長引くしゃっくり(吃逆)

しゃっくりは医学用語では吃逆(きつぎゃく)と言います。ほとんどの方が吃逆を経験したことがあると思いますが、長引く吃逆には病気が隠れているかもしれません。長引く吃逆のアプローチを紹介します。
Aliment Pharmacol Ther 2015(PMID: 26307025)、Aneth Analg 2017(PMID: 28759492)、BMJ Support Palliat Care 2018(PMID: 28705925)up to dateより

【ポイント】
・48時間以上続く吃逆は器質的原因の評価するべき
・吃逆の反射弓のどこかの部位が障害されると吃逆が生じる
・原因は、中枢神経由来、末梢神経由来(消化器系、循環器系、呼吸器系、耳鼻科系)、その他と多岐に渡る
・問診、診察で当たりをつけて検査(頭部MRIや上部消化管内視鏡など)を行う
・薬物治療は、まずはPPI、メトクロプラミド、バクロフェン、ガバペンチンあたりを考慮する(漢方薬を試すのも可)

<いつ背景疾患を調べるべきか>

・短時間(数分間)の吃逆はほとんどの人が経験するもので一般的
・48時間未満で消失するようであれば、通常、重大な疾患が原因ではない
持続性吃逆(48時間以上)難治性吃逆(1ヶ月以上)は器質的原因を評価すべき
・睡眠中も持続する吃逆も精査したほうがよい
・持続する吃逆は、食事、睡眠、会話の阻害、疲労、精神的ストレスの原因になり、QOLを大きく損ねるため治療も考慮する

<病態生理>

・吃逆は、横隔膜と肋間筋のミオクロニー収縮で生じる
吃逆の反射弓は、①求心性線維、②吃逆中枢、③遠心性線維で構成される
①求心性線維:迷走神経、横隔神経、交感神経(Th6~12)から成る
②吃逆中枢:上部脊髄(C3~5)、呼吸中枢近くの延髄の脳幹、網様体、視床下部から成る
 ドパミンGABAなどの神経伝達物質により吃逆中枢の調整が行われる
③遠心性線維:横隔神経(横隔膜の収縮)、副神経(肋間筋の収縮)、迷走神経の反回喉頭枝(最後に声門閉鎖に関わる)

Aliment Pharmacol Ther 2015
Aneth Analg 2017

<原因>

吃逆の反射弓のいずれかの部位に物理的圧迫、炎症、虚血などの障害があると吃逆が生じる
・最も一般的な原因は、大量の食事、炭酸飲料による胃の膨張
・唐辛子、アルコール、喫煙など胃や肺への刺激物によっても引き起こされることがある
・過度の興奮や不安によっても吃逆が引き起こされる場合もある(特に過呼吸や空気嚥下を伴う場合)
持続性や難治性吃逆は、器質的な異常を特定するために精査をする必要がある
・持続性、難治性吃逆は、多くの場合、上部消化管または中枢神経系の疾患に関連している
・単に心理的な背景を持つだけのこともある

中枢神経由来

○血管:脳血管疾患(特にWallenberg symd.)
○炎症:髄膜炎、脳炎
○構造:脳腫瘍、頭蓋内損傷
○その他:多発性硬化症、視神経脊髄炎、パーキンソン病、てんかん
※吃逆が神経疾患の唯一の症状であることは非常にまれ

末梢神経由来

○消化器系
逆流性食道炎、食道裂孔ヘルニア、食道がん、胃の膨張、消化性潰瘍、膵炎、腹部膿瘍、腹部腫瘤、腸閉塞

○循環器系
心筋虚血、心膜炎、胸部大動脈瘤

○呼吸器系
気管支炎、肺炎、喘息、気管支癌、結核、COVID-19

○耳鼻科領域
帯状疱疹、鼻炎、中耳炎、咽頭炎、鼻や耳の異物

その他

○代謝異常
電解質異常:低Na血症、低K血症、低Ca血症
低CO2血症、尿毒症、糖尿病、アルコール

○薬剤性
ステロイド(特にデキサメサゾン)、ドパミン作動薬、化学療法(プラチナ製剤)、ベンゾジアゼピン系、オピオイド、バルビツレート、抗生物質(マクロライドなど)、麻酔薬

○物理的要因
気管挿管、胸部、上腹部外科、内視鏡検査、中心静脈カテーテル留置

○精神
不安、興奮、ストレス、恐怖

持続する吃逆の原因

<原因検索>

・吃逆の反射弓の経路が長く、吃逆中枢も広範囲なため、原因を絞るのが困難なこともある
・問診、身体診察であたりをつけて検査を行う
※特にどのシステム(中枢神経系、消化器系、心血管系、呼吸器系、耳鼻科系)由来なのかを推測することが重要だと思われます!

