行ってみるか」と、

最終的には軽い気持ちで行くことに。言うて何回も観たことあるし。

しかしこの時は、そんな軽い気持ちは盛大に裏切られるとは知らず・・・

「日比谷ノンフィクション」とは?

まず、この「日比谷ノンフィクション」というライブのコンセプトを簡単に。

「日比谷ノンフィクション」とは、日比谷野外音楽堂を舞台に、
Base Ball Bear 主催のもと、ほぼ毎年行われているワンマンライブである。

時には自身のツアーと絡めたり、時にはゲストを招いたり、
Base Ball Bear本人のやりたいことをやる、一種の「お祭り」のようなライブとなっている。

2009年を第1回に、今回が9回目。
今回は引っさげられた作品等はなく、ということは新旧問わず色々聴けるんだろうな、と。
そしてBase Ball Bearの中でも大切に続けられてきたイベント、かつ今年はBase Ball Bear 結成20年!
そんなこともあり、軽い気持ちといえどある程度の緊張感をもって臨んだ。

M1-M4;オープニング、伝わる緊張感

Base Ball Bear の登場SEはいつもXTCと決まっている。
これは、自分が10代の頃から観てきたときからずっと変わらない。観客の手拍子が響く中、Dr. 堀之内大介(以下ホリくん)、Ba. 関根史織(以下関根嬢)、Vo.Gt 小出祐介(以下こいちゃん)が登場。
ホリくんのドラムセットがどんどん標高高くなっているような・・・ と、この時はそのくらいの気持ちだった。

1曲目は「BREEEEZE GIRL」、自分もコピーしたなー、と。
合わせたかのような涼しげな気候にピッタリ。ただ少し歌の感じからどこかただならぬ緊張感が伝わってきて、私も引き締まった気持ちになった。
2曲目は間髪入れず「いまは僕の目を見て」。
これは3人体制になってから作られた作品で、個人的にも結構気に入っている。この季節の変わり目に聴くにはピッタリ。

ライブは実に爽やかなスタートとなった。2曲演奏後MC。
開口一番、「降らないなー!」とこいちゃん。快晴とまではいかなくとも雨予報をはねのけたこの日。
Base Ball Bear がきっての晴れ男バンドなのは実はあまり知らなかった。

そして満員御礼となりかなりテンションが上がるこいちゃん。「満キャパ!」とこいちゃんが言うと手拍子で返ってくる、というBase Ball Bearのライブではあまりない軽いノリになり、「あれ?今のベボベってこんな感じ?」と少し嫌気がさしかけていたところ、「なんだこのノリ!怖い!」とこいちゃん自ら発言し一安心。
「自分でやったんでしょうが!」とお決まりのツッコミをホリくんがするのも、ベボベの定番である。

この少しくだけた雰囲気の中続けて演奏されたのは「そんなに好きじゃなかった」。
これは『29歳』というアルバムの表題曲のようなもの、元メンバーの湯浅将平主演の恋愛ドラマ仕立てのMVも印象的な、こいちゃんのユーモアが効いた一曲である。3人体制になってからもちょくちょくとやっている印象。
そしてそのまま「文化祭の夜」へ。このあたりは自分も少し聴くのが疎かになっていた反省ゾーンだったが徐々に暗くなっていく会場の雰囲気とも絶妙にマッチしながら、更に演奏が続いていく。

M5-M7;たまらない「転校生」のコラボ。

「文化祭の夜」から続けて演奏されたのは、なんと「(LIKE A)TRANSFER GIRL」。
これは『光源』というアルバムに収録されているアルバム曲で、そこまでメジャーな曲ではない。だがこのアルバム自体が、オリジナルメンバーであったGt. 湯浅将平の突然の脱退後、3人体制となって初めて作成されたフルアルバムであり、全曲未発表曲を収録。個人的にもとても印象に残っている。

