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ゲンの散歩は私の日課で、ほとんど毎日連れて行った。

 ゲンの散歩は私の日課で、ほとんど毎日連れて行った。たまにサボりたい時もあったが、学校から帰るとすぐに気付かれて、庭から延々と続くゲンの散歩コールに根負けして連れていく。おやつを食べながら窓から覗いたら最後、「オ・ヤ・ツ、オレにも、くれ!」と言わんばかりに更に激しく吠えられる。リードを持って出ると、ゲンは狂喜乱舞して暴れ出し、なかなか首輪にリードを付けることができない程だった。そしていざ鎖を外すと、そのまま数百メートルの疾走が始まる。左には家の砂壁(ザラザラとして腕を擦ったら痛い)、右には植木鉢が所狭しと並んでいる。ゲンに引っ張られながら、細くて狭い裏庭の小径を全速力ダッシュし、更にコンクリートの壁を直角に曲がって道路に出て行くのは、毎回ヒヤヒヤものだった。ビュンビュン走ったかと思うと、突如急停止してお小水タイムに入る。長いお小水が終わると、後ろ足で田んぼのあぜ道の草や土を飛ばしまくる。そしてまたダッシュ。そしてお小水タイム。これを三回程繰り返して、集落の外れにある道祖神まで来ると、ゲンも落ち着いてくる。
 いつもは、この道祖神まできたら引き返して家に帰るが、この日はゲンの便がまだだったこともあり、少し長めに散歩することにした。数メートル毎に立ち止まって、せわしなくあぜ道に鼻をフンフンうずめるゲンを引っ張りながら、脇道のタンポポを摘んだ。田んぼの脇には、たくさんのタンポポが咲いていた。その中から、花びらの付け根の弁が閉じているタンポポだけを摘んで集め、「首ぱっちん」をして遊んだ。首ぱっちんは、茎から花の頭を指で弾き飛ばす遊びで、花を弾き飛ばす時の小気味いい感触が好きだった。あぜ道には、花の付け根が閉じているものと、開いているものの二種類咲いていた。閉じている花のみを選んで首ぱっちんしているのには、理由がある。ガク片が閉じているタンポポは、西洋タンポポなのだ。反対に、日本タンポポは、ガク片が開いている。そのため、外来種である西洋タンポポを摘み、日本タンポポは残すようにした。誰に教わったのでもない。自然とそうするようになった。

 数年後、この見分け方が実は間違いで、実際はガク片が閉じているものが日本タンポポであると知る。つまり、私はずっと日本タンポポを首ぱっちんしていたのだ。

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