見出し画像

ボードゲームのアートワークを頼まれた話

2021年の5月頃、よく行く滋賀の瀬田駅近くにあるボードゲームカフェ『hello COFFEE STAND(ハローコーヒースタンド)』で知り合ったドラさんからボードゲームのアートワークについて依頼を受けた。

以前から、このhello COFFEE STANDで開発中のゲームを発表する不定期な会が開かれており、その度に私は何を発表するでもなく、ただ茶々を入れたり場を濁すために参加していたのだが、そこでドラさんが発表した”沢山のミープルコマをつかみ取りする”ゲームの評判がとても良く、その改良版をゲームマーケット2021秋で発売することにしたそうな。ドラさんいわく、このゲームのアートワークは元々私に依頼することを決めていたそうで、それはそれで嬉しいことであった。

実は、2020年のゲームマーケット大阪に向けてある作品のアートワークを担当していたのだが、突如発生したCovid-19の影響でゲームマーケット大阪事態が消滅したため、発売できなかった経緯がある。今だに販売されない大量のボードゲームがそのゲーム作家の実家に眠っていて、いつも冗談で、あるゲームギークの一人が1982年にアタリ社から発売されたクソゲー『E.T.』がどこかに大量に埋められているという伝説を聞き、メキシコ州の埋立地を掘ったら本当に発見してしまった話を例えに出し「作ったボードゲームを全て琵琶湖に沈めて、数世紀後に誰かに発見されたほうが伝説になって面白いのでは?」と、その作家に言うようにしている。いずれこのゲームについて書きたいと思う。

ドラさんとは2018年頃にこのhello COFFEE STANDで出会い、当時ボードゲームの知識がなかった私に対して温故知新様々なゲームを教えてくれた重要人物だ。初めて出会った次の週に「あ、エッセン行ってきます」とまるで近所の喫茶店にコーヒーを飲むかのようにドイツへ行ってしまうような人で、そんな人が考えるゲームはひどく入り組んだ首都高線または新宿地下迷宮ようなゲームを想像していたのだが、提案されたゲームのメカニズムは至極軽く、どちらかというと形に囚われない楽しさを追求するパーティーゲームであった。なんとなく遊びの幅の広さや、原始的な感覚を大切にしているポイントが現在娯楽業界の大波に揉まれている自分にはスパッとハマったのだ。

というわけで、スケジュールの線引をなどをしながら、イメージをすり合わせ、絵柄やタッチなどのの方向性を定めるために下描きをする。同時にタイトルを定めたのだが、日本語+英語のようなタイトルが良いよね、ということで『MADAHAILE(マダハイール)』に決まる。いつかBGGに登録できたら良いねと言う話から、ボードゲーマー達の感性に響く90年代前半のあたりにの”あたたかみあるボードゲーム”という方向性を目指すことになる。まだ6月中旬で時間はある。早速、参考資料として家にある古いボードゲームを引っ張り出してアートワークの勉強をすることにした。

話は少し脱線するが、ボードゲームのアートワークが好きでついつい眺めてしまう。気の抜けたようなゴキブリからシリアスな宇宙路線まで、程よい玩具感と、なんとも言えないイナタイ感じがついつい手元に置いておきたくなる。その中でもフランツ・ベノ・デロンジェ氏(Franz-Benno Delonge)の2002年発売『Zahltag(決算日)』のアートワークは秀逸だと思う。イラストレーターは アテリア・ウィリンスキー氏(Atelier Wilinski)。突然現れる決算日(給料日)にプレイヤーは従業員に給料を支払わなければならず、払えない者はゲームから脱落してしまうという緊張感あふれるゲームシステムだが、この作業場のブルージーンズ達が期待と胸を踊らせながら手を出して給料を要求する。これらのカードはとても生き生きしていて今にもカードから飛び出してきそう。ウィリンスキー氏の絵はとても独特で、その絵柄の特長として指が4本しか描かれない場合が多く、あまり違和感がないのは骨太でがっしりした軸からイラストが描かれているためだと思われる。軸さえぶれていなければ、何が何本だろうと関係ないのはとても勉強になる。

画像1

画像2

また、他には1995年にアラン・ムーン(Alan R.Moon)氏が手掛けたボードゲーム『Tricks(トリックス)』も紹介せずにはいられない。トリックテイキング開始前に各プレイヤーは手札のカードを8枚になるまで競りをするという1995年に発売したゲームと思えないとても斬新なシステム。だが驚きはシステムよりもそのアートワークの清さ。一体どのような荒波に揉まれたらここまで角が落ちたデザインに仕上がるのか。例えば私がアートワークを頼まれて「はい、できました!」とこれを素直に作者に見せる勇気が果たしてあるのだろうか?そもそも光から飛び出る数字の意味など、これを手に取る人にも非常に嗅覚が試される、大胆で挑戦的なアートワークと言っても良いかもしれない。360度回ってとても格好良くて渋い。悔しくなるほどだ。

画像3

画像4

上記で上げたように、ボードゲームのパッケージは絵柄から読み取られる、感性に訴えかける部分がとても強い。逆にそれ以外の要素でいえば「遊べる人数」「推奨年齢」「プレイ時間」くらいなもので、箱の横や裏面で済ませることができる。

今作の「マダハイール」でも見た瞬間に何かを感じ取らせるような工夫は重要だよね、とドラさんと話を進めながら下描きをする。初めに“手がなにかをつかみ取ろうとしている”図案を考える。後にも先にも「掴み取る」という言葉は重要なファクターでありキーでもある。これを具現化することは必須と考えていた。

それに加えて、コンポーネントは現在のお宝コマ(リング、車、フルーツなど)に落ち着く前は、家の形をしたスポンジ状のコマや、ビー玉、石などがあり、その中でも”家をつかみ取る”ことで”富と名誉を掴み取る”を意味するイメージで進めることになる。

画像5

このイナタイ表情が、謎のキャラクターのシズル感を出していて個人的に気に入っていたのだが、若干のルール変更やコンポーネントが変化するなど、少しずつ状況が変化をする中でパッケージのアートワークもアジャストしてくことになる。

中心は太く外側は細く、線の太さに気を使いつつ、同封されるコンポーネントを描くと形が見えてくる。この下描きでドラさんからは印象の良い返事をもらったため精度を上げる工程に入る。

画像6

大分形が見えてきてはいるが、最終的に色味の調節で難航する。色味や方向性についてはいつも考えてしまう方で、ドラさんの意見を聞きながら、日の当たる場所に数ヶ月放置して少し色抜けしたようなライム色を基調とすることにした。

最終的に以下の形となる。

マダハイールイラスト-0617

画像9

ドラさんの依頼ということで、スケジュールも大分余裕をもって進められた。出来上がったサンプルも想定していた通りで、少しシンプルなように思えたルールも、バリアントを加えることで変化をつけて何度でも遊べるようカードも用意することに。木駒から変更されたプラスチックコマや、何度も遊ぶうちにベコベコになるカップがなんとも愛らしく、けっしてゲーマーのためのゲームではないが、誰でも遊べるゲームのアートワークを担当できたのは素直に嬉しいことであった。

当初目指していたキーワード”90年代”、”あたたかみ”という点は満足いくものに仕上がったと思いたいのだが、正直ここまで何度も見ているためか感覚にぶれがある節もある。だからこそ、今週20・21日開催予定のゲームマーケット2021秋の会場で私とドラさんの答え合わせができそうな予感がしている。

まだ入るのか、もう入らないのか、パンパンに詰まった来場者のカバンから、今にも溢れ出そうなボードゲームを眺めるために、当日ビッグサイトへ足を運んでみようと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?