見出し画像

(急性)心膜炎について

心臓の一番外にある「心膜」の炎症で、特徴的な臨床症状を呈し、それが診断にも重要となるので知っておきたいです。心膜炎は、ほとんどが勝手に治るけど、稀に怖い病気が隠れているというのが特徴で、そのマネジメントについても触れています。例によって長くなってしまいました・・・
JACC Review 2020(PMID: 31918837)、JAMA Review 2015(PMID: 26461998)、ESC guidelines 2015(PMID: 26320112)、up to dateより

【ポイント】
・胸痛(鋭い、臥位・吸気・咳嗽で増悪)、心膜摩擦音、ECG変化(広範なST上昇、PR低下)、心嚢水のいずれか2つ以上で診断
・ほとんどが特発性(ウイルス性)で原因検索をする必要はない
・全身疾患(自己免疫疾患、悪性腫瘍など)を示唆する他の症状やrisk factorsを持つ場合には入院の上、原因検索を行う
・治療は、NSAIDs + コルヒチンが基本

<総論>

・心膜炎は、何らかの原因よる心膜の炎症であり、特徴的な心電図変化を認めることが多く、特には心嚢液貯留を伴う疾患
・急性心膜炎は、ほとんどが特発性(ウイルス性含む)と考えられており、自然に改善し、命を脅かすものではない
心タンポナーデ収縮性心膜炎などの合併症を来すこともあり、また、再発を繰り返す症例もいる

<臨床的特徴>

○胸痛
・急性に発症する鋭い前胸部痛が特徴(≧95%の症例で認められる)
・鈍い痛みの場合やズキズキとした性状のこともある
・多くの場合は座位や前かがみになると疼痛が改善する
・疼痛は仰臥位、吸気、咳嗽で増悪し、吃逆と関連することもある
・僧帽筋への放散痛も特徴的

○全身症状
・患者は不快感や不安感を示す場合がある
・洞性頻脈や微熱を認めることもある
・全身疾患による心膜炎では、非心臓症状(体重減少、盗汗、発疹、関節炎など)
・ウイルス性の場合、先行してインフルエンザ様の呼吸器症状や消化器症状を来す場合もある

○心膜摩擦音
胸骨左縁で心膜摩擦音を聴取する
・前かがみの姿勢や膝と肘をつけている姿勢で増強する
・摩擦音は3相性に聞こえる

up to date

<検査>

○心電図
・経時的に特徴的な心電図変化を認める
全般的なST上昇とPR低下を認める(PR低下はⅡ,Ⅲ,aVF,V2-6で顕著)
②STが改善してT波が平定化する
③T波が陰転化する
④元の心電図に戻る
・典型的な変化を認めるのは60%の症例のみ(若年男性では見られやすい)
・最大40%で非典型的な心電図変化が見られる場合がある
心電図が正常でも心膜炎は否定できない

JACC Review 2020
JAMA Review 2015

○バイオマーカー
・心膜炎に特異的なバイオマーカーはない
・少なくとも30%の症例でTnI、TnTのある程度の上昇を認めることがある(予後には関連しない)
・炎症マーカー(WBC、赤沈、CRP)は最大80%で上昇するが、感度も特異度も高くない

○心エコー
・最初に施行すべきであり、画像検査としては唯一不可欠なもの
症例の40%では正常となる(心嚢水貯留を認めない)
・心タンポナーデや収縮性心膜炎の合併症の評価のために重要
・経時的な心嚢水貯留の進行と薬物治療への反応を評価するのに役立つ

・心嚢水の間接的な定量化もできる
・拡張期の終わりにエコーフリースペースの厚さを測定
trivial:収縮期にのみ見られる small:<10mm moderate:10-20mm large:21-25mm very large:>25mm

・large以上の心嚢水は合併症のリスクが高い
・心嚢ドレナージの際のリアルタイムエコーとしても有用
・経胸壁心エコーが最適でない場合は、経食道心エコーを考慮してもよい

