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毒素性ショック症候群(TSS)

非特異的な所見ばかりであることに加えて、ショックバイタルを伴うため厄介な疾患です。臨床像を覚えて早期に疑い、治療できるようにしましょう!
J Emerg Med Review 2018(PMID: 29366615)、BMJ Case Rep(PMID: 25878235)、up to dateより

【Take home message】
・発熱+全身性皮疹+ショックでTSSを疑う
・臨床像としては、「一見ウイルス感染症のような臨床症状だが、ショックも伴うもの」
・全身性皮疹は、日焼けのような皮疹でよく見ないとわからない
・粘膜疹を伴うこともあり、結膜、口腔粘膜、膣粘膜などを障害する
・発症から1-3週間後に手掌・足底の落屑を認める
・主な原因菌は、黄色ブドウ球菌と化膿性連鎖球菌(GAS)
・ブドウ球菌性TSSは、毒素症状がメインで血液培養は基本的に陰性
・溶連菌性TSSは、毒素症状に加えて局所症状を伴うことが多く、血液培養は60%で陽性
・治療は、上記2菌種をターゲットとした抗菌薬(ex.CEZなど)+毒素産生抑制のためのCLDM


<総論>

・毒素性ショック症候群(TSS)は、発熱、低血圧、多臓器不全、落屑を伴うびまん性の皮疹を特徴とする急性の毒素による疾患
・急激に致死的となる場合があり、通常は治療可能であるが見落とされることもよくある
・45歳以上が最も多く、続いて5歳未満が続く(その間は少ない)
・他の研究では、2歳未満と65歳以上で多かった
・TSSは、冬と春によく見られ、夏と秋は少ない
・TSSは、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)Streptococcus pyogenes(化膿性連鎖球菌:GAS)による発症が最も多い
・他にも、Streptococcus agalactiae、Streptococcus viridans、GCS、GGS、Clostridium soredelliiによる発症もある

・Staphylococcal TSS(ブドウ球菌性TSS)は、1978年に小児で発症した症例が初めて報告された
・1980年代にタンポンの使用によるTSSが流行した
・タンポンの製造や使用方の変化により、生理関連のブドウ球菌性TSSは減少した
・一方で、非生理関連のブドウ球菌性TSSは増加
・非生理関連のブドウ球菌性TSSとしては、術後、産後、流産後、子宮内器具、熱傷、軟部組織損傷、局所感染症(肺炎、インフルエンザなど)がある
・Streptococcal TSS(溶連菌性TSS)は、ウイルス感染症(水痘、インフルエンザなど)、咽頭炎、局所の軟部組織外傷に関連して起こることが多い
・溶連菌性TSSは、深部組織の感染症(穿通性外傷後の感染、壊死性筋膜炎など)と関連しており、ブドウ球菌性TSSよりも死亡率が高い

<病態生理>

・TSSは、関連病原体(通常は黄色ブドウ球菌や化膿性連鎖球菌)が放出するスーパー抗原に対する宿主の反応によって生じる
・スーパー抗原とは、抗原により誘導される免疫反応の特定のステップをバイパスして直接的にT細胞を活性化するタンパクのグループを指す
・スーパー抗原により、強力で制御不能なT細胞の活性化を引き起こし、大量のサイトカインを放出される
・これがさらにT細胞、B細胞を活性化させる

<病歴・身体所見>

・TSSの患者は、①毒素による症状②細菌感染による局所症状の組み合わせによる症状を呈する
・主症状としては、発熱、低血圧、皮疹
・その他症状としては、悪寒、脱力、倦怠感、頭痛、咽頭痛、嘔吐、下痢、腹痛、意識朦朧など
・これらの症状は、早期においてはインフルエンザなどのウイルス感染症に類似する
・典型的には筋肉痛や脱力が最初の症状となり、下痢、咽頭痛、頭痛を伴う
・特に健康な患者において、症状は急速に進行し、2日以内にはびまん性紅皮症、水様便、乏尿、四肢の浮腫が生じる
・神経学的な症状としては、頭痛、錯乱、傾眠、不穏がある
・重症の神経合併症としては、脳浮腫がある
・心肺の合併症としては、肺水腫、心収縮能低下、胸水がある
血管抵抗の減少、血管透過性の亢進により、低血圧を引き起こす(診断基準の1つ)
・皮疹の存在もTSSの特徴
・はじめは、日焼けに似たびまん性、赤色、斑状の皮疹として現れ、皮膚と粘膜の両方に現れることがある
・障害される粘膜の部位としては、結膜、膣粘膜、口腔粘膜が含まれ、「イチゴ舌」を生じることがある
・重症例では潰瘍を生じることもある
・しかし、皮膚粘膜所見は様々であり、症例によってはわずかであったり、一過性であることもある
・術後TSSでは、創部周辺に最も強く見られることがよくある
非圧痕性浮腫は、間質液が増加することにより生じる
はじめの2週間はそう痒を伴う斑状丘疹が出現することもある
手掌、足底の落屑は通常、発症1-3週間後に出現するため、急性期の診断に用いられない
・一部の患者では、発症1-2ヶ月後に髪や爪の脱落を伴うこともある