写真を撮ろうとCDラック探したらすぐに出てきた。運命を感じる。

煌びやかな音色の反面どこか虚しさを感じるコントラストが美しい曲が多く、この「(LIKE A)TRANSFER GIRL」も例外ではない。まさかこのタイミングでライブで聴けると思っていなかったので、とても嬉しかった。

だがこれだけでは終わらず、続けて「Transfer Girl」を演奏。タイトルは似ているが作られた時期も曲調も全く異なり(Base Ball Bear ではよくある手口)、自分の好きな曲たちが滅多にない形で繋がれ、このライブ1度目の興奮を覚えた。

「Transfer Girl」は通称3.5thアルバムと呼ばれる『DETECTIVE BOYS』というアルバムに収録されている一曲であり、もう一つの3.5thアルバムである『CYPRESS GIRLS』と合わせて私がBase Ball Bear で一番大好きなアルバムである。(これら以下「3.5th」と記す)

一見同じアートワークに見えるが、CDジャケットの色が
CYPRESS〜が緑、DETECTIVE〜がピンク、という違いがある。

世間的に一番知られたであろう3rdフルアルバム『(WHAT IS THE) LOVE & POP』で駆け抜けた世界から少し離れ、当時メンバー4人のみのセルフプロデュースにより、ある種実験的に作られた2枚のアルバムがこの3.5thである。
3rdを当時ど真ん中で聴き、その後3.5thに出くわしたときの衝撃は未だに忘れられない。それほど革新的なサウンドが詰め込まれた2枚のアルバムであった。
繋げられた2つの「転校少女」のサウンドはあまりに美しく、まるで曲の生まれた時期の違いがある種タイムリープのように表現された様はとても感動的であった。

その後MC。ここで「緊張している」とこいちゃんが吐露。続けて「感慨を感じる、自分という人間が感慨を感じていることにも驚いている」と率直な感情を述べていた。
「感慨が現実のライブを追い越している」といったような表現をしていた気がするが、こういった表現のチョイスが好きでBase Ball Bear にハマったと言っても過言ではない。
「感慨のレベルを下げてくれ~」とホリくんに意味不明なお願いをするこいちゃん、「(ホリくんが)めちゃ面白い顔しているんですけど後ろの人見えます?」と振られたのは思わぬサプライズであった。(この日私はかなりの後方からの観賞だった。もちろん手を振り返す。笑)

「もっと喋ろうよ~」と駄々をこねるこいちゃんをよそに始まったのは「Cross Words」。3人体制になってから作られた作品で、3人のバランスがハマった落ち着いた曲調がとても心地よい。
思い返せばBase Ball Bearのライブはトークすっごい多かったなー、と少し懐かしい気持ちにもなった。

M8-M10;懐かしいアンセム。一体となる会場

「Cross Words」から「_touch」へと続く。これは最新アルバム『DIARY KEY』収録のアルバム曲で、そのアルバムツアーに行けずライブでは初めて聴くこととなった1曲ではあったが、摩訶不思議なイントロがクセになる特徴的なナンバー。こういう曲をアルバムに忍び込ませライブで演奏し、簡単に心を掴まれるあたり私も成長していないなーと思う。(良い意味で。笑)

さらに続けて演奏されたのは、「SIMAITAI」という一曲。
これは前述で世間で一番知られた、と触れた『(WHAT IS THE) LOVE & POP』に収録されているものの、アルバム曲であり世間の知名度はそれほど。しかし自分が足しげくライブに行っていたその当時はライブでよく演奏されていた、ある種の定番曲ではあった。
思わず手を上げて盛り上がってしまったが、自分のいた後方からは、この日一番の一体感に包まれた光景が見て取れた。

そこで思ったのは、ひょっとして今日ここに来ている人たちというのは、Base Ball Bearというものに自分と同じように触れ、育ってきた人たちなのではないか、ということ。
なまじ長い期間活動しているバンドとなると、ファン層もバラバラで追いかけている期間も異なるような客層でライブ会場が作られていくことは珍しくない。ただこの「SIMAITAI」から感じられた空気、自分も久々に聴いたもののバッチリその空気に入り込めたこと。確証はないけれど、そこに懐かしい気持ちを感じたことは、きっと今日の日比谷に来た人は同じことを感じたんじゃないかな、とそんなフワッとした一体感を感じることができた。

