「to you for me」から一年。あとコード進行。

to you for meが世に出て(=Vast worldのCD発売)一年が経ちました。
早いものです。あっという間でした。
私にとっては、担当アイドルのソロ曲であるとともに、
滝澤俊輔というコンポーザーを知り、
7th大阪を大いに楽しむことのできたきっかけの曲でもありました。

7thLIVEでは、幕張での歌唱、そして更に大阪で
「to you for meを経た後のin fact」という形で
間接的に披露されました(と私は解釈しています)。

橘ありすがここまで活躍できたこと、
たくさんの関係者の皆さんと
命を吹き込んでくださったクリエイターの皆さんに、
感謝してもし尽くせません。
本当に幸福な一年でした。

先日公開された幕張(どうしても都合がつかず参戦できなかったため初視聴)
の映像を見て、
亜美菜さんの歌唱に心が揺さぶられました。



ありすの歌はいつも「じわり」と
心に染みるのですが(大阪でのin factもそうでした)、
この時のto you for meは「ビリビリ」と、
まるで感電したかのような衝撃を覚えました。

それはこの曲のタイトルの
「to you」「for me」が示すように、
ただ歌い上げるのでなく、
プロデューサー(you)そして過去の自分(me)に
「伝える」という気持ちが前面に乗せられていたからだと思います。
CDと比べても、歌声よりも話し声に近い声に感じました。

伝えたいってそう思ったの 私の声で あなたへ

先日自作した名刺にも、私(プロデューサー)視点での
「to you」と「for me」のアンサーを表現したつもりです。

とにもかくにも、to you for meには並々ならぬ思い入れがあり、
この度記事と動画(最上部リンク)の投稿に至った次第です。
改めまして、橘ありすと佐藤亜美菜さん、
作詞の渡部紫緒さん、作曲のYoshiさん、編曲の滝澤俊輔さん、
他大勢の携わってくれた皆さん、ありがとうございます。
これからも、プロデューサーの一人として応援していきます。

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さてここからは、to you for meのコード進行を解説していきます。
自己紹介が遅れました。
ピアノ弾き成分が2割くらい、
コードオタク成分が8割くらいの理論屋、
ほとの。と申します。
正直作編曲のことは決して詳しくないので、
極めてコード進行寄りの視点になります。
それもあって、専門的で興味のある人向けになってしまいますが。

楽譜があるわけではないので、下記は私の耳コピによるものです。
また、見解も私の独自のものです。
ナチュラルの9thは基本省いてます。
メロ含めると9thの音は出がちでキリがないので。
9thが重要な要素だなと思う時はオンコードの書き方をしています。
(例:Gm9(11)→Dm7/G)
あとフラットはbで表記してます。

なお一年前に耳コピと解説をした動画が下記になります。
今回はより詳しく、またFullで説明しています。



・前奏
FM7 FmM7 Em7 Am7
Dm7 Dm7/G G7(b13)

サブドミナントマイナー(Ⅳm系統。ここではFmM7)。
まゆの「マイ・スイート・ハネムーン」(滝澤さん作詞作曲)
を後に聴いたとき、
サブドミナントマイナーとb9thが
この曲との印象的な共通点だなと思いました。
作編曲家の好みの響きというというものはとりわけ曲調が近いほど出やすく、
Ⅳmの甘い響き、b9thの切ない響き(主観です)が
どちらも良く効いているなと感じました。

Yoshiさんの情報が圧倒的に足らず、
可能な限り手掛けたアイマス作品と照らし合わせてみたのですが、
shiny smileやS(mile)ING!に目立つような、
カノン進行を基調とした、中でもベースが階段状に少しずつ動く進行や、
トップノートクリシェやⅣ/Ⅴのようなベース音のペダルポイント
(コードが変わってもある音がキープされること)
が特徴として挙げられるのかなと感じました。

サブドミナント→サブドミナントマイナーの進行は、
ベース音のペダルポイントの性質を強く含んでいるので、
もしかしたらYoshiさんと滝澤さんの持つ「色」の
似ている部分なのかもしれません。

最後のb13thは、ここ数年の流行り
(blackadderが大流行しましたね。私もめちゃくちゃ影響された一人ですが)を思うと、
augと表現すると分かりやすいかとも思いましたが、
ここではかなり正統派にドミナントセブンスにおけるテンションとしてのスパイスなので、
テンション表記をしました。

上でb9thが印象的と記しましたが、
調和度の低い短9度であるb9thに比べると
b13thはかなりマイルドな、曖昧な印象があります。
Aメロ直前の静かなタイミングにはぴったりだなと感じます。

