【臨床疑問】低Na血症と張度と浸透圧

偽性低Na血症などの特殊な低Na血症を診断するために血清浸透圧で区別できるのかという話です。
参考文献:up to date、より理解を深める!体液電解質異常と輸液より

ポイント
・張度 tonicity ≠ 浸透圧 osmolalityであり、水分の移動に重要なのは張度
・血清浸透圧が正常〜高値でも低張性低Na血症のことがある
・いわゆる偽性低Na血症は等張性低Na血症のことを指す

<前提知識>
・血清浸透圧は、通常275~295 mosm/kgの範囲
・一般的な低Na血症では通常低くなる(いわゆる低張性低Na血症
・低Na血症の鑑別アルゴリズムでも最初のステップとして血清浸透圧が低いかどうかで低張性かそうでないか(等張性、高張性)を区別する方法が記載されています

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・ここで言う低張性、等張性、高張性の張は張度を指すことに注意です

張度 tonicity(有効血漿浸透圧)は、細胞質を通過しない物質の濃度を反映する(そのほとんどがNaで、血糖、Kもわずかに寄与する)
浸透圧 osmolalityは、細胞質を通過するものも含む(Na、血糖、Kに加えて、BUN、エタノール、その他のアルコール、グリコールなども)
・細胞質を通過する物質は細胞膜を超えて平衡となるため、水の移動には影響を与えない
➔水の移動を考えるに当たって重要なのは張度

以下で計算されます。
浸透圧=Na×2+Gul/18+BUN/2.8
張度=測定された血清浸透圧ーBUN/2.8

<浸透圧は正常〜上昇だが、低張性低Na血症になるとき>
・BUNが上昇すると浸透圧は上がるが、張度は上がらない
・測定した浸透圧が正常〜高い場合に等張性または高張性低Na血症が疑われるが、BUN、アルコール類などが血中に多く存在する場合は、低張性低Na血症となる

<特殊な低Na①:高張性低Na血症 Hypertonic hyponatremia>
・グルコースなどの上昇により、張度が上昇し、細胞内➔細胞外に水が移動し低Naとなる
・BS 100mg/dLごとにNaが2 mEq/L下がる
・この病態を起こしうるのは以下
○高血糖
○外因性溶質によるもの
・マンニトール
・IVIG
○外科的洗浄剤によるもの
・経尿道的処置、子宮鏡、腹腔鏡などで使用されるグリシン、ソルビトール、マンニトール洗浄液の吸収により生じる

<特殊な低Na②:等張性低Na血症 Isotonic hyponatremia(偽性低Na血症 pseudonatremia)>
・中性脂肪のような非水成分を含めてNaを測定することにより、水分画の中では正常濃度であっても、中性脂肪を加えた全体では見かけ上、低濃度と測定される(検査上の低Na)
・この病態が起きうるのは以下
○高TG血症
○高コレステロール血症
○パラプロテイン血症(多発性骨髄腫などの免疫グロブリン過剰)

※おまけ:腎不全患者における透析による低Na血症の急激な補正ではODSが起きにくいという話
・尿素は細胞膜を自由に通過できるため、張度を形成しない
・BBBのみ通過しにくいため、一時的に張度を形成する
・透析による細胞外液の尿素低下は張度を低下させるが、低Naの改善による張度の上昇と相殺し、ODSの発症から保護していると考えられている

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