ぼちぼち前半ラストか、というところで演奏されたのは「初恋」。薄暮の中で放たれたこの1曲は美しさ、懐かしさで私の心は爆発してしまった。
この曲は同名のEP『初恋』に収録。あまりにサウンドは美しく、完成後こいちゃんが歌詞を全て書き直す、といった経緯もあるほどダイナミックな制作を経ている。『GIRL FRIEND』以来のEPということもあり、少し特異なポジションでリリースされたことも印象的だ。
ちょうど2012年夏はじまりたて頃のリリースで、当時自分も10代。この甘酸っぱいサウンドがほろ苦い青春に突き刺さりすぎて未だにその刃が抜けていないほど(過剰表現)、このライブで聴けたことはこいちゃんの言葉を借りるなら「感慨が現実をはるかに追い越してしまった」であった。
ちょうど小雨もぱらついたことでカラフルな照明も適度に潤いを持ち、幻想的な風景となったことも非常に印象的であった。

M11-M14;ゲストコーナーはサプライズの連続

1人目・・・予想もつかない「売れっ子声優の登場」

「初恋」が終わったところで喋り始めるこいちゃん。

「この日比谷ノンフィクション、これまでも対バン形式やゲストに来てもらったり、色々好きにやりました・・・今回もゲストを呼んでおります!

おおっ!
公式にはアナウンスはされていなかったが、やはりゲストが!

ここでササっと脳内で予想を始める私・・・

(RHYMESTER出てきて『The Cut』やっちゃうか?『kimino-me』聴きたいけどサカナクションは今東京いないし・・・呂布とのコラボも観たい!来てくれたらかなり久しぶりなんじゃないか?)

などとブツブツ考えている頃、こいちゃんは1人目のゲストの説明を始めている。

「もう9年前くらいですね、それ以来で、ライブの共演は初めてで・・・」

ここで私の脳内は混乱する。あれ?過去のイベントで一通りコラボ系は共演を果たしていたような・・・



こいちゃん「花澤香菜さんです!!」



は!?




花澤香菜!?!?!?!?




完全に忘れてしまっていた。
Base Ball Bearと花澤香菜といえばシングル『The Cut』のカップリング曲『恋する感覚』でコラボをしている。聴いたこともあり好きな曲ではあったが、まさかライブでの共演はないだろう、とどこか勝手に思い込みをしてしまっていた。
会場からも驚きまじりの歓声が思わずこぼれる。

花澤香菜「ちょっと~!早く呼んでくださいよ~!緊張するんですから~!」と小走りで登場。本人たちも言っていたが、イベントの雰囲気が少し変わったことが面白かった。

こいちゃんも「花澤さんは僕たちのライブではやらないようなことをやってくれる、ほらこうやって手振ったりとか」と言うや否や、花澤香菜「じゃあウェーブとかしますか?」と。

かくして、Base Ball Bear のライブでウェーブをすることになった。笑
後にも先にも、これが最初で最後かもしれない。

花澤香菜は続けて「RHYMESTERとのコラボのライブを見て、私も『恋する感覚』というカードを持ってるのに・・・と思った」と発言。
前述の通り、9年越しの初共演である。これはとんでもないところに居合わせてしまった、とまたしても感じてしまった。

そうして「恋する感覚」の演奏が始まる。
演奏が始まって改めて、うわ本当に本人でコラボをしている・・・と圧倒されてしまった。曲調はタイトルからも連想される通り春風感じる爽やかな感じ。花澤香菜の歌は生で聴いたのはこれが初めてだったが、ずっとイヤホン越しで聴いて感じてきた、つもりであったハーモニーが目の前で演奏されている光景はやはり何度聴いても目を、耳を疑ってやまない瞬間であった。

