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商い

学生の頃、紀伊國屋のスーパーマーケットでアルバイトをしていた。
私服姿にエプロン、試食販売の仕事だった。
最初はナポリのアイスクリーム。
小さなワゴンに試食用のトレイを載せてアイスクリームを小分けにサーヴ。
笑顔で通りかかるマダムに次々声をかけて、一つでも多く商品をバスケットに入れてもらえるように試行錯誤する。

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最初はラブリーなエプロンとアイスクリームだったのに、ある日ワタシは強烈なオレンジの半被を羽織らされ、薩摩揚げ蒲鉾 を販売することになった。
当時フードセンターに勤務、のちにサーフメヒコのボスとなるココロの兄貴は、白衣姿でおかっぱ頭。どサーファーなオーラを放ちながら、法被姿のワタシをニヤニヤしながら眺めながらワゴン一杯にパンを乗せて運んでくる。

それにしても、ここでワタシはどれだけの事を学んだことか。
来客が少ない時間は、徹底的に店内を散策した。
当時は珍しかった舶来品パッケージは、デザインを学ぶ自分に強烈な影響を与えたし、食は文化。ドイツパンの奥行きの深さや、チーズやハム、空輸のチョコレートのショウケースを覗くのは、ヨーロッパ圏を旅した気分だった。


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それはともかく、薩摩揚げと蒲鉾。
京都名店の蒲鉾は「鱧を100%使用しているのが売りよ!」と販売サジェスチョンを受けたものの、ワタシは鱧を知らなかったし食べたこともなかった。
それでも販売が仕事だったので、お客様の目を真っ直ぐに見ながら「鱧を100%
使用しております。まずは召し上がってみてください」と、フレッシュな醤油を添えてスピード感のある接客で蒲鉾を勧め続けた。

結果、ワタシの販売成績は絶好調で、それ以来ラブリーなエプロンでアイスクリームを売ることはなく、半被を羽織った練り物専門の人となってしまった。
ホントは鱧のはの字も知らなかったのにね。


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もしも今、Meadow Goldの試食販売するならば、ワタシはMary Blair の偉業エピソードを添えながら、小さなカップにレモネードを気持ちを込めて供すると思う。
物を売る= 商い って、本来そういうことだよね。

そんな事を考えながら、今週末も「HOT ORANGE」を名店に育て上げる努力を、そろりそろりと開始する。

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