○CMR
・心膜炎に対する補助的検査
・心エコーの画像評価が不十分な場合、心筋病変の合併が疑われる場合に有用
・後期ガドリニウム増強(LGE)は、感度94%であり、心膜炎の存在と重症度を評価できる
・正常な心膜は新生血管がないので、LGEは存在しないか、ごく軽度となる
・心膜炎では新生血管を伴うため、LGEを認める
・心膜炎の炎症が強い場合や反復している場合はLGEを高度に認めるため、LGEの程度は合併症リスクや再発率と関係する

○CT
・心膜炎や腫瘍浸潤がある場合、造影CTを行うと肥厚した心膜の造影効果が見られることがある
・心エコーよりも病初期の心嚢水貯留を評価できる可能性がある

<心膜炎の診断>

以下のうち2つ以上満たすと心膜炎の診断
①胸痛
②胸膜摩擦音
③ECG変化
④新規もしくは増大した心嚢水貯留

acute:4-6週以内 incessant:4-6週以上持続し、3ヶ月未満 chronic:3ヶ月以上 recurrent:4-6週症状が消失した後の再発

<心膜炎の原因の割合>

・先進国ではほとんどが特発性(その大部分がウイルス性と推測されている)
・そのため、すべての患者で原因を特定する必要はない
・一方、発展途上国では結核性心膜炎が大きな割合を占める

up to dateより

up to date

<心膜炎の原因 >

JAMA 2015 Reviewより
感染性
●ウイルス感染症(common)

エンテロウイルス(特にコクサッキーウイルス、エコーウイルス)、ヘルペスウイルス(特にEBV、CMV、HHV6)、アデノウイルス(特に子供)、パルボウイルスB19
●細菌性
・結核(common)
・その他(rare)(Coxiella burnetii、Borrelia burgdorferi、その他の小病原体)
●真菌性(rare)
ヒストプラズマ、アスペルギルス、プラストマイシス、カンジダ
●寄生虫(rare)
エキノコッカス、トキソプラズマ

非感染性
●免疫性(common)

・自己免疫疾患(特にSLE、Sjögren、関節リウマチ、強皮症)
・血管炎(特にEGPA、巨細胞性動脈炎、大動脈炎症候群、Behcet)
・自己炎症疾患(家族性地中海熱、TRAPS)
・その他(サルコイドーシス、IBD)
●腫瘍
・原発性(rare)
・転移性(common)(特に肺癌、乳癌、悪性リンパ腫)
●代謝性(common)

尿毒症、粘液水腫、神経性食思不振症
●外傷性(common)
early-onset
・直接性:穿通性胸部外傷、食道穿孔など
・非直接性:胸部手術、放射線治療
late-onset
心筋梗塞後、心外膜手術後
・医原性外傷後(PCI後、ペースメーカーリード挿入後、アブレーション後)
●薬剤性(rare)
・SLE様症候群(プロカインアミド、ヒドララジン、メチルドパ、イソニアジド、フェニトイン)
・好酸球性過敏性心外膜炎(ペニシリンなど)
・心毒性薬剤(ドキソルビシン、ダウノルビシン、シタラビン、5-FU、シクロフォスファミド)
・免疫チェックポイント阻害薬

<除外されるべき主な原因は?>

たくさん原因を列挙しましたが、除外すべき重要な疾患は以下です。
(どの患者に追加精査すべきかは次で述べます。)
・細菌性心膜炎(特に結核)
・腫瘍性心膜炎
・全身性疾患による心膜炎(主に自己免疫疾患)

これらの特定の原因によるものは先進国の症例の約5%程度のみ
追加の検査としては以下

ESC guidelines 2015

全身性疾患の一部は血液検査(Cre、TSH、ANAなど)で診断がつくかもしれませんが、最も知りたい結核や腫瘍は心嚢水が採取できないと診断は難しいです・・・

<心膜炎のマネジメント>

○原因を検索した方がよい患者は?
・全身疾患を示唆する他の症状がある場合(膠原病や悪性腫瘍など)
・以下のrisk factorsに当てはまる場合

○入院治療 or 外来治療?
・以下のいずれかの所見があると、予後不良であり、入院管理が望ましい
major risk factors
発熱(>38℃)、亜急性発症(明確な急性発症のエピソードがなく数日かけて症状が出現)、大量の心嚢水(心エコーで>20mm)、心タンポナーデの合併、1週間の抗炎症薬での治療で反応がない
minor risk factors
心筋炎を伴う心膜炎(心筋心膜炎)、免疫不全、外傷、抗凝固療法内服