花澤香菜はこの1曲で出番終了。「また次のライブで!約束したからね!」と送り出すこいちゃんであった。

2人目・・・日比谷といえばジャパニーズ・ラップ。最新アルバムから「ギャルの登場」

続いて登場したのはラッパーのvalknee(バルニー)。アルバム『DIARY KEY』でコラボした楽曲「生活PRISM」を披露。

イントロを演奏しながら、こいちゃんが「ここはラップの聖地だから、あの曲やっちゃう?」という誘いから入り、valkneeも「あのキャンプの聖地ですしね?やりましょう!」と答える。

かつて日比谷野外音楽堂で行われたヒップホップイベント「さんピンCAMP」に触れながら、メンバーは軽快なリズムを、valkneeはステージを練り歩きながらラップを刻んでいく。思えばこういったラップ調の曲が出始めたのも3.5thアルバムからであった。その当時も、そして今回も意外とも取れるコンビネーションは私の中でもとてもクセになり、Base Ball Bearにしては珍しい縦ノリのこの「生活PRISM」は少し懐かしい気持ちも感じた、心地よい演奏であった。

3人目・・・ラップコーナーは続く。Base Ball Bearといえばあの「旧知のラッパー」

「ベボベファンの皆さん、お久しぶりです!」

そんな挨拶とともに次いで登場したのは、ラッパーの呂布。
(世間的にはKANDYTOWNの "ryohu" なのかもしれないが、ここでは以下 "呂布" と記す)

Base Ball Bearと呂布といえば、もう何度も触れている3.5thアルバムにて初共演。当時爽やかなギターロックを奏でていたBase Ball Bearと、ラップど真ん中である呂布とのコラボはあまりに新鮮であった。3.5thが異常に私の心の中に響き続けているのは、この呂布の存在なしでは説明不可能である。

3.5thアルバムが作られたのが2010年、その当時呂布はまだ10代。
こいちゃん「出会った頃は19歳で、前日比谷出てくれた時、バスケットボールつきながら来てくれた呂布くんももう30代!もはやタメだね(笑)」
ホリくん「バスケットボールつきながら来たの、本当だからね?」
呂布「そうそう、渋谷あたりからね。今日は車で来ました!」

そんな久しぶりの再会を喜ぶような語らいも交えながら、コラボ曲「歌ってるんだBaby.(1+1=new1 ver.)」の演奏が始まった。これはもちろん3.5th『CYPRESS GIRLS』からの1曲。この曲は呂布のラップはもちろん、こいちゃん歌唱、関根嬢歌唱と様々な景色を交えながら展開される曲なのでとても楽しい。少しずつ深みが増していく都会の夜の空にぴったり合う1曲だ。

Base Ball Bearと呂布、このコラボとその後数年のライブでの共演はあったものの、それ以降はお互いそれぞれの音楽の道を歩んでいたような印象であった。それもあって、出てくれるだろうと少し予想がついていた部分があったとはいえ、改めて共演している様子を目の当たりにすると彼らの深い絆を感じずにはいられなかった。

4人目・・・最後のゲストは長年の親友にして「つまらない代役」

演奏を終えてもステージ上に残る呂布。ここでこいちゃんが口を開く。

こいちゃん「えー、ここでですね、最後のゲストの方お呼びしたくて、せっかく呂布くんが来てくれているのであの曲をやろうと思っているのですが、えーなのであの人をお呼びしたいんですが、名前を言ってしまうと、福岡晃子さんという方なんですけども。」

簡単な話である。
「あの曲」というのはまたしても3.5thアルバム『DETECTIVE BOYS』の方に収録されている「クチビル・ディテクティヴ」であろう。この曲はBase Ball Bear &acco , 呂布 による共作であり、このaccoというのが福岡晃子であり、言わずと知れたチャットモンチーのベーシスト、福岡晃子である。


こいちゃん「ただ福岡晃子さんなんですが、ちょっと今日別の仕事があるから出られない、と。そこで、『代役立ててもいい?』と聞いてみたところ、了承得られまして、今日はその代役の方に、来てもらってまして。何やら福岡さんのインターネットの友達?とのことで」


あらら。共演は夢となったようだが、代役が来るらしい。しかしこの曲、そんな簡単に代役は務まるのだろうか?そしてインターネットの友達って・・・普通に音楽仲間とかではなくて?


