ポジティブの呪縛


 世の趨勢として、ポジティブ思考がもてはやされて、「前向き」な自己啓発モノがいろんな形で、世の中に溢れかえっている。かく言う僕にだって暗黒時代みたいな時期があって、そういうモノや言葉に頼った経験もないわけではない。でも、結局「前向きになれない自分はダメだ」ともう一段階自分を追い詰めているだけのような気がしていた。この現象を、現在の僕は「ポジティブの呪縛」と呼んでいる。後から考えるとそういう時期って、悩み落ち込んでいる自分が大好きっていうだけのことなのだけれど、それが分かるのは、ずっと後になってからのこと。
で、「前向き」なんて一口に言うけれど、前って何なのか?ということ。人体の構造から考えると、眼球の向いている方向を便宜的に前と呼んでいるだけで、「眼は前向きに付いている」なんてポジティブ発言をする以前の問題で、眼の付いている方向を前と呼んでいるだけのことなのである。だから、くるっと反転すれば、今度はそっちが前になるだけ。たとえ元は後ろだったとしても。
たぶん、いちばんしっくりきた考え方は、ネガティブ思考であっても、とりあえず受け止めるだけにして、いちいちムキになって否定しないという考え方だった。ダライ・ラマの言葉だったかもしれないけれど。そこで否定するということはかえって執着を生む。自分の中にそういう思いがあるのか、という程度に受け流して、じゃあ、次どうする、という具合に、こだわらない。ということ自体がもしかすると、ポジティブに分類されるのかもしれないけれど、どちらかというと、開き直りだと思う。360度後ろを向けば前だというようなもの。

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