日本の薬局の今後の展望 〜欧州と日本におけるオンライン医療の比較より〜

著:志村駿介
監修:堀山正雄
https://hpc-horiyama.com/hpc-consulting/

Executive Summary

日本では、2018年4月よりオンライン診療が保険適応となり、オンライン服薬指導も2020年9月から開始されました。現在は410対応で保険適応条件はフレキシブルですが、基本的にオンライン服薬指導の可否は医師の診療方法に依存した形になっています。
今後は、新型コロナウイルス感染予防の観点や利便性の観点からオンライン服薬指導関連の規制を含め、オンラインでの医療提供サービスは変化していくことが予想されます。そこで今回は、日本よりオンライン医療の分野が発展している欧州諸国を例にして、日本の薬局が今後どのような事に備えていくべきか考えました。
欧州諸国はeHealth (オンライン診療や、遠隔モニタリング、栄養管理、フィットネス管理、薬歴管理、遠隔相談を含む)の分野が発展しており、北米に続き2位の市場規模になっています。日本も今後導入するであろう電子処方箋の普及も進んでいるだけでなく、医薬品出荷の際の細かいルールまで決まっています。今から欧州諸国のeHealthについて理解しておき、医療のオンライン化の流れに置いて行かれないようにしましょう。


イントロダクション

2019年の新型コロナ感染症の流行により、世界各国と日本の医療制度や医療における考え方の違いが浮き彫りになってきました。図1から分かるように、日本のワクチンの普及率は遅れをとっています。最近はデルタ株等の猛威も考慮して大規模摂取も開始され始めましたが、それでも国民の多くが摂取を完了している欧州各国と比べると違いは著明です。例えば、筆者在住のマルタでは、ワクチン接種はオンライン上で予約可能であり、筆者は予約の2日後にワクチン接種を完了しました。このようにワクチンの普及率のみを考えてみても日本と医療の違いを感じられると思います。では、今回のテーマであるオンライン診療とオンライン服薬指導(オンラインによる医療用医薬品の販売)はどうでしょうか。欧州諸国と日本のオンライン診療や服薬指導に関わる規制や使用しているツールを比べることにより、今後の日本の展望を考えていきましょう。

図1ワクチンの接種回数(7月16日更新)

画像1

https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-vaccine-status/ よりレイアウトを改変して一部の情報のみ抜粋 

日本におけるオンライン診療

<規制>
医療法によって医療は医療提供施設や医療を受ける者の居宅等で提供されなければならないと明言されていますが、インターネットや電話などのツールによって医師がそれらの医療提供施設に居ながら非対面的に診察が可能になりました。
厚生労働省の発行する「オンライン診療の適切な実施に関する指針」によると、オンライン診療は、「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為。」と定義されています。オンラインで行われた診療行為の責任は基本的に医師が負う為、オンライン診療が適切かどうかは医師の判断に任されています。処方箋の発行は紙媒体で行われ(FAXや郵送を含む)、オンライン上で完結することはありません。
以上をまとめると図2のようになりました。

図2 日本におけるオンライン診療の規制

画像2

<ツール>
特に定まってはいませんが、CURONやCLINICSというシステムを用いたオンライン診療や電話またはLINEなどのビデオ通話も使用されています。

日本におけるオンライン服薬指導

<規制>
日本では、オンライン上で服薬指導を行い、調剤(販売)して薬を発送することは加算要件を満たせばすべての薬局で実行し利益を得ることが可能です。重要なのは、日本では医師の診療が①オンライン診療であり処方箋が発行された場合か、②在宅訪問診療により処方箋が発行された場合にオンライン服薬指導が可能だということです。つまり、医師の診療方法に依存した形となっています(感染予防対策としての410対応の特例により、現在はフレキシブルです)。発送に関しても規制はありません。
以上をまとめると図3のようになりました。


図3 日本におけるオンライン服薬指導の規制

画像3

<ツール>
電話や、オンライン服薬指導システムを用いた服薬指導を行っていることが多くなっています。主要な服薬指導システムと薬局の費用負担額(導入額は導入先の規模等で変動するため省略)としては、以下の種類が知られており、図4のようにグループを組んでいます。


• Pharms:月額1万円
• Curonお薬サポート:月額980円~
• Kakari:月額9800円
• YaDoc Quick:月額1万円
• CARADA オンライン診療:非公開 
• EPARKオンライン服薬指導:非公開
• Medixsリモート調剤薬局:月額は受付回数によって変動

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/monthly/202101/568636.htmlより改変して抜粋

図4 主要な服薬指導システムとその採用分布

画像4

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/monthly/202101/568636.htmlより抜粋

「Pharms」と「Curonお薬サポート」に関しては、オンライン診療での実績もあり、オンライン診療とオンライン服薬指導が同システム内で完結することから、近隣のクリニックや病院にあわせて導入している薬局が多くなっています。「kakari」に関しては、お薬手帳としての機能や薬局からメッセージを送れる機能があります。
弊社(HPC Consulting)が実際にHPCみどり調剤薬局にも提供しているオンライン服薬指導支援システムに「HPC onlineシステム」があり、こちらはLINEを用いてオンライン服薬指導や医薬品の購入や相談ができる仕様になっています。医師がLINE等のSNSツールを用いてオンライン診療をすることもある為、使用による利用者の抵抗は少なく、どちらかというと欧州で使用されている仕組みと近くなっています

欧州諸国でのオンライン診療

<規制>
欧州ではオンラインによる医療提供に関して、「医療専門家と患者、または医療専門家2人が同じ場所にいない状況で、ICTを使用して医療サービスを提供すること」と定義しています。そして、欧州では治療の提供よりも、予防においてeHealth (オンライン診療や、遠隔モニタリング、栄養管理、フィットネス管理、薬歴管理、遠隔相談を含む)が使用されている傾向があるようです。

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