こいちゃん「まあ・・・インターネットの友達ですね・・・チャットの・・・友達・・・チャット・・・もだち・・・んちー、みたいな・・・」





え?






こいちゃん「橋本絵莉子さんです!!





は!!!!



橋本絵莉子だと!?!?!?!?




私も開いた口がふさがらず、もはや悲鳴にも近い歓声が所々で漏れる中登場したのは、なんとチャットモンチーのフロントマン、橋本絵莉子であった。

本当に、あの橋本絵莉子・・・えっちゃんがステージに登場した。私が最後にえっちゃんを見たのが武道館でのチャットモンチーラストライブの時。きっと今後そう簡単にライブなどで目にすることはできないだろう、と思っていた、あのえっちゃんが、ステージの上にいるではないか。

Base Ball Bearとチャットモンチー、という両者も昔から非常に親交が深く、両バンドとシュノーケルというバンドも交え「若若男女サマーツアー」というイベントを何度も開催し、チャットモンチー主催のイベント「こなそんフェス」の最後の回で、前述のシュノーケルと共にチャットモンチーの「シャングリラ」を演奏しチャットモンチーの門出を祝っていたことも記憶に新しい。
それほど両バンドの歴史の中で欠かすことのできない、そして半ば伝説的となりつつある両者の共演が、この橋本絵莉子という「代役」の登場で、再び蘇ったのであった。

ステージに出てきたえっちゃん、何を口にするかと思えば「インターネットの友達って・・・そういうことかー!」と相変わらずのえっちゃん節。そんな中こいちゃんが福岡晃子との共作を振り返る。

「チャットモンチーの、ボーカルの人にやってもらったらつまらないからベースの人にその当時頼んだのに、ボーカルの人来ちゃったよ(笑)」

確かに「クチビル・ディテクティヴ」という曲は、その当時私も何の前情報なしに聴いた時、「この声誰だ!?」となって一気に引き込まれた記憶がある。今回のこのコラボは、登場こそサプライズで舞い上がったものの、一体どう演奏されるのか?ハラハラする気持ちもどこか心の片隅にあった。

そしてこの曲の歌いだしはaccoパートである。つまりこの日はえっちゃんの歌から始まる。accoとえっちゃんの声質は全く異なることもあって、どうなるのか全く想像できない。いよいよ演奏が始まる。その瞬間、会場は静寂に包まれた。

"くちびるディテクティヴ あなただけに 
  ドキドキするのよこの胸  Kiss me"

・・・『クチビル・ディテクティヴ』歌い出しの歌詞

正真正銘、あの、橋本絵莉子の力強い歌声であった。歌いだしだけで、ここから始まるこの数分は、とんでもないことになる。ひと時も逃してはいけない・・・ある種の覚悟のような感情が心の中に芽生えた。続けて原曲通り、こいちゃんパート、呂布のラップへと続いていく。

聴いていてまず驚いたのが、自分の心の中で呂布のラップパートがスラスラと出てくることだった。確かこの曲は本人たちはおろか、Base Ball Bearのメンバーのみでのライブで聴いたこともほとんど記憶がなかった。しかしそれまでにイヤホン越しに何度も何度も聴いてきたことは間違いない。それがラップパートまでも脳内に刻み込まれるまでに、この曲への思いの深さを改めて感じた。
そして呂布のラップが展開される中で、今まで自分の思い出・・・初めて聴いたときの衝撃から、大人になった今でも聴き続けてきたことまで、全てが脳内で一気にフラッシュバックするような、滝に埋もれるような感覚になった。その感覚というのは、今まで何度もBase Ball Bearのライブに行ってきたはずの中でも感じたことがない、特別な感情だった。

