盒马鲜生のCEOが語る:学びと今後の戦略

盒马鲜生のCEO侯毅氏(Hou Yi)のインタビューがありました。
その中で気になった点を抜粋と、メモを記します。

気になったポイント


・オフライン小売業ともオンライン小売業とも異なるビジネス
 - 顧客が異なり、そのニーズが異なり、アピールが異なり、売る商品が異なり、コミュニケーションの仕方が異なる
 - 従来の商品ではそれに応えきれないので、独自のPB商品を開発
・New Retailとは単にテクノロジーを適用すれば良いものではなく、商品調達、サプライチェーン、配送、組織体制、人材まですべてを対象に変革することが必要
・オフライン小売業で育った経営者には、New Retailに変革することは難しい
・配送カバー率を上げるには小規模な出荷拠点を設けるのが効率的だが、店舗を拠点にすることの方が望ましい
・店舗内のシーフードレストランは、新鮮で温かく美味しい食事を食べられる体験を印象付けるため。利益を出すことを目的にしていない。また食べるスペースがあっても注文の多くはオンラインか持ち帰り需要
・今後も積極的に出店を続けるが、新しい商圏が増えるため、フォーマットやビジネスモデルの変革を常に続けていく

インタビュー内容のメモ

New Retail

New Retailとはインターネット技術を活用して、小売業界を変革するという概念。これは単にITテクノロジーを刷新するに留まらず、商品、サプライチェーン、人材の全てを変えることが必要で、12年はかかることである。

伝統的な小売業とNew Retailとはビジネスの考え方が全く異なるため、伝統的な小売業で育った年齢の高い層には、伝統的な小売業をNew Retailに刷新することは難しい。

中国の生鮮食品は依然として個人商店を主体であり、チェーンストアの存在が薄い。盒马鲜生は生鮮食品を中核にしたチェーンストアでありたい。

盒马鲜生の今後の事業目標
1)中国国内の人口100万人以上の都市に出店をする
2)売上高が1兆元(約16兆円)以上の事業にする。現在の成長率を維持できれば10年後には達成できる
3)利益率を小売業として世界最高の税前利益率7~10%にする。

事業目標達成のための戦略
1)直轄/一級/二級/三級都市にすべて進出し、配送カバー率を高める
2)強みが生鮮食品だけでなく、コミュニティ―商圏やオフィス商圏大都市郊外商圏などでビジネスが出来る能力を身に付ける。
これらの商圏は消費傾向が異なるため、違ったビジネスモデルが必要である
3)新しい商圏で成功するために、新しいフォーマット/ビジネスモデルの開発する
4)生鮮食品調達のための「基地」を現状の500か所よりさらに増やし、生鮮食品のサプライチェーンを充実させる
5)PB商品開発/調達能力を増強し、安価で品質の高い商品を増やす。現状はPB商品売上比率は15%だが、今後3年で50%まで増やす。以前はPBの豆乳が、今はPB生花が注目を浴びている。
6)中国全土に生鮮食品を調達/配送できるサプライチェーンを構築する

現状の施策について
1)出荷拠点
オンライン事業のためには、都市近郊の大規模な物流拠点から商圏内の小規模な出荷拠点までを整備することが必要である。New Retailはそれに加えて店舗を活用することで、従来の小売業を変えるモデルである。
上海に最初の店舗を出店してから、盒马鲜生はいくつかのことを学んできた。
 a)店舗が小さいため、取り扱える商品カテゴリーが少なすぎた。レストランに重点を置いていて、ハイエンドの消費者をターゲットとしていた。
 b)商圏内の出荷拠点はコストが非常に掛かる。商圏内での売上が増え、他のモデルも使うようになって初めてインパクトを与えることが出来る
 c)損失が大きく出た
 d)客単価が非常に低い。配送費を無料にした場合には、利益を出せない。
一方で商圏内の出荷拠点は、投資コストがとても小さく、配送エリアを素早く拡大することが出来る。今後もどのようなモデルが最適化を考えていくが、現時点では大型の店舗を作ることが望ましいと考えている。

2)シーフードレストラン
盒马鲜生がシーフードレストランを設けたのは、顧客により良い体験を届けるたであり、利益を出すことを目的にしていない。シーフードレストランは食事ではなく体験を提供している。オフライン/オンライン双方で、他のスーパーマーケットよりも安い価格で提供をしている。
他社が盒马鲜生のシーフードレストランの真似をしたが、ほとんどは失敗をした。その理由としては、
 a)取り扱いアイテムが少なすぎた。また鮮度管理や調理の品質レベルが高くなかった
 b)価格が盒马鲜生ほど安くはなかった
 c)オンライン及び持ち帰り需要にフォーカスしていなかった
  盒马鲜生では多くがオンライン注文であり、オフラインでの売上も70%は持ち帰りである

