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【好きな詩】

『十月の言葉』

十月はやさしくて甘い
山の湖のやうに空が碧く澄んで薔薇の花に思ひ出の匂ひがある

月は一段高い道を渡り星はしきりに目(また)たいて人の心に呼びかける

太陽は遠くから照らして天国の気温でものを暖める

十月はやさしくて豊かだ
昨日の夏は何処へ行つたか?
華奢の夏?
奔放の夏?
心はもとの港へ帰つて過ぎた航海の思ひ出を愉しむ

十月はやさしくてしとやかだ
色づいた木の葉 草の葉 咲き残る季節の花々
どれもみな姿あかるく
どれもみな心さびしい

風が吹く
朝(あした)つめたく風が吹く
夕ふべわびしく…

   堀口大学

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