この曲も前曲同様、様々な歌唱・ラップパートが織り交ぜられ、景色がめまぐるしく変わっていく。そんな中、代役であるはずのえっちゃんもこいちゃんとのハモリもバッチリで、二人が寄り添って歌う光景はオリジナルのMVさながら、完璧なパフォーマンスであった。彼らの友情なしでは不可能なステージだった。

かくして豪華絢爛なゲストコーナーは幕を閉じ、いよいよライブは大詰めへ。あたりも徐々に夜の深みを増してきている。


M15-16;10年前と、今

「皆にも、そして二人にも聞いてほしいんだけど、10年前くらいは、俺が全部曲作って、俺がバンド引っ張って、俺のおかげでバンドができてる、とすごい思いあがってた。でも今改めて思うと1人じゃ曲はできないしライブもできない。やっぱりメンバーやスタッフさん、今日出てくれたような仲間や来てくれているお客さんとかのおかげで、こうやってバンドが続けられているな、と思いました。本当にありがとうございます。

そんなこいちゃんのMCとともに演奏が始まったのは、「Tabibito In The Dark」
まさに、このこいちゃんの話の中であった、10年前頃に作られた曲である。

確かに、その10年前頃というのは、こいちゃんはかなりの自信家だったと思う。俺がこのメジャーデビューまで引っ張ってきた、ギターは湯浅より俺の方が上手い!などなど、、、そんな本人の言葉も聞いた記憶がある。一方で、私はそんなこいちゃんが当時(もちろん今も)とても好きだった。フロントマンとして毅然とした振る舞いというのはバンドに欠かせないのだな、とよく思ったものである。

ただやはりライブで観客を煽ったりと盛り上げていくのはホリくんだし、何より驚いたのはライブ中関根嬢が喋る喋る!前からこんなだったっけ?と思うほど、MCなどでコミュニケーションに参加してきていたのは1つ大きな変化だったように思う。そういったところにもあるように、こいちゃん自身の気持ちの変化が、バンドを更に良い方向へと導いているのかもしれない、とここまでのパフォーマンスを見て思った。

そしてこの「Tabibito In The Dark」は、そんなMCを聞いたあとだからか、これまで聴いてきた同曲とはまた違った気持ちで受け止めていた。その時その時を彩ってきたこの曲は、この時は10年分の駆け抜けてきた景色を全てまとい、この日比谷の地に解き放つような美しさがあった。

"踊れ 踊れ 何もかも忘れて 踊れ 音の中で
 笑え 笑え すべてを振り切るように 笑え いま dance and dance"

・・・『Tabibito in the dark』サビの一節より

「Tabibito In The Dark」にはいわゆる1番2番という構成はなく、最初のサビが来たらそのままラスサビ、アウトロまで突っ走っていく。この日もひとたび曲が走り出したら最後、少しだけ粒の大きくなった雨がまたしても照明と交わり、色彩豊かに揺れる客席を包み込んでいった。

その勢いのまま大ラス「レモンスカッシュ感覚」へと続いていく。これも前に演奏された「SIMAITAI」と同じく3rdアルバム収録の1曲でありライブでは定番、ただ3人体制となってからはライブ初披露だったかもしれない。
長くライブに参加してきた人ならおなじみの「レモンスカッシュ感覚」だが、思えば私も、Base Ball Bearを追いかけながらこの「レモンスカッシュ感覚」を探し続け、そしてそれは結局今でも分からないけれど、きっと今後も追い続ける、いや追い続けたい。Base Ball Bearがこの先バンドを続けていく中で見せてくれる景色を見続けたい。そんなことを思わせる一曲だった。

