ヴィジュアル系インサイドセールスが書く「ホッとする」ノート:縦社会を這い上がった人
こんにちは。ホットリンクのヴィジュアル系インサイドセールス、つつみです。
以前にこのメルマガで、私がバンドマン時代に、世界的に活躍するギタリストMIYAVIさんのローディー(付き人のような仕事)をしていた経験を書きましたが、今回は私のローディーをやってくれた友人の話をします。
バンドマンとしてまだ駆け出しの頃、私は収入がない時期に引越し屋のアルバイトをした事があります。
日雇いでしたので、その日限りの数人のチームで仕事をするのですが、現場が一緒になった少年が私に話しかけてきました。
「もしかしてヴィジュアル系バンドが好きなんですか?」
私は長髪でピアスだらけの風貌でしたので、見た目から明らかでした。
話すと、彼は東京でやりたい事を探しに、田舎から上京してきたばかりでした。
そしてヴィジュアル系バンドの大ファンでした。
「ヴィジュアル系ファンの友達いないから嬉しいです・・!!」
楽しそうに、憧れているバンドマンの話をしてくる彼に私は内心困っていました。
というのも、その憧れのバンドマンというのは私の知人でした。
そして当時、私自身も、始動を控えているバンドが事務所所属が決定し、全国展開のスケジュールも決まっている状況だったからです。
(ファンというか僕はやる側なんだけど・・まあ、そういう人がバイトしてると思わないよな・・夢壊しちゃいそうだし、本当の事言いづらいな・・)
なんて考えつつ話を合わせていたのですが、純朴な雰囲気の彼にどこか惹かれるものがあり、その日アルバイトを終えた時に、なんとなく連絡先を交換しました。
その後、私のバンドは始動し全国を飛び回る中も、彼から定期的にヴィジュアル系バンド情報がメールで届きました。
あくまでもファン友達として・・(うーん、どうしよう)
その中で「今月の参戦予定ライブ!」という内容があり、私のバンドが出演するイベントが含まれていました。
(・・これはさすがに本当の事を話すか・・・)
私は、その日出演するバンドのメンバーである事を伝え、良かったらゲストパスも出せるから遊びに来てください、と連絡しました。
当日、彼は半信半疑で来ましたが、実際にライブを見てもらい、とても感激した様子でした。
その後もう一度ライブに来てくれた時に、彼はやりたい事が見つかったと言いました。
「僕、ヴィジュアル系バンドマンになりたいです・・!」
しかしメンバーもいないしどうしたら良いか相談されたので、もし良かったら私のバンドのローディーをやらないか誘ってみました。
私自身が、ローディーを経て自分のバンドを結成できたので、彼の経験としても良いのではないかと思いました。
「ぜひやらせてください!ここで修行して、自分のバンドを作ります!!」
彼はすぐに決断してくれ、そこから約1年間、私と共に全国を飛び回る事になりました。
彼は最初の1か月程度は、本当に楽しそうでした。
彼にとっては今までCDを聞いて、雑誌を見てファンだったバンド達が、目の前にいるのです。
ガゼット、ナイトメア、バロック、アリス九號.、アンティック-珈琲店- ・・・
当時のヴィジュアル系シーンの注目バンド達と私のバンドが共演する度、彼は同じ現場にいる事に感激していました。
しかし、2か月目を過ぎた頃、彼の目つきは濁っていきました。
現場にいるという事は、ファンは見る事のない、見たくないような厳しい現実も目の当たりにするからです。
当時のヴィジュアル系シーンの裏側というのは、かなり厳しい体育会系の縦社会でした。
今ではパワハラとなるような行為も横行している時代ですので、先輩バンドマンや、職人気質の業界スタッフから怒鳴られる、殴られるといった事は日常茶飯事です。
(本当に怖かったです・・)
つまり、その世界で生き残る為には、ミュージシャンとして優れているだけではなく、強烈な上下関係がある縦社会を這い上がる根性が必要でした。
中でもローディーは一番下のポジションになるので、危険な目に遭いやすいです。
また、彼は見た目は若かったのですが、私や他のバンドメンバーよりも年上でした。
当時は年功序列の空気感も強い中、年齢は上だけど立場は一番下という状況に、彼は葛藤し苦しんでいました。
それでも彼はプライドを捨てて、どんな仕事でも引き受けて汗を流し、本当に素直に頑張っていました。
