煙草

煙草一本もらってもいいですか?その言葉が最初の出会いだった
私は好きでも無い煙草を友人のすすめで吸っていた、一箱だけだと付き合いで吸っていた
煙草は嫌いだ、煙が目にしみるから
けれどそんな物を美味しそうに吸う君にひかれていたんだと今は思う
墓前に煙草を供える、私達の出会いと同じ煙草を
思えばナンパだったのだろうか?もう答えの帰ってこない質問をしてみる
ねえ、一本もらってもいいかな?
そう言って封の切っていない煙草をゆっくり開ける
人は忘れる時、思い出が最後に残るそうだ、ゆっくりと顔を忘れ、声を忘れ、匂いを忘れ、思い出は消えていく
私はまだはっきりと覚えている、だけどこれもまた思い出として消えて行くのだろう
ゆっくりと煙草に火をつける
むせそうになる煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す
まだ、懐かしいとは思っていない、まだ思い出にはなっていない、そう噛み締めるように煙を吐く
ありがとう、愛した人よ、ありがとう、まだ思い出になっていなくて

やっぱり煙草は嫌いだな、だって

煙が目にしみるから

本日は晴天、しかし墓前の傍らに雨が降るだろう

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