「ありがとうBase Ball Bearでした!」

いつも終わりはこいちゃんのこの勢いのあるセリフ。そして鳴り止まない拍手、少し前のめりなアンコール。ああ本当に懐かしい。来てよかった。万感の思いでいっぱいだった。

En1-2;重大発表、、、

あまり間をあけずにステージへ再登場したメンバー3人。ここでこいちゃんが、これまでの勢いと裏腹に神妙な面持ちで話し始める。

「大切なお知らせがあります。我々も結成20周年という節目を迎えまして、僕も色々考えるところがありまして、メンバーやスタッフとも協議を重ねまして、一つの決断をしました。」

などというこのパフォーマンスは、結構こいちゃんの常套手段である。この後にやれ新作決定だの、ツアー発表だの、これまで何度となく目にしてきた。

だがこの時は、何か独特な間であったりというのもあり、どこか胸騒ぎがあった。そしてこの日ゲストで登場したチャットモンチーの橋本絵莉子のことを思い出し、一つよくないことを想像してしまった。

Base Ball Bearの大親友であるバンド、チャットモンチーも、バンドとして盛りを迎えるタイミングで一人の重要なメンバーが欠けてしまった。初期から参加していたドラムの高橋久美子である。ドラムのみならず作詞でも数々の名作を残し、バンドにとってなくてはならない存在であった。
高橋久美子が脱退して以降、残された2人で作品をリリースしたりサポートを交えながらライブも続けたりしていたが、2018年に解散。脱退が解散の直接的な理由ではないとは思うが、バンドとしての潮目になった面は少なからずあったのか。当時はそんなことを思い、そしてこの時もそんなことが少し頭をよぎってしまった。

ひとしきり悪い知らせを受け入れる準備はしたつもりであったが、こいちゃんが重い口を開く。





「それがこちらです!」





ドンッ‼︎




アンコール前に段幕のあたりいじってるな〜と思ったら、、、





いやあああああああああああ!!!!!!!

武道館だとおおおおおおおお!!!!!!!





煽り抜きで、本当に会場全体がこんな感じだった。
飛び跳ねる者、顔を覆う者、、、前方の女子二人組は抱き合っていた。私は今日何度目だろうか、開いた口がふさがらない。ある程度気持ちが静まるまで時間もかかり、改めて見返す。本当に、「日本武道館 開催決定」と書いてある。



実は撮影許可タイム。「あ、じゃあそういえばポーズでも取りますか。てか俺今日ここ上ってないんだよ!」とドラムセット前の壇上にのぼり、会場のざわめきはどこ吹く風でポーズを取るメンバーの皆様。


Base Ball Bearと武道館、といえば、こちらも日比谷ノンフィクションとまではいかなくとも過去にライブがあり、といっても2010年と2012年の2回で、ここ数年は行われていない。ファンの間では半ば伝説的になりつつあるベボベ武道館に対し、メンバーにとっても世間的に風当りの少し強かった過去があったりと、少々ほろ苦い経験がある。こいちゃんがこのMCの中で「武道館は挑戦の場」と言っていたことから、今回のこの決断は確かにかなりの悩みがあったであろうことが伝わった。

「なんかこの光景みて思い出したんですけど、ほら、スマホのライト点けてさ、花火師さんとかにありがとう~みたいにやるやつ、あれどんな感じなんだろう、やってもらえます?」

どさくさにリクエストをぶっこむこいちゃん、もう何が何だか分からずライトを点ける客席。綺麗なのもあったがウェーブに続きまたしてもBase Ball Bearではあまり見かけない光景に少ししみじみ。

こいちゃん「おお~すごいですね~というかこんなに多くの人に見てもらえてたんですね~ありがとうございます。あーじゃあなんかこれ今綺麗なんで、このまま次の曲やりましょうか、ね。」
関根嬢「そうかなあ…笑」

