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「泥船人生相談」第11回 幻の名盤解放同盟

――平等に聴く耳を持て。悩みに貴賎はない。同情も同調もいらぬ。――
人間の“生”の 現われである“悩み”を底辺から集め、既存のあらゆる倫理/道徳、価値体系の泥沼にはまったあなたを幻の名盤解放同盟が真理の大海へと解放致します。

■メイン回答:船橋英雄/一コマ漫画回答:根本敬/音盤回答:湯浅学
(毎月1回更新)


Q 相談其の21(32才 女 無職)

九州のある県から、一年前に東京にでてきて現在無職の女性です。というか、東京では1度も働いてません。僅かな貯金を切りくずし、そして失業手当で暮してきましたが、そろそろ限界かもなんですー。

実家にいた時は、本や映像のレンタル店でバイトしていて、東京本社からたまに来る男性に憧れて、その彼と付き合っていつか結婚したいから計画的に東京に引越したんですね。彼には長年お付き合いしてる女性がいますけど。でも顔やセンスは私の方が上だと思います! それなのに彼は私にぜんぜんなびかなくて・・・。

仕事してないからでしょうけど、新しい出会いも無いし、相談する友人もいないし、お金が無いからみたいライブも行けないし、八方塞がりもいいとこで・・・どうしたらいいでしょうか? 東京に出てきた意味がわからなくなってきました!


A メイン回答 船橋英雄

当て事とふんどしはむこうからはずれるっていうけど、パンティも然り。男女の別なし。まぁ、はずれ続けるのが人生だけど、何が何でも当てたい、これを当てなきゃ死ぬしかないってくらい切羽詰まる時も訪れるもの。そんな状況にある人間に向かって「待てば海路の日和あり、気楽にいこうや」なんぞと言ったところで慰めにも励ましにもならないでしょう。

九州のある県からでてきた奴が学生時代にいた。東京に寄せる彼の憧れは凄まじかったようで、上京後2か月ではとバスのガイドが勤まるほどになっていた。目、耳、口、手足で収集した情報の量の膨大さに東京生まれの東京育ちの俺はびっくりさせられたものだ。

江戸っ子は三代っていうけど、三代続く生粋の江戸っ子、東京人ってどのくらい生息してるのかね。俺なんか親父が愛知県出身だから失格、さしずめ東京未満人、東京半端者。そのせいかどうか東京への愛情は稀薄、東京人としての粋がり、プライドは無きに等しい。俺みたいな人間や地方出身者の寄せ集め、ハイブリッドがこの大都会の実相じゃないかしらん。

近きにありて思うふるさとは人、会社、娯楽施設等々が集中してるため素敵な異性や仕事との出逢いに恵まれている、と思わせる吸引力が特徴。確かにチャンスは多いと思う。しかし、ほとんど全てものにできないチャンス。こう心得ておいてまちがいない。

仕事してください。宵越しの銭を持とうが持つまいが勝手、とにかく生活していけるだけの収入を確保してください。金で買えないものもあるが買えるものの方が多い。仕事は人との縁という利子も生む。据え膳食わぬ野暮天なんか忘れちゃいなさい。はき古したパンティはゴムを入れ替えずに捨て、町へ出よう。


A 一コマ漫画回答 根本敬



A 音盤回答 湯浅学

人生に意味なんてあると思うほうがどうかしています。ただ何者かに生かされているだけだと思います。だから命は尊いのです。
意味は生き物をきゅうくつにします。あなたはエチゼンクラゲに意味を求めるのですか? 東京にいたくないなら九州のある県に帰る、どこか別のところへ行く、とりあえず他の人に話してみるとかして下さい。

もしまだ東京にいたいのなら仕事(のようなこと)を探すしかありあません。または生活保護を申請するとか。悩めるだけ幸福だ、と思うのがいいと思います。

スイセン盤



Q 相談其の22(37歳 男 印刷屋)

僕は夜勤明けの時、よくフトンの中でラジオを聴きながら寝入ります。今週は夏休みだったので毎日ラジオを聴いていたのですが、丁度子供電話相談の番組をやっている週でした。小学生男子が飼っていたカブト虫が逃げてしまったのだけど、自然の中で生きていけるのか質問していました。

