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感染性心内膜炎 診断編

多彩な症状を取り、疑わないと診断が難しい内科疾患の1つです(疑っても難しい…)。長くなったので2部作でお届けします。
JAMA Review 2018(PMID: 29971402)、NEJM 2020 CP(PMID: 32757525)、ESC guidelines 2015(PMID: 26320109)より

【ポイント】
・急性IEは、敗血症、心不全、塞栓症など比較的派手な臨床像だが、一方で亜急性IEは、数週〜数ヶ月単位での非特異的な臨床像をとる
・診断はmDuke Criteriaを使用する
・IEを疑う場合は血培3セット(20mL/1セット)採取
・心エコーは必須検査であり、TTEは感度60%、特異度90%以上、TEEは感度90%以上、特異度90%以上

<病態生理>

・感染性心内膜炎(IE)は、弁内皮または心内膜の損傷から始まる
・損傷により内皮下コラーゲンや他のマトリックス分子が露出し、そのに血小板とフィブリンが付着し、無菌疣贅と呼ばれる微小血栓病変を形成する
・血流を循環する微生物が、この病変に結合してコロニーを形成する
・効果的な宿主応答がない場合、細菌はその場で複製し、さらなる血小板、フィブリン沈着を刺激して、IEの特徴である感染疣贅を形成する
・疣贅は、好中球や宿主防御分子がアクセスしにくい保護的な微小環境を作り出す
・疣贅は、非常に高い密度(10の9乗〜10の10乗CFU/疣贅1g当たり)により、高度な菌血症と疣贅のさらなる成長を促進し、もろくなることで循環中に容易に断片化する
・この疣贅の特徴により、IEとその合併症の臨床的特徴に関与する4つのメカニズムが生じる
①弁破壊、感染の弁周囲への拡大、心不全
②微小血管と大血管の塞栓症
③遠隔感染(脳、腎、脾、肺)
④免疫現象(低補体性糸球体腎炎、リウマチ因子・ANCA・梅毒の血清学的偽陽性)

<疫学>

・感染性心内膜炎の発生率は以前よりも増加しており、米国では1998年に9.3人/10万人➔2011年に15人/10万人に増加している
・この発生率の増加の要因の1つとして、医療関連疾患の頻度が増加していることがある
・大規模な多施設共同研究では、医療関連IEが34%を占めていた
・血液透析、非透析用血管内カテーテル、侵襲的処置が感染と関連することがある
・さらに人工弁、植込み型心臓デバイスに関連する症例の割合も増えてきている
・市中IEは、現在でも症例の70%を占めており、そのほとんどが口腔内細菌、消化管細菌、皮膚細菌に関連する
・発生率の増加は、心臓植込み型電気生理装置(CIEDs)の使用の増加にも関連している
・植込み型デバイスに関連するIEは、心臓弁や心内膜の表面への浸潤に関わらず、血管内電極リードに関わる感染と定義され、通常は黄色ブドウ球菌やCNSによって引き起こされる
・これは、植え込み時に植え込み部位の皮膚や軟部組織が感染するデバイスポケット感染や外科操作時の感染、皮膚からデバイス侵食による感染と直達感染と関連する
・一過性の菌血症から血行性播種によっても感染する場合がある

<リスク因子>

○素因になる心疾患
先天性心疾患(心室中隔欠損症、大動脈二尖弁)
後天性弁膜症(変性弁膜症、大動脈弁狭窄症、リウマチ性心疾患)
※リウマチ性心疾患(リウマチ熱の合併症)は、発展途上国ではIEの最も一般的な素因であるが先進国では稀
※先進国では、変性弁膜症、先天性心疾患、心臓内デバイスが多い素因

