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だんだん痛い

シナモンロールも好き。
外側からくるくる、少しずつ剥がして食べて、シナモンもとろけたお砂糖も、だんだんだんだん濃くなっていくのが幸せ。
ロールの「芯」に辿り着いたこの最後の一口の完璧さよ。

そんなことを考えていると、一年間さぼりにさぼって、つい先週やっとの思いで再開した医療脱毛のことを思い出した。

2年前に10回契約で始めて、わたし史上最強の「痛い」を更新した大悪魔。
はじめての施術の日から、あまりの痛さに涙が出て、「『ゴムで弾かれているような』なんて嘘。『10万ボルトの電気の流れた超鋭い針をおじいちゃんの持ってるタッカー(工具用ホッチキス)でバチンバチンやられてるよう』じゃないか……」と地獄を見た。「個人差」ってやつは本当に恐ろしいと思った。

特に痛みの強い脇やVIOをやるときは、看護師さんが言ってくれるのです。
「いちばんお痛みの少ないところから始めますね〜。これは我慢できそうですか〜?続けますね〜。次の一列、いちばんお痛み強いところです〜。当てますね〜。はい、ここから少しずつお痛み少なくなります〜。」(優しい)

「いちばんお痛みの少ないところ」から始めてくれているのに、もう毎回その時点で、「……!すっすみませんお姉さん!わたしっ、わたしっ!これより痛い痛みを知りませんっ…!!(涙)」という気持ちになる。そしてその痛みは、看護師さんの言うとおり、だんだんと強くなっていき、毎秒毎秒一照射ごとに「最強痛い」を更新してゆく。こちとらハラハラドキドキ汗ダラダラである。とにかく全身にこれでもかと力を入れ、どうにか「痛み」を跳ね除けようとするが、いつも無駄な抵抗に終わる。

それなら、いっちばん痛いところから始めてくれたほうが、わたしはまだ耐えられるのではないかと、シナモンロールを食べながら思った。
きっと照射の順番はあらかじめ決まっているから、勝手に変えることなんてできないのだろうけど、もしかするとわたしはそのほうが得意かもしれない。もしそうなれば、わたしは心の中で唱え続けるだろう。「……っ!!!!!!次はこれよりまし次はこれよりまし次はこれより……!!!」って。


「いちごはヘタの方から食べたほうがおいしいらしいよ。下にいくにつれてだんだん甘くなるからだって」友人といちご狩りにいったとき、いちごを頬張りながら自慢げに教えてあげると、「でもそんなふうに一口で食べるんじゃ意味ないんじゃない」と言われ時が止まった。


「エクレアはチョコレートの側を下にして食べるのがいいって知ってる?」

「知ってるよ。シュークリームみたいなことでしょう」

「シュークリームを上下逆にして食べるのはクリームがこぼれにくくなるからだよ」

「エクレアもそうじゃないの?」

「それもあるけど、別の理由がある」

「どんな理由?」

「チョコレートの側を下にして食べると、口に入れたときにチョコレートが舌に当たって溶けるから、よりチョコレートを感じられて美味しいんだって」

「なるほど。お寿司みたいなことか」

「お寿司?」

(以下略)


今思えば、あんなにも痛いことをそれでも一思いに7回キチンと通ったのに、どうして8回目に踏み切るのに一年もかかってしまったのだろう。

しかも今回はついに麻酔(別料金)に手を出してしまったし、大金を費やしたのにもったいないという気持ちから意地でも照射レベルは下げなかったのに、ここまできて2回も下げてもらった。

麻酔をしてもしっかり痛かったし、レベルを下げてもいつまでも痛かったし、どうせ痛いなら麻酔もせずにレベルも元のままでよかったのではとも思うけれど、今更。

一度甘えてしまったら、わたしは次回も麻酔をせずにはいられないだろうし、レベルもどんどん下げてもらうだろうな。もしかすると、あれより痛いかもしれないことを想像するほうが、別料金より効果が薄れることより、はるかに恐ろしいからである。

だんだん痛いは大不得意。

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