回答の先生は、カブト虫が食べる樹液を出す木の種類を挙げて、その木に辿り着ければ生きていけると答え、さらにこんな事を言いました。「カブト虫にとっては過酷だけど大自然の中で生きるのと、人に飼われて狭いケースの中で安全に生きるのと、果たしてどっちが幸福かな?」と。小学生が「分からない」と答えると、回答の先生が「そうだねえ、カブト虫にとって幸福とは何か、難しい問題だよね」と言ってその質問は終わったのです。  これを聞いて僕はすっかり悩んでしまいました。同盟の皆さんはどっちが幸福だと思いますか? 幸福の問題は、何もカブト虫だけのものではありません。


A メイン回答 船橋英雄

美空ひばり朗読による『変身』(祝CD化)を聴いたら、冥府のフランツ・カフカも耳をそばだてた。あの特異な形の耳が蝶となり我が目の前に飛んで来た。朗読後の感想の段になるや狂喜乱舞の体で左右のスピーカーを行ったり来たり。俺もすっかり幸せな気分に浸ってしまいました。


A 一コマ漫画回答 根本敬



A 音盤回答 湯浅学

カブト虫と人間を並列してはいけません。カブト虫に失礼です。

幸か不幸か、それは人間だけの欲望の問題だからです。その回答の先生は生き物として傲慢だと思います。カブト虫にとって人間は迷惑な存在です。その迷惑な存在の立場からカブト虫の幸福について考えること、それをまずやめなくてはいけません。もしもそれでも幸か不幸かについて考えるなら、生きていることそのものが不幸だと思います。カブト虫や他の動物から見ると人間がいなくなることが先決でしょう。

ただし家畜やペットは人間側にいる存在なので人間の愛情や施しが必要です。

幸か不幸かは気の持ちようです。どんなに経済的に豊かでも業や欲が深ければ幸福感は満たされにくいと思います。お金は欲しいがとりあえず幸福、そのように自分をしむけている人は多いと思います。

スイセン盤



お悩み募集!!

幻の名盤解放同盟の「泥船人生相談」では特殊なお悩みからたわいも無いお悩みまで、ジャンルを問わず募集しています。相談内容(600字以内)・氏名(任意/公開しません)・年齢・性別・職業を明記の上、件名を「泥船人生相談係」としてメールにてご応募下さい。

dorobune@seirinkogeisha.com

※お寄せ頂いた全てのご相談にお答え出来ないことをご了承下さい。またサイトで採用されたご相談は書籍化の際に掲載する場合がございます。謝礼はお支払い出来ませんが予めご了承下さい。
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幻の名盤解放同盟 プロフィール

漫画家・根本敬(書記長)、音楽評論家・湯浅学(常務)、デザイナー・船橋英雄(社長)の3人が1982年に結成。以来、「すべての音盤はすべからくターンテーブル上(CDプレーヤー内)で平等に再生表現される権利を有するべし」をスローガンに、この世で最も地中に根を下ろしすぎた超俗エブリシング・オールライトな音盤たち(他)の探求に明け暮れること33年(2015年現在)。その活動――イイ顔とイイ歌を既存のあらゆる倫理/道徳、価値体系から解放する行為――が発端となり生じた社会現象が、90年代半ばに脚光を浴びたポンチャック・テクノの帝王李博士の活躍や昨今の昭和歌謡ブームである事を知る人はおそらく少ない。

なお幻の名盤解放同盟名義の業績として、音盤に「幻の名盤解放歌集」シリーズ・「幻の名盤解放箱」・「幻の名盤お色気BOX」(いずれもP-VINE)・「和ラダイスガラージ DJ MIX VOL.6 -女のスナッキーを踊ってみろ!」(永田プロモーション)、書籍に『ディープ歌謡 The dark side of Japanese pops』『夜、因果者の夜』(ともにペヨトル工房)・『幻の名盤百科全書』(水声社)、『お色気ディープ東京』(ブルース・インターアクションズ)・『元祖ディープコリア』(K&Bパブリッシャーズ※4半世紀に亘り3社の版元を経ての最新版)等がある。

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