もうこの人たちの言うことは何もわからない、次の展開を想像することを諦めた瞬間、ヘビーなベースのイントロが始まり演奏されたのは「Stairway Generation」であった。
全然雰囲気と合わねえ!笑 ただもうここまで来たらもう何でも楽しい。突っ走る演奏と全くライトを落とす雰囲気のない客席のコラボレーションは、またしてもこれまで見たことのないBase Ball Bearの表情を映しだしたのであった。そして武道館公演発表のあとの「Stairway Generation」、"上がるしかないようだ Stairway" という歌詞は、まさに武道館という挑戦の場に向かう3人の覚悟が乗った言葉のように感じられた。

「ありがとうBase Ball Bearでした!」

アンコールラストは「Perfect Blue」。1stベストアルバムがリリースされた直後のシングルで、これもある意味節目のナンバーだと思われる1曲である。(MVでは、本田翼が過去作のMVをパロディする演出がある)
そして曲中ラストで"もうすぐ夏がくる" という歌詞があり、何よりも「夏の始まりを告げる曲」だ。季節は5月。まだ暦の上では夏はまだ遠いが、武道館公演も決まり、ここからBase Ball Bear 結成20周年の「夏」が来る。この日比谷という地での時間は終わりを迎えるが、またここから続きを予感させる幕の閉じ方はとても清々しい大団円となった。


「ありがとうBase Ball Bearでした!」


セットリスト

01. BREEEZE GIRL (2009)
02. いまは僕の目を見て (2019)
03. そんなに好きじゃなかった (2014)
04. 文化祭の夜 (2015)
05. (LIKE A)TRANSFER GIRL (2017)
06. Transfer Girl (2010)
07. Cross Words (2020)
08. _touch (2021)
09. SIMAITAI (2009)
10. 初恋 (2012)
11. 恋する感覚 with 花澤香菜 (2013)
12. 生活PRISM with valknee (2021)
13. 歌ってるんだBaby(1+1+new1 ver.) with 呂布 (2010)
14. クチビル・ディテクティヴ with 橋本絵莉子、呂布 (2010)
15. Tabibito In The Dark (2011)
16. レモンスカッシュ感覚 (2009)
En1. Stairway Generation (2009)
En2. Perfect Blue (2013)

演奏された曲に、リリース年を追記。改めて振り返ると、2ndフルアルバム『17才」以前の楽曲の演奏はなし。結成20年キャリアのうち、中盤~後半の作品のみの構成となった。まるでその頃をリアルタイムで追いかけていた私の狙い撃ちするようなセットリストであった。

さいごに

最初の気持ちを改めて思い出してみると、

「まあでも久々に見たくなったし、予定もないし行ってみるか」

そして、終わってみて(さらに今寄稿している日はライブからおよそ1週間経っているが)どうか。

呆気に取られすぎて、今でもその余韻が残っている。これまで見たBase Ball Bearのライブの中で最も衝撃的で、思い出深いものとなった。

これまでのライブで聴くことがなく今回初めて聴くことができた楽曲はもちろん、何度も聴いてきたはずの楽曲たちは、積年の思いが弾けたりバンドも3人体制となって培われた新たな魅力を感じるものになっていた。少しライブに行くことなどを疎かにしてしまっていたことを反省するとともに、10代の頃追いかけてきたBase Ball Bearは、まだそこに燦然と、なんなら更なるパワーアップした姿で日比谷に降り立っていた。

そして武道館。前回の武道館は2012年で、自分はまだ高校生だった。行くことは叶わず指をくわえてみていたが、いつかは行けるだろう、とたかをくくっていた。それからメンバーの脱退などもありなかなか実現することはなく、満を持しての結成20周年の最終日にその時がやってくる。武道館だから、ということではあってはならないのかもしれないが、本当の本当のBase Ball Bearの20年の集大成を、必ずしもこの目で見届けたい。今はその思いでいっぱいだ。

日比谷ノンフィクションも、9回目にしてようやくの初参加であったが、今となってはあの行く前の自分の軽い気持ちを褒めたたえたい。ありがとう日比谷。ありがとうBase Ball Bear。


さあ、「もうすぐ夏がくる」。







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