●問診
一般的な問診事項に加えて、
投薬歴(処方薬、市販薬)、嗜好歴(アルコール、喫煙、レクレーショナルドラッグ)
検査治療歴手術歴

●身体診察
一般的な診察に加えて、
耳、喉、鼻、首の診察
胸部、腹部の診察
神経所見(特に後方循環系の診察)

●検査
問診、身体診察から必要に応じて以下を施行
・血液検査(電解質、腎機能)
・心電図
・頭部、胸部、腹部CT(吃逆の反射弓に沿った画像検査
頭部MRI
上部消化管内視鏡検査

<治療>

理学療法

※急性の吃逆発作の短縮のために有効であり、持続性・難治性吃逆には無効
○鼻咽頭刺激
酢の鼻腔内投与、刺激物の吸入(アンモニア、エーテルなど)、口腔咽頭刺激(氷水など)
○迷走神経刺激
顔に冷たいものを当てる、頸動脈マッサージ、恐怖を誘発、嘔吐を誘発
○呼吸操作
息止め、バルサルバ法、CPAPの使用

薬物治療

吃逆中枢を調整するドパミン作動性受容体、GABA作動性受容体に作用する薬剤が使用される

中枢神経系が原因(または疑われる場合)
○バクロフェン(GABA作動薬)5-20mg 1日3回
・小規模なRCTあり

○ガバペンチン(GABA誘導体)300-600mg 1日3回
代替薬:プレガバリン 75-150mg 1日2回

末梢神経系が原因(または疑われる場合)
○メトクロプラミド(ドパミン受容体拮抗薬)10mg 1日3回
・小規模なRCTあり
代替薬:ドンペリドン(ドパミン受容体拮抗薬)10mg 1日3回

3剤目以降で選択される薬剤
○クロルプロマジン(フェノチアジン系抗精神病薬)
25-50mg 1日最大4回
・有効性は証明されていない

その他の薬剤
カルバマゼピン 100~300mg 3−4回、バルプロ酸 20mg/kg/日まで漸増、フェニトイン 100mg 1日3回、ニフェジピン 60-180mg/日、アミトリプチン 25-100mg 1日1回眠前
漢方だと、芍薬甘草湯、半夏厚朴湯なども有効とされています。

GERDが原因(または疑われる場合)
○PPI
・原因がはっきりしなくても試してみることを考慮

薬物による治療期間(up to dateの推奨)

・ほとんどの薬剤は5~10日間で経過をみる(最大で15日間程度使用する)
・中止すると吃逆が再発する場合は、より長期の使用に延長する
・緩和ケアを受けている患者は、永続的な投与も検討される
・PPIの場合は、3~4週間継続する
・難治性吃逆の場合は、3~4週間毎に別の薬剤に切り替える(併用も可能)

その他の治療法

・鍼治療
・催眠術
・神経ブロック
・植込み型迷走神経刺激装置

<治療アルゴリズムの一例>

①原因がはっきりしあい場合はPPIのトライを考慮
中枢神経由来か、末梢神経由来かに応じて治療薬を選択
③効果がなければ順次、他の薬剤を試す
④薬剤で効果がなければ、その他の治療法を考慮

BMJ Support Palliat Care 2018

他のReviewでも大体このような流れが推奨されています。

<コメント>
・意外と原因が多く、全ての検査をすると過剰になる可能性もあるので、原因として多い中枢神経、上部消化管の+αの症状に注目するとやるべき検査が見えてくるかもしれません
・まずは問診で最近の医療介入について聴取したいところです


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