【臨床疑問】Basedow病と無痛性甲状腺炎の鑑別について

甲状腺中毒症が判明したものの、TSHレセプター抗体(TRAb)が弱陽性とか、甲状腺エコーの所見がぱっとしないため、Basedow病と無痛性甲状腺炎の区別がつかないということがあると思います。その次の手としては甲状腺シンチグラフィになると思いますが、どの施設でもできる訳ではなく、すぐに施行できないこともあると思います。TRAbの値が鑑別に有用という日本からの研究があったので紹介します。
参考文献:Endocrine Journal 2010(PIMD:20716835)

○Introduction
・無痛性甲状腺炎(PT)の最大で10%でTRAbが陽性となることがある
・Basedow病(Graves病 GD)とPTの鑑別が困難な場合は甲状腺シンチグラフィ(Tc-99mまたはI-123)による診断がゴールドスタンダード
・特殊な設備が必要、妊婦・授乳婦は被爆の問題、費用の問題などで甲状腺シンチグラフィが施行できないこともある

○研究内容
・甲状腺シンチグラフィで診断されたGD413人、PT249人とコントロール110人のTRAb値について評価
・≧3.0 IU/Lでは、GDが99.7%、PTが0.3%
・<0.8 IU/Lでは、GDが0%、PTが100%
・GDとPT患者のROC曲線から算出したcut off値を1,5 IU/Lとすると感度96.2%、特異度95.2%となった

・さらに甲状腺エコーも合わせると診断能が高まる
(血流増加あり➔GDの可能性↑、血流増加なし➔PTの可能性↑)

○結果、考察
・TRAb ≧ 3.0 IU/L ➔ Basedow病
・TRAb < 0.8 IU/L➔ 無痛性甲状腺炎
・その間はグレーゾーンだが1.5 IU/Lを上回るか下回るかであたりを付け、甲状腺エコーの所見も合わせて判断
・それでも診断がつかなければ甲状腺シンチグラフィ

画像1

画像2

画像3

<おまけ:TRAbについて>
参考文献:An Lab Med 2019、Expert Rev Clin Immuol2008、up to date
・作用として刺激、遮断、中性の3種類がある
・刺激が最も一般的
・刺激=TSAb、遮断=TSBAbとして測定可能
・TRAbの中でTSAbとTSBAbのバランスで甲状腺機能亢進か低下か決まる
・TSAbとTSBAbを両方持つ患者もおり、経時的に甲状腺機能亢進と低下を引き起こす症例もいる

画像4

<コメント>
・TRAbは比較的すぐに結果が出るので鑑別の参考になりそうです
・基本的にBasedow病と無痛性甲状腺炎の区別がつかない症例は甲状腺シンチグラフィにつなげる方がいいとは思います
・TSAbやTSBAbのバランスの関係でBasedow病➔橋本病や橋本病➔Basedow病と移行する症例もいるいたいです

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?