それは簡単なように見えるけど、誰でもできる事ではないと思っています。
その姿を見て、私は彼にリスペクトを感じていました。
しかし、どれだけ素直に頑張っていても、失敗をしてしまう事はあります。
全国ツアー中の福岡のライブハウスで、彼は本番前のリハーサル時にミスをしてしまい、スタッフからこっぴどく叱られていました。
「おまえのせいで全員の時間が取られてるんだよ!邪魔するなら今すぐ東京に帰れ!!」
その後、彼の姿がしばらく見えない為、心配になり会場内を探すと、ステージ袖の機材置き場の隅で1人泣いていました。
私は彼を見て、自分のローディー時代を思い出した。
私も、ライブ直前にMIYAVIさんのギターの音が出なくなり、開演時間を遅らせてしまった事があった。
サウンドチェックをするのはローディーの仕事だった為、本番前に必ずしていました。
それなのに何故か、直前にギターの音が出なくなった。
現場ではそういった予期しないトラブルが起こる事があります。
その時、舞台裏は修羅場だった。
「てめぇー!!!原因が分からないだと!?もう開演時間だろうが!!!!」
「おまえは二度と機材に触るな!!こんな事もできない奴は今すぐ辞めろ!プロの現場を甘く見るな!!!」
スタッフ達は私の胸ぐらを掴み激怒していました。
みんながトラブル対応でバタバタしている中、私は何もできず、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
悔しくて涙がこぼれた。
その時、後ろから私の肩に手をかけて抱き寄せてきた人がいた。
MIYAVIさんだった。
「いいか、気にするな。この後、いつも通りライブは始まる。いつも通りサポートしてくれ。それだけを今は考えろ。今日も頼りにしてるぞ」
その言葉で、私は折れかけた気持ちを持ち直す事ができた。
泣いている彼を見た時、私はその事を思い出した。
(よし、あの時MIYAVIさんがしてくれたように、肩を抱き寄せて声をかけよう・・!)
そっと後ろから彼に近づいたが、肩に手をかける前に気づかれてしまった。
「あ、大丈夫・・?元気出してね」
(あれ、 MIYAVIさんはもっとカッコいい感じだった気がするけど・・まあいいか・・)
その後、彼はメンバーやスタッフみんなに頼られるローディーに成長しました。
現場で出会った仲間たちと自分のバンドを結成し、ヴィジュアル系バンドマンになり大活躍していました。
彼は今は引退し、料理人になっています。
食べに来てほしいとお店に呼んでくれたり、結婚式に招待してくれたり、今でも交流があります。
バンド時代の交友関係を大事にしているのかと思っていたのですが、彼はそうではないと言い、こんな話をしてくれた事があります。
「ローディー時代に知り合った人って、その後もずっとローディーみたいな扱いをしてくるんですよね。でもミヒロさんだけは、バンドマンとして対等で、友人だけどライバルでもあるって僕を認めてくれた。それが嬉しかったんですよね」
(※ミヒロというのはバンドマン時代の私の名前です)
私は自分がローディーだった時に、MIYAVIさんが対等に接してくれた事に本当に感謝しています。
だから自分にローディーが付くようになってからも、なるべくそうするようにしていました。
強烈な上下関係ではなく、役割が違うだけで人としては対等であるというスタンスです。
私はMIYAVIさんのように圧倒的なカッコ良さで背中を見せる事はできなかったけど、受け継いだマインドを少しでも、彼に伝えられていた事が嬉しかったです。
これは現在、ビジネスのフィールドに身を移してからも意識している事です。
上司、部下、先輩、後輩・・仕事をする上で様々な関係性があると思いますが、お互いリスペクトを持ちながら、役割が違うだけで上も下もない。
人として対等な関係で仕事をしたいです。
思えば、強烈な縦社会でデンジャラスだったバンドの世界でも、対等に接してくれた先輩や、そうしてきた後輩とは今も交流があり、私の人生を豊かにしてくれる仲間になっています。
今でも、せっかく共に仕事をする人達とは、できる限りそういった未来を作りたいと思っています。
それでは、最後まで読んでいただき有難うございました!
年末のお忙しい時期かと思いますが、体調を崩されませんようご自愛ください。
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