BMJ Case Rep 2015


BMJ Case Rep 2015

・ブドウ球菌性TSSと溶連菌性TSSは類似することがよくあるが、いくつか相違点がある
・ブドウ球菌性TSSは、典型的には若年者に発症し、発熱、下痢、嘔吐、インフルエンザ様症状(頭痛、節々の痛み、咽頭痛など)、錯乱、傾眠などの症状を呈する
・ブドウ球菌性TSSでは、②細菌感染の局所症状よりも①毒素による症状が前面に出てくる
・これはトキシンが好中球機能を低下させ、感染の局所徴候を抑制するため
・これらの特徴のため、胃腸炎、インフルエンザ、ウイルス感染症などと誤診されることが多い
・溶連菌性TSSでは、溶連菌感染による局所感染症状を伴う(蜂窩織炎、咽頭炎、肺炎、壊死性筋膜炎など)
・しかし、最大45%で感染のフォーカスを認めないこともある
侵襲性溶連菌感染症では10-30%でTSSを合併し、壊死性筋膜炎では50%で合併する
低血圧を伴う溶連菌性TSSでは最大45%でARDSを合併する

<検査所見>

・疾患の重症度を反映し、様々な検査異常を伴う
重症病態にも関わらず白血球上昇は伴わないこともある
・しかし、典型的には白血球分画で好中球>90%(成熟、幼若合わせて)となる
貧血、血小板減少、凝固異常を伴うこともあり、DICとオーバーラップすることもある
腎障害により、Cre、BUNが上昇する
筋障害により、横紋筋融解によるCK上昇を伴うこともある
低Na血症、低Ca血症、低P血症、低Alb血症を伴うこともある
溶連菌性TSSでは、60%で血液培養陽性となるが、ブドウ球菌性TSSでは<5%の陽性率にとどまる

<TSSを疑うきっかけとなる臨床像>

・全身症状を伴うびまん性の日焼け様の紅斑
・若年者のウイルス感染様の症状(嘔吐、下痢、頭痛、筋肉痛)+原因のはっきりしない敗血症性ショック
・全身毒性(発熱、低血圧、頻脈)を伴う、見た目に比して重度の局所の軟部組織の疼痛
・化膿性連鎖球菌による敗血症性ショック
・感染の程度に比してバイタルサインが悪い場合

<診断基準(CDC診断基準)>

Staphylococcus TSS
臨床基準
①発熱:> 38.9℃
②皮疹:びまん性斑状紅皮症
③皮疹出現1-2週後の皮膚落屑
④低血圧:SBP ≦ 90mmHg
⑤多臓器障害(3つ以上):消化管(嘔吐、下痢)、筋肉(重度の筋痛、CK ≧ 正常上限の2倍)、粘膜、腎臓(BUNまたはCre ≧ 正常上限の2倍、尿路感染症がない状態での膿尿)、肝臓(T-Bil,AST,ALTいずれか ≧ 正常上限2倍)、血液(血小板 ≦ 10万)、神経(発熱や低血圧がない状態での巣症状を伴わない意識障害)
検査基準(検査していれば)
・血液培養、髄液培養の陰性(血液培養はS.aureusが陽性になることはある)
・ロッキー山脈紅斑熱、レプトスピラ、麻疹の血清学的検査の陰性

