食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)
アナフィラキシーショックで搬送される患者の中にFDEIAを示唆する病歴の方がたまにいます。特にWDEIAだと重症になりやすいからかもしれないです。
J Allergy Clin immunol Review 2017(PMID: 28283153)、up to date、食物アレルギー診療ガイドライン 2021より
【Take Home Message】
・原因食物は小麦、魚介類が多い
・運動の4時間以内に原因食物を摂取している可能性が高い
・運動は激しい運動のことが多いが、歩行などの軽度の運動でも誘発されることがある
・運動以外にもNSAIDs、飲酒、高温多湿など他の誘因もあり、誘因が重複することで発症しやすくなる
・診断は、特徴的な病歴と原因食物に対する特異的IgE陽性で行う(WDEIAにはω-5 グリアジン-IgEの測定が有用)
・急性期治療、慢性期管理は基本的にアナフィラキシーと同様
・運動の最低2時間以内は原因食物の摂取を避けるように指導する
<臨床症状>
・運動のどの段階でも発症し、時には運動直後に起きることもある
・原因となる食物は、通常運動4時間以内に摂取されている(稀に運動直後の摂取もある)
・症状が起きる頻度は患者によって異なる
・初期症状は、突然の疲労感、全身性の熱感・紅潮・掻痒感 and/or 蕁麻疹
・運動をやめて休めば症状は治まるが、労作を続けると血管浮腫、消化器症状、喉頭浮腫、気管支攣縮、低血圧、循環不全に至ることがある
・ジョギングやエアロビクスなどの激しい運動の関与が多いが、低レベルの労作(速歩きや庭仕事など)でも誘発されることがある
<原因となる食物>
・西洋では、小麦、その他の穀物、ナッツ類が多い
・アジアでは、小麦、魚介類が多い
・それ以外の様々な食物の報告がされている
・ほとんどの患者はある特定の食物で誘発されるが、稀にどんな食物(通常は液体ではなく固体)を摂取しても誘発される患者もいる
・食品の加工が有効であることもある(豆腐で誘発されたが、豆乳では誘発されなかったという報告あり)
<疫学>
・稀な疾患ではあるが世界的に報告されている
・日本からの報告では、中学生の有病率を0.02%(6000人に1人)と報告した
・若年成人に発症しやすい(ピークは10-20歳代)が、どの年代でも起こりうる
<病態生理>
・発症機序はIgE依存性で、増悪因子は基本的には運動
・運動によりアレルゲンの吸収が促進される、もしくは、感作された肥満細胞や好塩基球の活性化の閾値が低下するという理論が有力
・胃の透過性を高める他の要因(NSAIDsおよび飲酒)を加えることにより食物+運動負荷テストで誘発されやすくなることがわかっている
・NSAIDsはアラキドン酸カスケードや他の代謝経路を介して肥満細胞の脱顆粒を促進する可能性がある
・NSAIDs、アルコール、感染症、体温上昇(高温多湿)、花粉症のある患者における季節的花粉暴露、女性の月経前や排卵期、その他の要因が関与するとされる
<診断>
・ほとんどの場合、病歴に基づいて診断される
・食物+運動負荷テストは診断を確定できるがリスクも伴うため必須ではない
(検査室で誘発することは難しく、負荷テストが陰性でも否定はできない)
以下の診断基準が提案されている
・運動中(または運動後1時間以内)に発症するアナフィラキシーで、運動前に食物を摂取したときのみ発症する
・臨床症状を説明する他の疾患がないこと
特定の食物が関与している場合、以下の証拠が必要
・皮膚テストや食物特異的IgE免疫測定法により、関連する食物に関する特異的IgEが存在することの証明
・食物と運動いずれかのみでは症状が出ないこと(他の増悪因子がある場合にアナフィラキシーを起こす場合もあるので例外もある)
・FDEIAの特徴的な身体所見はない
・ほとんどの患者は、コリン性蕁麻疹のピンポイント病変よりも大きな膨疹を伴う
・血清トリプターゼ値はすべての患者で測定されるべき(日本ではまだコマーシャルベースでは測定できない)
・患者が無症候の場合は、FDEIA患者であれば正常値であるはず
・ベースラインから上昇している場合は、肥満細胞の障害を評価すべき
<鑑別疾患>
・運動誘発アナフィラキシー(食物とは無関係)
・特発性アナフィラキシー
・全身症状を伴うコリン作動性蕁麻疹
・肥満細胞症
・運動関連胃食道逆流症
・姿勢性起立頻脈症候群
<マネジメント>
・運動前の原因食物の回避
・その患者にとって重要なその他の増悪因子の特定
・すべてのアナフィラキシー同様、患者教育は継続的なプロセスであり、定期的なフォローアップ時や症状の再発時に実施されるべき
・アナフィラキシーの症状を列挙し、エピネフリン注射を速やかに投与するための指示を記載した「アナフィラキシー緊急行動計画」を提供することも有用
・FDEIAの患者は運動4~6時間前に原因となる食物を回避する必要がある(最低でも2時間は避ける)
・経過とともにより短時間でも発症しない(2~3時時間前)ことがわかることもあるが、最初は注意をすべき
・食後の運動を避けられない場合は、安全な食品リストを作成したり、食事から原因物質を確実に取り除くことが大切
・NSAIDsや飲酒、高温多湿などの誘因がある状況での原因食物の摂取は避ける
・アドレナリン自己注射、ヒスタミンH1拮抗薬を携帯する
<小麦依存型EIA(WDEIA)>
・最もよく研究されているFDEIAのタイプであり、比較的重症となる
・グルテンに含まれるタンパク質であるω-5グリアジンはWDEIAや運動とは無関係のアナフィラキシーと関連する小麦アレルギーの重要なアレルゲンとして特定されている
・ただし、ω-5グリアジンはWDEIAに関連する唯一のアレルゲンではない(低分子・高分子グルテニン、脂質輸送タンパク質、α-β-γ グリアジンも関与していると考えられている)
・WDEIA患者の一部(主に日本人女性)は、皮膚に塗布されたパーソナルケア製品(洗顔石けんなど)に含まれる加水分解小麦タンパク質への皮膚曝露により感作される可能性がある
・グルテンに対する皮膚検査が陰性、小麦に対するIgEが陰性であったとしても、臨床的にWDEIAが疑われる場合は、ω-5 グリアジンに対するIgEを測定することことを考慮する
・小麦+運動負荷が陽性となった日本人50人を対象とした研究では感度80%であることが報告されている
・WDEIA含む小麦アレルギーに対する検査として一般的な検査に加えてω-5グリアジン-IgEを測定することで感度・特異度ともに改善すると考えられている
<コメント>
・いつもは大丈夫だけど今日に限って症状が出たという人の中には病歴をよく聞くとFDEIAの患者がいるかもしれないです
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