3)伝統的小売業への盒马鲜生モデルの適応
当初は、盒马鲜生のITやデジタル技術を提供し、その活用を支援すれば伝統的な小売業の抱える問題を解決出来ると思っていた。しかしそう簡単には行かず、依然として以下の課題が残っている。
 a)オフラインとオンラインでは、顧客もそのニーズや商品も異なっている。既存のハイパーマーケットが現状の品揃えでオンラインを始めても上手くいかない
 b)オンラインで必要な組織体制はオフラインのものとは異なる
 c)客単価は向上しない
このために、店舗の大規模な改装、品揃えの作り替えなどをして、ようやく成果が出始めている

4)今後のマーチャンダイジング
今まで盒马鲜生は、単一の顧客層、商品ライン、価格帯、マーケティング手法で成功してきたが、今後はこれを変えていく。
 a)オフラインの顧客は共働き夫婦か両親であり、今までの顧客層を想定した品揃えの見直しが必要
 b)オフラインの顧客はより価格に敏感であり、その対応が必要
 c)オンラインのロジスティックス費用は価格の10%程度であり、20%の粗利があれば利益を出せる。しかし従来の小売業のオフライン店舗はオンラインでかかるロジスティックス費用が掛からないにもかかわらず、15%の粗利を確保しても利益率は低い。なぜこのような構造になっているのか精査をする。
オンラインとオフラインで異なる顧客層に相対するため、消費者に届ける価値やマーケティング戦略を再構築する。
現状では永輝などの従来からの食品スーパーマーケットに勝っていない。オンラインとオフラインをどのように繋げて、どのような差別化できる価値を作っていけるのか、考え続けている。

5)組織と人材
6月18日に、盒马鲜生はAliグループの中で独立した事業ユニットに昇格した。
当初は、事業の将来性が不透明だったので、盒马鲜生独自のITチームも情報システムもなかったが、創業後の成功により、その将来性をAliグループが確信するに至り、独立した事業グループとなった。
今後もビジネスの革新とデジタル技術の革新を完璧に組み合わせて、小売というビジネスを変革し、効率を向上させ、オペレーションの標準化を進め、その後に組織の革新と報酬体系の革新も行う。
2018年は成長することを重要視してきたが、2019年は本部と店舗の関係を整理することが重要だと考えている。オペレーションや管理方法の統一だけでなく、店舗側への権限の委譲も大切だ。
a)従来のスーパーマーケットの多くは全国的に展開されていても統一や標準、中央集権的な管理にこだわり過ぎており、地域性に対応した柔軟性を持ちながらもチェーンとしての統一的な管理のメリットを享受できるビジネスモデルを創り出す必要がある
b)報酬体系、特にその中でも店舗側のインセンティブ体系についての革新を行う必要がある。
c)従業員のトレーニングメカニズムの刷新
新卒で入社した従業員が12年以内にゼネラルマネージャーに昇格し、年棒100万元を得られるようにしたい。そのために様々なレベル、様々な職種向けの多くのトレーニングコースを開発し、提供する予定である。
またインターネットの世界での経歴を持つ従業員の場合、一度インターネットの世界を忘れて、小売という現場に根差したビジネスを理解する必要がある。
また一方で小売企業から転職してきた従業員は「顧客第一主義」を学ぶ必要がある。比較をすればインターネット業界からの人材よりも小売業界からの人材の方が変革させやすい。

6)企業文化の育成

私自身はテクニカルバックグラウンドの人間で、ロジスティックスやサプライチェーン、小売や経営管理よりもテクノロジーの方が得意である。
一番の強みはビジネスへの強い熱意であり、ビジネスを革新していこうという願望である。
一方で時にはストレートすぎる物言いや、多大な努力を強いたり、企業文化を重要視してこなかった欠点もある。
そのため、今は盒马鲜生の企業文化を育てようとしている。

7)業務の革新

5月に初めて店舗を閉店したが、これは基準に合わない結果しか出せなかったためで、通常の経営判断である。今後も出店は継続し、2019年9月までには200店舗に達する予定である。
今年、社内の様々なコストの見直しをひとつづつ行っており、成果を上げている。
オンラインであろうとオフラインであろうと、顧客はいつでも良い商品を買うこと、素早いサービスを受けることを望んでいる。これを実現し、尚且つ利益を出すためには、経費の支出と効率性を常に見直さなければいけない。

2019年は盒马鲜生にとって大変な年だが、これを乗り越えればより健全な成長を続けていくサステイナブルな会社になる。


以上


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