○心臓以外のリスク
・悪い口腔衛生、静注薬物使用者、血液透析、慢性肝疾患、糖尿病、免疫不全、悪性腫瘍、血管内デバイス留置

<臨床症状>

急性もしくは亜急性の臨床像を取る
○急性IE
急速に進行し、突然の高熱、敗血症、心不全、塞栓症などを呈する
・この症状だけでは他の敗血症と区別ができないが、新たに心雑音が出現した場合には、急性IEの診断をすることが必要
・典型的な起因菌は、黄色ブドウ球菌
○亜急性IE
・亜急性IEは診断が困難なことがある
・患者は、微熱、倦怠感、寒気、発汗、呼吸困難、背部痛、関節痛、体重減少などの非特異的な症状を数週〜数ヶ月に渡って発症する
・発熱はある場合とない場合がある
・典型的な起因菌は、Viridans group、腸球菌、CNS

・微小塞栓や免疫現象による症状が5〜10%の患者で存在する(いわゆるperipheral sign:爪下線状出血 splinter hemorrhage、結膜出血 conjunctival hemorrhage、Osler nodes:手指・足指の末梢血管炎病変、Janeway lesions:手掌・足底の血管炎病変、Roth spots:網膜の出血病変
・IEでは、通常弁逆流に伴う心雑音を伴うが、新規の心雑音は半数以下の症例にしか認められない
・画像診断では、肺塞栓や脾塞栓などの塞栓現象が見られる場合がある

症状、所見の頻度(JAMA Review)
peripheral sign(JAMA Review)
塞栓症、遠隔感染(JAMA Review)

<診断>

modified Duke Criteria(ECS 2015改変版)
Major Criteria(2つ)

①血液培養陽性(以下いずれか)
・IEに典型的な微生物(黄色ブドウ球菌、Viridans連鎖球菌、S.gallolyticus、HACEK、感染巣のない市中腸球菌)が2つの別々の血液培養から陽性
・上記以外の微生物で持続的な血液培養陽性(12時間以上あけて採取した血液培養が2セット以上陽性、または、最初と最後の採取を1時間以上あけて別々に採取した血液培養3セット全て or 4セット以上の過半数以上が陽性)
・Coxiella burnettiが血液培養1セット陽性、または、第Ⅰ相 IgG > 800倍

②画像所見陽性(以下いずれか)
●心エコー所見
 ・疣贅(弁または支持構造物上の動揺する心臓内塊)
 ・膿瘍、仮性動脈瘤、心内瘻孔
 ・弁穿孔、弁瘤
 ・人工弁の新しい部分的裂開
 ・新規の弁逆流(既存の雑音の増加、変化では不十分)
●FGD-PET/CT、白血球シンチ
 ・人工弁周囲の取り込み(術後3ヶ月以上経過している場合)
●CT
 ・弁周囲膿瘍の検出

Minor Criteria(5つ)
①素因となる心疾患または静注薬物使用者
②体温≧38.0℃
③血管現象(全身性動脈塞栓、敗血症性肺塞栓、感染性動脈瘤、頭蓋内出血、結
出血、Janeway lesions)
④免疫現象(糸球体腎炎、Osler nodes、Roth spots、リウマチ因子陽性)
⑤IEの原因となる微生物のMajor Criteriaを満たさない血液培養陽性、または、活動性感染を示す血清学的所見

Difinite
Major 2つ or Major 1つ+Minor 3つ or Minor 5つ
Possible
Major 1つ+Minor 1つ or Minor 3つ

・感度はdifinite症例のみで80%、possible症例を含めるとそれ以上
人工弁、心内デバイス、右心系IE、培養陰性IEで感度が低くなる
・difinite、possibleに当てはまらない症例の陰性適中率は約90%
・自然弁IEの約90~95%が血培陽性となる

