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「泥船人生相談」第13回 幻の名盤解放同盟

――平等に聴く耳を持て。悩みに貴賎はない。同情も同調もいらぬ。――
人間の“生”の 現われである“悩み”を底辺から集め、既存のあらゆる倫理/道徳、価値体系の泥沼にはまったあなたを幻の名盤解放同盟が真理の大海へと解放致します。

■メイン回答:船橋英雄/一コマ漫画回答:根本敬/音盤回答:湯浅学
(毎月1回更新)


Q 相談其の25(53歳 男 自営業)

このような事を相談すべきか悩んだのですが思い切って相談します。現在隣の敷地で建設工事を行っておるのですが、先日その工事を請け負っている建設業者がうちに来て「工事期間始めの2週間ばかりの間、お宅の庭の水道を使用させて欲しい」と言うのです。その場合水道代はどう分けるのか? 返事を躊躇していると、「ではこうしましょう。1ヶ月分の水道代を全額当方に請求して下さい。お宅の分も当社でお支払いします」と提案されました。それならばまぁいいかと納得してやったのですが、少し時間をおいて今度は建設業者の経理を請け負っている別の会社の人間が来て、「5千円程度しかかかりません。それに謝礼を加えて1万円で了承してくれ」と言うのです。目の前で現金を差し出されつい了承しましたが、様子を見に行くと、ミキサーでコンクリートを混ぜるのに水をじゃんじゃん使っているではありませんか。一体いくらの水道代を請求されるのか、考えただけで恐ろしくなります。うちが使った分と工事で使った分との明確な線引きはどうしたら出来ますか? この問題が夫婦喧嘩にまで発展して参ってます。名案を期待しています。


A メイン回答 船橋英雄

ある朝、郵便受けをのぞくと、丸まった新聞をくわえた口の隙間からにょろにょろとした異物が見えた。すわ、ヘビか、と、のけぞり、門扉の上から改めて眺めてみればホースであった。元の青色にこびりついた土汚れがまだらになっており、ヘビと見間違えてもむりはない。

で、そやつ、うちの水をごくごく飲んでいるではないか。鉄の蓋を開け、栓を抜き、給水口に噛みついているではないか。もう一方の口はといえば幅5メートルの公道を挟んだ真向かいの家の奥。立派な大蛇だ。部分的な改築だか修理だかのために活躍しているようだ。

事と次第を告げられた母は無断借用の現場を見届けるや否や文句を言いにすっ飛んで行った。何も知らなかった奥さんはびっくり仰天、すぐに非常識な振る舞いの張本人を連れてきて止水し、ホースを外し、平謝り。俺はあやうく吹き出すところだった。野郎の顔がヘビそっくりなんだもん。あまりにもイイ顔。『こりゃダメだぁ』。常識だの人の道だのを説いても通用しないとすぐに悟った。変な毒でも吐かれたらたまらない、早いとこ道を隔てて消えてくれと願った。

奥さんからの包み金(たしか五千円)で一件落着。ちゃんとした人物で助かったよ。彼女までおかしかったら、さぞこじれたろう。向こう三軒両隣との良好な関係こそ日々暮らすうえで最も重要。汚職の官僚なんぞより近所の変わり者の方が大問題。天下国家を論ずるなんて易しい、現下の日本で政権与党を批判することなんて安全、お気楽、屁みたいなもん。生活空間内の他人について言ったり書いたりすることに比べたら、ね。こうしてものすることができるのは、以前住んでいた別のところの出来事だから。SNSとやらの発達で当時の奥さんと工務店のヘビ男の耳目に触れないとも限らないけどねェ。

ごく標準的な4人家族の某音楽評論家は、毎回水道料金3万円以上請求されるんだって。どう考えても取られすぎ。サイドビジネスで農業やってるわけじゃあるまいし。年頃の娘さん2人が朝シャン欠かさなくたって高が知れてる。メーターは別々でも大家の棟と続きになってるというから、あちらさんの使用分の一部がこっちに紛れるとか、管が枝分かれしていてこっちの水があちらさんにうまいこと流れるとか、何らかの不備、不具合があると思うな。

銭湯か健康ランドか忘れたが、水道メーターを操作して使用量を大幅に少なく偽っていた事件があったっけ。「水で商売している者として下の下だ!」とNHKの男性キャスターが吐き捨てるようにコメントしたのを聞いてムカッとしたね。むろん不正、犯罪だけど、「下の下」はないでしょう。奇特な国民から巻き上げた受信料でおまんま食ってるおぬしは何なんだい。下の下の下、ゲゲゲのゲ、冗談は休み休み、夜の墓場で言えよ。水や電気、ガス、電話、電波等々の盗ったり盗られたりのいざこざは決して珍しくないのであります。

さて、相談者の場合だが、建設業の人間ではなく、工事の依頼人すなわち居住者・所有者をかけあう的と定めるべきでしょう。業者は工事期間中のみ出入りする影の如き存在であって責任感は稀薄、まともに耳を傾けてくれやしない。もしもプラス1万円で収まらない水道料金の請求がきたら実体たる隣人にいきさつを冷静に打ち明けましょう。長い付き合いになるかもしれないと考えれば穏便に済ませたいのが人情、多少納得がいかなくても菓子折ひとつ添えて気持ちよく超過分の料金を払ってくれるはずだ。我関せずと突っぱねられた時は潔く諦めてください。ゲゲゲのゲ、相手は妖怪なのですから。