・全身疾患を示唆する所見がなく、risk factorsを持たない場合は外来で抗炎症治療を開始し、短期フォローアップ(≦1週間)が可能

<心膜炎の薬物治療>

ESC 2015
ESC 2015
ESC 2015

○NSAIDs
・心膜炎に対する有効性を示したRCTはない
アスピリンイブプロフェンの使用が推奨されている
・臨床症状(胸痛など)が改善し、CRPが正常化したら漸減・終了する

○コルヒチン
NSAIDsと併用する
・症状の持続と再発を防ぐために、NSAIDs中止後も長期の使用を考慮する
・症状が改善し、CRPが正常化した時点でコルヒチンの投与量を減量できる
・コルヒチンの有効性は急性心膜炎と再発性心膜炎の両方で確立されている(症状の持続時間の短縮、再発率の低下、入院率の低下)

・コルヒチンの最も一般的な有害事象は、消化器症状(5~8%で内服中止につながる)
・推奨容量(0.5~1.2mg/日)では、骨髄抑制や再生不良性貧血はまれ
・P糖タンパク阻害薬と併用すると神経筋毒性のリスクが増加するとされる
・高齢者(>70歳)、体重が軽い(<70kg)場合は、低用量を使用する

○ステロイド
・NSAIDs、コルヒチンの治療が奏功しなかった場合、使用できない場合に低用量ステロイドの使用を考慮する
・自己免疫疾患による心膜炎などの特異的な状況でも使用を考慮する
・再発が多いため、使用する場合はゆっくりと漸減していく

<生活指導>

・心膜炎の診断となったら運動制限を行う
・ガイドラインでは、臨床症状が改善し、検査所見が正常化した後にスポーツを再開することを推奨(特にアスリート)
・最低3ヶ月は運動制限を推奨している
・運動による頻脈になると炎症を増悪させる可能性があり、再発リスクが上昇すると考えられているため

<再発性心膜炎>

・急性心膜炎の最大30%が、4~6週間の無症状期間の後に再発を経験する
・特にコルヒチンによる治療を受けていない場合が多い
○病態生理
・ウイルス感染の再発ではなく、不十分な治療に関する免疫介在現象と考えられている
・再発性心膜炎のリスク因子は、女性、ステロイド使用、再発を繰り返していること

<心膜炎の合併症>

○心タンポナーデ
・特発性心膜炎は少量の心嚢水貯留にとどまることが多く、心タンポナーデに至ることは稀
・腫瘍性、結核性、甲状腺機能低下症に関連する心膜炎は心タンポナーデのリスクが高い

○収縮性心膜炎
・発展途上国では結核性が主な原因だが、先進国では特発性・ウイルス性が主な原因となる
・結核性心膜炎後の20-30%で生じる
・診断は、収縮性心膜炎が疑われる病歴、臨床症状、身体所見を有する患者の心エコー検査で行われる
・臨床症状は、特異的ではなく、倦怠感、運動耐容能低下、呼吸困難、食欲低下、体重減少など
・身体所見では、右心不全徴候が見られる場合がある
・頚静脈圧が吸気で増加する(Kussmaul徴候:吸気で頚静脈怒張が増悪)
・頚静脈の急峻な虚脱が見られることもある(Friedreich徴候:拡張期の深いy下行で、dip and plateauのdipに相当する)
・聴診では、最大47%で心膜ノック音(拡張早期過剰心音)が聴取される
・心エコーでは、心室中隔の拡張早期の左室側への突出とそれに続く平坦運動が特徴的
・心室中隔が吸気で左室に偏位し、左室への血流流入が制限される
・上記の機序で奇脈が生じる(奇脈:吸気時に呼気時よりもSBPが≧10mmHg低下する)
・胸部X線では、20-30%で心膜に石灰化を認める
・非侵襲検査で診断がつかない場合に心臓カテーテル検査を行う

<コメント>
・内科医としては心膜炎で発症する全身性疾患(SLEなど)まで注意を払いたいです
・経験はないですが、しつこく再発する症例もいるようです

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?