疑い:臨床基準 4項目+検査基準
確定:臨床基準 5項目+検査基準

Streptococcal TSS
臨床基準
①低血圧:SBP ≦ 90 mmHg
②多臓器障害(2つ以上):消化管(嘔吐、下痢)、筋肉(重度の筋痛、CK ≧ 正常上限の2倍)、粘膜、腎臓(Cre ≧ 2 mg/dL、≧ 正常上限の2倍、ベースラインからの2倍以上の上昇)、肝臓(T-Bil,AST,ALTいずれか ≧ 正常上限2倍)、血液(血小板 ≦ 10万、DIC)、ARDS、皮膚(落屑を伴うびまん性斑状紅斑)、軟部組織壊死(壊疽、筋炎、壊死性筋膜炎)
検査基準
・培養検査でS.pyogenesの分離

疑い:すべての臨床基準+代替診断なし+非無菌検体(咽頭、膣、喀痰など)からS.pyogenesの検出
確定:すべての臨床基準+代替診断なし+無菌検体(血液、髄液、胸腹水、非開放組織)からS.pyogenesの検出

・この診断基準は、臨床的な使用ではなく、研究目的で作成されたものであるため、診断基準を満たすために必要な徴候や症状を呈さない可能性が高い
救急外来においては、この診断基準では確定診断は困難
・さらに診断を複雑にしている理由としては、類似の臨床像を呈する疾患が複数あること(髄膜炎菌菌血症、敗血症性ショック、原発性副腎不全など)
診断基準に該当せずともTSSらしさがあるなら、蘇生治療を行いつつ、TSSとしての治療を推奨される

<鑑別疾患>

「発熱+皮疹+ショックを来す疾患」
感染症
・敗血症性ショック(特に髄膜炎菌、肺炎球菌)
・リケッチア感染症
・Vibrio vulnificus感染症
・レプトスピラ症
・腸チフス
・デング熱

非感染症
・重症薬疹(SJS/TEN、DIHS/DRESS)
・多系統炎症性症候群(MIS-A)
・血球貪食症候群(ウイルス感染、AOSDなどでの発症)

<治療>

敗血症のガイドラインに準じて治療を行う
高度の脱水進行性の毛細血管漏出により、輸液のボーラス投与が必要になることが多い
黄色ブドウ球菌と化膿性連鎖球菌をカバーする抗菌薬投与を行うべき
・伝統的には、第1世代セフェムやペニシリナーゼ耐性ペニシリン(オキサシリン、ナフシリン ※日本にはない)を使用する
・MRSAが増加しているため、局所の発生率によってはバンコマイシンやリネゾリドの使用を考慮する
・クリンダマイシン、エリスロマイシン、リファンピン、フルオロキノロン、リネゾリドはTSST-1の放出を90%減少させることが証明されている
・この中でもクリンダマイシンは、発症後2時間以上経過してから投与すると、他の薬剤よりも優れていることが示唆されており、多くの医療機関でクリンダマイシンが選択されている
・さらに、いくつかの研究でクリンダマイシンを併用することで生存率を改善することが示されている
・リネゾリドも黄色ブドウ球菌と化膿性連鎖球菌の毒素産生を減らす作用がある
・クリンダマイシンとリネゾリドの併用が、単独の使用よりも効果的である可能性もある

<具体的な治療レジメン>

ex)
CEZ 2g q8h + CLDM 900mg q8h(+ VCM)

・治療期間に関する研究はない
菌血症があれば少なくとも14日間は継続(なければ10-14日程度)
局所感染があればそれに準じた治療期間を行う
CLDMは少なくとも48-72時間は継続し、臨床所見と循環動態が安定化するまで投与
・抗菌薬治療に加えて、ソースコントロールを行うための原因検索を行うことが重要
・皮膚全体の診察に加えて、異物の除去(タンポン、鼻パッキング、創部パッキング、子宮内デバイスなど)が重要となる
・感染した創部はデブリードマンを行い、創部の保護を交換する
・深い創傷や壊死性筋膜炎が疑われる場合は、速やかに外科医にコンサルテーションを行うべき
静注免疫グロブリン(IVIG)1 - 2 g/kg の単回投与は補助治療となる可能性がある
・IVIGは、スーパー抗原をブロック、不活化することでT細胞の活性化を阻害し、サイトカインの放出を減らすとされている
・コルチコステロイドも有効な可能性はあるが、研究はごく限られている
・血漿交換に関しても研究されているが、予後改善の結果は出ていない

<コメント>
・発熱+皮疹だけだと鑑別疾患は山程ありますが、そこにショックが加わるとかなり疾患は絞られると思います
・特殊な背景(免疫不全)、曝露歴がない限りはTSSが上位鑑別になると思われます

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