A 一コマ漫画回答 根本敬



A 音盤回答 湯浅学

まず受け取った1万円を返して建設会社の本社に直接行って交渉してください。他所の水道代を肩代わりする事ほどバカバカしい話はありません。明確な線引きなど細かいことは考えず、ここからは工事で使った分だとあなたが思った金額を請求すればいいのです。相手にだって分からないのですから堂々と主張すればいいでしょう。でも便乗して家賃や食費まで請求せぬように。ほどほどにしておきましょう。

スイセン盤



Q 相談其の26(43歳 男 牛乳販売店)

稼業の牛乳屋を継いでかれこれ8年になりますが、スーパーやコンビニエンスストアとの競合が激化し、大量入荷のスーパーには価格競争で足元にも及ばず、このままでは日本の牛乳屋は絶滅するという危機感を強く持っています。豊洲移転やTPPなど目先の利益ばかり追い求め、世界に目を向ければ英国のEU離脱、移民問題、ISの台頭、そしてトランプ大統領就任と、先行きは牛乳屋だけでなく、世界が、人類が、全てお先まっ暗です。本来目指すべきものが見えなくなってはいないだろうか? そんな世の中において、牛乳屋とて旧態依然としたやり方ではこの先衰退していくのは目に見えています。そこで牛乳と一緒に金沢のとある商店より特別に仕入れる事を考えている美味しいおでんのつゆや、農家より直接仕入れた新鮮な卵の販売なども視野に入れる事を検討しています。このアイデア、同盟の皆さんはどう思われますか? ちなみに当店はマルチビタミン入りカルシウム強化牛乳を扱っています。

P.S.検討中のおでんつゆを編集部にお送りしました。ぜひお召し上がり下さい。


A メイン回答 船橋英雄

特化に邁進すべしと直言したいところだけれど、極めると窮まるは表裏一体ゆえ、う〜ん、迷います。かつて根本敬に対して「いつまでもあんな絵を描いてないで、アンパンマンみたいな大勢の人に愛される絵を描きなさい」とアドバイスした御仁がいらっしゃいました。藤本卓也というシンガーソングライターです。たしかに根本敬版アンパンマンを見てみたい気はしますが……

相談者はあれこれ思案し実践しておられるのですから、どんどんいろいろトライすればいいのです。世界や人類の問題を考える必要はありません。自分とだけ向き合っていればいいのではないでしょうか。

まことに私的な注文で恐縮ですが、お腹がゴロゴロしない牛乳をつくっていただきたい。牛乳は大好きなのですが、どうしても飲むとすぐ下痢をしてしまうのです。乳糖不耐なる腸の特質が原因とか。雪印のアカディは市販品のうちで一番お腹に優しいけれど、完全ではない。温めて飲んでも数時間後には……

お腹がゴロゴロしない牛乳を! 牛乳屋への唯一のお願いです。


A 一コマ漫画回答 根本敬



A 音盤回答 湯浅学

おでんのつゆや卵以外にも牛乳と草履、牛乳と猫のトイレ砂など、思いついた物をどんどん取り入れて商売を拡大していったらいいと思います。世界情勢が今後どうなるか分からないように、あなたの商売も今後思わぬことが起きるやもしれません。そんな時に選択肢が多いと助かる場合もあります。あとは運に任せればいいでしょう。

スイセン盤



お悩み募集!!

幻の名盤解放同盟の「泥船人生相談」では特殊なお悩みからたわいも無いお悩みまで、ジャンルを問わず募集しています。相談内容(600字以内)・氏名(任意/公開しません)・年齢・性別・職業を明記の上、件名を「泥船人生相談係」としてメールにてご応募下さい。

dorobune@seirinkogeisha.com

※お寄せ頂いた全てのご相談にお答え出来ないことをご了承下さい。またサイトで採用されたご相談は書籍化の際に掲載する場合がございます。謝礼はお支払い出来ませんが予めご了承下さい。
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幻の名盤解放同盟 プロフィール

漫画家・根本敬(書記長)、音楽評論家・湯浅学(常務)、デザイナー・船橋英雄(社長)の3人が1982年に結成。以来、「すべての音盤はすべからくターンテーブル上(CDプレーヤー内)で平等に再生表現される権利を有するべし」をスローガンに、この世で最も地中に根を下ろしすぎた超俗エブリシング・オールライトな音盤たち(他)の探求に明け暮れること33年(2015年現在)。その活動――イイ顔とイイ歌を既存のあらゆる倫理/道徳、価値体系から解放する行為――が発端となり生じた社会現象が、90年代半ばに脚光を浴びたポンチャック・テクノの帝王李博士の活躍や昨今の昭和歌謡ブームである事を知る人はおそらく少ない。

なお幻の名盤解放同盟名義の業績として、音盤に「幻の名盤解放歌集」シリーズ・「幻の名盤解放箱」・「幻の名盤お色気BOX」(いずれもP-VINE)・「和ラダイスガラージ DJ MIX VOL.6 -女のスナッキーを踊ってみろ!」(永田プロモーション)、書籍に『ディープ歌謡 The dark side of Japanese pops』『夜、因果者の夜』(ともにペヨトル工房)・『幻の名盤百科全書』(水声社)、『お色気ディープ東京』(ブルース・インターアクションズ)・『元祖ディープコリア』(K&Bパブリッシャーズ※4半世紀に亘り3社の版元を経ての最新版)等がある。

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