<検査>

○微生物学

・起因菌を特定することは最重要であり、血液培養を陽性にする努力を最大限に行うべき
・抗菌薬を開始する前に、別々の静脈穿刺部位より30分間隔で少なくとも3セットの血液培養を採取する
・採取する血液量にも影響されるため、1セットの採取で少なくとも20mLの血液を採取する
黄色ブドウ球菌(31%)は、高所得国における自然弁および人工弁のIEにおける主要な原因
Viridans group(17%)および腸球菌(11%)は、自然弁のIEの次いで多い原因
・一方、CNSは人工弁や心臓デバイスに関連して重要な起因菌となる
GNR真菌など治療が困難な病原体が原因となることもあり、稀ではあるが、その割合は増加している
HACEKは、感染性心内膜炎の原因となりうる
・以前は培養に長時間を要していたGNRの一群であるが、現代の培養システムではルーチンの血液培養で5日以内に増殖するため、もはや長時間の培養は必要とされない
真菌IEは、主にCandidaとAspergillusによって引き起こされ、血培の感度が低いため、診断が困難な場合がある
・Candidaは血培で検出できるかもしれないが、Aspergillusは通常検出できず、その診断は弁培養や末梢塞栓病変の組織検査で行う

自然弁のIEに限った場合の原因菌の割合

・GPCが80%
黄色ブドウ球菌が35~40%
連鎖球菌が30~40%(Viridans groupが約20%、S.gallolyticusとその他の連鎖球菌が約20%)
腸球菌が約10%
CNSは自然弁では稀(臨床的に黄色ブドウ球菌に類似するS.lugdunensisは例外)
・HACEK species、真菌、複数菌、好気性GNRが約5%

血液培養陰性IE(CNIE)

・血液培養陰性のIEは診断が困難である
・主な原因は先行する抗菌薬投与、次いで血培で培養が不十分orできない微生物が原因(bartonella species、Coxiella burnetii、Tropheryma whipplei、legionella)
・診断的検査としては、血清学的検査、心臓弁のPCR検査、病理学的検査がある
・血培陰性のIEの大規模前向きコホート研究では、系統的診断プロトコールにより62%が原因微生物を同定できた
・このうち75%は、血液の血清学的検査で診断された(Coxiella属またはBartonella属のいずれか)
心臓弁のPCR検査は2番目に原因微生物の同定に役立っており、66%が16SrDNA分析法で陽性と判定された
・血液のPCR検査は13.6%に陽性となり、免疫組織学的検査は診断にあまり寄与しなかった

CNIEの診断的検査(NEJM Review)

○画像検査

心エコー

・心エコーは、IEとその合併症の診断に最も重要な検査である
・IEの心エコーの特徴としては、疣贅、膿瘍、瘻孔、弁尖穿孔、弁逆流、人工弁の裂開が含まれる
・自然弁のIEに対する経胸壁心エコー(TTE)の感度は約60%だが、人工弁のIEでは解像度が低くなるため感度は50%にとどまる(特異度は90%
・TEEは、TTEに比較して可視性と空間分解能が高いため、感度が高く(95%)、特異度は同程度(90%)でIEの診断が可能である
・TEEは、人工弁や心臓内デバイスがある場合など、TTEの感度が十分でない場合にも適している
・TTEで観察不十分な患者や、TTE後もIEの可能性が中等度以上ある患者(mDuke基準ではIEの診断、原因不明の黄色ブドウ球菌菌血症など)では、TEEが適切であり、臨床的にも有用
・心内膿瘍の診断におけるTTEの感度は低いため、外科的治療が必要な心内膜膿瘍が疑われる全ての患者でTEEが必要となる

その他の画像検査

・心臓CTは、空間分解能に優れ、膿瘍や動脈瘤などの弁周囲の合併症を描出でき、TEEよりも人工弁による画像アーチファクトが少ない可能性がある
・しかし、小さな疣贅の検出にはTEEよりも感度が低い
・放射線標識白血球シンチグラフィーやFDG-PET/CTは、末梢塞栓、心臓および心臓外の感染部位の検出に有用
・頭部MRIは、中枢性病変の検出においてCTよりも感度が高く、無症候性塞栓病変の存在はminor criteriaの1つでIE診断の一助になる
・弁手術を予定する患者に対して、無症候性脳塞栓を検出するためにルーチンで頭部MRIが推奨されているが、これが転機を改善するかは不明

<コメント>
・感度の高い所見があまりなく、非特異的な症状が多いのでなかなかrule-inもrule-outもしづらい疾患です
・人工弁、心臓内デバイス、CNIEはさらに難易度高いですね

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