・Aメロ(1番1周目)
C D/C Bm7 G#dim7
Am7 F#m7-5 Dm7/G

早速ペダルポイントですね。
からのG#dim7。おおよそ意味合いとしてはE7(b9)ですが、
ベースが(E)→(A)と四度進行になるE7→Am7よりも、
ベースが(G#)→(A)と半音進行になるG#dim7→Am7の方が
落ち着いた印象に感じます。

この直後や2番での同一局面ではE7が使われており、
より派手な印象に変化しています。

ラストのF#m7-5→Dm7/Gもベースが半音進行のため、
Aメロ1周目の出だしとしてとても落ち着いた進行になっています。

・Aメロ(1番2周目)
C D/C Bm7-5 E7
Dm7 Dm7/G G7(b9)

この曲のコード進行のすごいところの一つに
「4回登場するAメロのコード進行が全て異なる」
点が挙げられると考えています。

内声的には似た半音進行を持つ((F#)→(F)→(E))一方で、
ベースが(B)→(E)→(A)と四度で跳躍するこちらの2周目は、
1周目よりもより鮮やかな印象を受けます。

また個人的な感覚ですが、m7-5はm7よりも目立つ響きを
持っているように感じます。
(ルートから見て減4度の音を持っているため?)

ラストに先程から言及しているb9thが出てきました。
ちなみに動画内ではb13thで弾いています。
(わざとじゃなくて後で気づいただけです……
一年前はb9thで弾いてたのに……)

・Bメロ
FM7 G/F Em7 E7/G# Am7 F#m7-5
FM7/D FmM7/D FM7/D FaugM7/D
G7 Gaug7 G6 A7(b9, b13)

同じくペダルポイントを今度はⅣ→Ⅳ/Ⅴでやったのち、
E7/G#で派手やかな展開を告知します。
二、三行目は表現に悩みましたが、
それぞれⅣとⅤを主軸にしたクリシェ表記が一番しっくり来る気がします。

この曲のすごいところの一つに(ついさっき言ったセリフ)
「BPMが倍になる」ような展開があります。

細かい内声の変化を経て、サビで一気に跳躍します。
Ⅴ→Ⅵの並行移動を用いた4度上への転調も行われます。
(滝澤さんの特徴に転調も挙げられると思います)

歌詞を見ても、Bメロまでは過去を振り返って
心の中で吐露するような内容に対して、
サビからは「あのね」を起点に、
声に出して思いを伝えるような内容に変わります。

心のなかでの独白から、
声に出して伝える言葉の切り替わりを、
転調で表現している、
というように私は解釈しました。

ちなみに最後のb9thは自信がないです。
どこかで(Bb)が鳴っているような気もしますし、
私の願望かもしれません。

・サビ
BbM7 BbmM7 Am7 Dm7
Gm7 F Bm7-5 Em7 A7
BbM7 C A7/C# Dm7 G7/B
Gm7 F Em7-5 A7

再びのサブドミナントマイナーです。
これまでより圧倒的に四度進行の多い、
にぎやかな進行になっています。
また、サビ1周目と2周目でかなりコードが変わっています。

ここですごいのは、そのコードの色合いの差異が、
歌詞の差異と一致していることです。

BbM7→BbmM7を用いた、
ベースが保たれた甘い響きの前半では

それでもまだ少し照れくさくて
はぐらかしてしまう日も

とやや内向きな状況の告白であるのに対して、
BbM7→C→A7/C#→Dm7を用いた、
ベースが一歩ずつ上昇していく盛り上がる響きの後半では

ほんの少しだけどありのままを
抱きしめられてる気がして前より

と、前向きな気持ちの表現になっています。

・間奏1
BbM7 Gm7 Db/Eb D/E G7sus4

ハ長調に戻るため、変わった響きの展開です。
2度(9度)の音をベースにしたメジャーコードは、独特の浮遊感がありますね。

・Aメロ(2番1周目)
C D/C Bm7 E7
FM7 Dm7 Dm7/G

2番では楽器の印象がガラリと変わります。
メロトロンというそうです。
(下記ブログで知りました。さすがなでちゃんさん。)


「幼少期の思い出」のシーンで流れそうな、
そんな優しい音色です。

変化したコードとしては、Bm7→E7で、
なんなら3回目にして最もメジャーな進行です。

Am7の代わりにFM7を使うことで、
メロトロンにぴったりの絶妙な停滞感を感じます。

なお演奏では、この雰囲気の差を演出する技術が
私には不足しているのを痛感しました。
いつかまた地力を上げてリベンジしたいです。

・Aメロ(2番2周目)
F#m7-5 Fdim7 Em7 A7
Dm7 Dm7/G D9/F#

Aメロ最後の4回目。
これまでと全然違う進行です。
内声の至るところで半音進行する一見穏やかな展開ですが、
出だしのF#m7-5とD9/F#の「そんなところでそんな音来る?」
という感じのせいで、かなり不意をつかれます。

