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⭐19) その一瞬に。

「   矢となりて
    馬上の射手の駆け抜ける
        野の花揺れる
      その一瞬に    」


人馬一体。

流鏑馬を見るために集まった人垣の隙間から
ほんの数秒、その勇姿が顕れる。

アナウンスに
「上下動の無い乗り姿が特徴」
と語られた通り

激しく走り抜ける馬の背上で
射手は
その身をピタリと、
大地に同じ角度を保ったまま
ひたすら真っ直ぐに
力強く駆けていった。

照りつける
残暑の強い日差しの中、
地面は乾燥して

重い蹄の音と共に
かきたてられた砂ぼこりが
あたり一面を
しばらく覆ったが

射手の姿は

塵ひとつ、まみれていないかのように

流麗でもあった。


的の前を走り抜ける、
1秒あるかないかの
そのごく僅かな間に
誤たず、矢を放たなければならない。

そして、正確を期すために、
馬のスピードを落としすぎれば、
勝者とはなれない。

それこそ、己れそのものが
矢の如く集中力とスピードを保って
鮮やかに駆け抜けていく。


放たれた矢の勢いに、
的に添えられた花々が、
揺れる。

いにしえの、ある武人が
己れが的を外したことを恥じて自害してしまったため、
そのようなことを防ぐ手立てとして、
的に花を添え、
矢が的を外れても、その花に触れさえすれば
それも「当たり」、
とするならわしとなったとか。



・・・  ほんの一瞬の披露。


日頃の鍛練は
いかばかりであろうか。



⭐⭐⭐
 〈この記事について〉
令和5年9月19日寒川神社・
武田流の流鏑馬神事にて。
毎年開催されるこの日には、
全国的にも珍しいそうだが、
寒川神社の神官も馬上の人となる。

流鏑馬神事が催行された
寒川神社の
9月の御朱印と木札


~残念ながら私では、とてもではないですが
写真撮影はできませんでした。
こちらからご覧下さい。
(幾つかの行事と共に収録されています。流鏑馬は2分52秒くらいからです。)  


*ヘッダー画像は、寒川神社配布の、9月のミニカードより↓(両面)