ちなみになぜわざわざF#m7-5でなくD9/F#と書いたかについては、
(D)の音が単純に目立っていると感じたからというのもありますが、
Dm7→D7の進行の意味合いを強く感じたためです。
(作り手はそこまで意識してないかもしれませんし、
音楽理論的に大きく的外れな可能性もありますが…)

余談ですが、
Aメロ最後でメロが「ドレ」となるべきところ、
私「シド」で弾いてますね。。

・Bメロ
FM7 G/F Em7 E7/G# Am7 F#m7-5
FM7/D FmM7/D FM7/D FaugM7/D
G7 Gaug7 G6 A7(b9, b13)

・サビ
BbM7 BbmM7 Am7 Dm7
Gm7 F Bm7-5 Em7 A7
BbM7 C A7/C# Dm7 G7/B
Gm7 F Em7-5 A7

ここは1番と同じです。
Bメロは4つ打ちをより感じる、
1番よりも盛り上がるリズムです。

・間奏2
Bb C/Bb Am7-5 D7(b13)

短い間奏ですが、Am7-5がなかなか刺激的な響きで、
続くD7もストリングスが上でBb(→b13)を鳴らしているので、
切なさの強い印象を与えています。

・Cメロ
Bb C Gm7 Dm7
Bm7-5 C/Bb Em7-5 A7 Aaug
(N.C.) Bb

最後はaug。
ここではメロのハモリに強い存在感で(F)がいて、
Gの音が全く(あるいはほとんど?)聞こえないため、
ドミナントセブンスのb13thテンションよりも
トライアドとしてのaugの性質を強く感じました。

おそらくこの曲の数あるb13thの中で、
最もaug度の高い部分だと思います(伝われ)。

これによって、他よりも一層
音としての不安定感、感情としての不安感が
強い響きになっているように感じます。

そしてただありすの声「あのね」だけが響く時間。
そして転調を告げる半音上のBb。

せき止めていた感情を一気に解放するかのように、
転調後の大サビへと繋がっていきます。

Fullの初視聴時、私はこの「タメ感」に
涙が溢れ出すのをこらえきれませんでした。

・大サビ
BM7 BmM7 A#m7 D#m7
G#m7 F# B#m7-5 E#m7 A#7
BM7 C# A#7/D D#m7 G#7/C
G#m7 F# E#m7-5 A#7

・Dメロ
D#m7 C#m7 F#7 B F#/A# Adim7
G#m7 BmM7 A#m7 D#m7
G#m7 F#/A# B9 C#sus4
G#m7 BmM7 A#m7 A7(9,13)omit5
G#m7 F#/A# B9 C#sus4
F#M9

Dメロでは
Ⅴm7→IM7の楽しげ(と評するのはかなり主観かもしれません)な進行から、
みたびのサブドミナントマイナー。
ここではⅣスタートでなくⅡmスタートなことで、
ペダルポイントを逆に避けています。
最後の盛り上がりへの演出です。

Ⅴにsus4(9th同様のニュアンス)を使うことで
優しい浮遊感、未解決感を出しながら、
2回繰り返します。

最後のフレーズを前にして、この曲初めての(9, 13)です。
(9, 13)は、2度上のメジャーコード(Bmajor)の1度と5度の音に相当するため、
アッパーストラクチャートライアドに近い独特の雰囲気を持ちます。

最後の最後にして、この響きを持ってくるのか!という
脳天を直撃するサプライズ。
(まぁ初視聴時はそもそも前の転調段階で感情崩壊してるのですけど)

ラストはありすの声をたっぷりと聞かせてからの
M7(あるいはM9)のなめらかで叙情的な響きで終わります。

in factでも同様にM7系のきらびやかな響きと高音のピアノで締めくくられます。
ここは明確にin factになぞらえたと言えるでしょう。

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・終わりに

私はコードしかほとんど分からないので
コードをメインに分析しましたが、
そこに絞ってもこれだけ語れる要素があるというのは、
本当に感服という他ありません。

見逃している視点もたくさんたくさんあると思われるので、
コンポーザーというのは改めてすごいなと
思い知らされました。

同時に、本当にありすはいい曲に巡り会えたのだなと、
重ね重ね感謝の気持ちでいっぱいです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

ほとの。

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