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胡蝶蘭

少しでも暇があれば、なんやかやと理由をつけて花屋に行っている。本当は花屋よりもホームセンターの方が欲しいものがあるのだけど、ホームセンターは私の家や職場、仕事で行く先の近くにないから行かれない。とても残念なことである。どういうものが欲しいかというとランで、自分でもこんなにランが欲しくて欲しくてたまらないなんてちょっと信じられない。どうかしてる、と我ながら思う。ランなら何でもいいかというと、基本的になんでもいい。一般的な胡蝶蘭だと、花はわりとどうでもよくて葉っぱと根っこの部分がほしい。だからピカピカの状態でお祝い品として売られているよりも、花が終わって売れ残ってしまった状態で投げ売りされているのがちょうど良いのだった。それをきれいにして、水苔で根をくるんでコルクにくっつけてウットリしている。窓際にそういうものをいろいろぶら下げているのです。しかもたくさん。家族の皆様に於かれましては、迷惑なことかと存じますが、他のメンバーもそれぞれ自分のジャンルで散らかしまくっているのでよしとされたい。

先日、仕事の帰りに近所の花屋の前を通りがかった。ここは小さいけれど、素敵な花を揃えていて、街のお花屋さんとしてはかなり良い。でも切り花しか置いてないので、通りすがりに見るだけの最近だった。ところが、店の前にスタンド花がいろいろ並んでいた。お店の開店祝いなどに「なんとか賛江」と書かれて贈られるアレです。きれいな状態なんだけど、「廃棄」と書かれたメモが。もったいないと思ったけれど、廃棄は廃棄なんだからしょうがない。そして足元を見たら、立派な胡蝶蘭の鉢植えが。何個も苗が寄せ植えされている。まさか、これも廃棄なの、イヤイヤ……と思ったものの、廃棄コーナーの下に飾ってあるとも思えない。この立派な植木鉢ごと廃棄なんだろうか。そんなァって思って恐る恐るお店の人に訊いてみることにした。この状態なら安くゆずってくれるんじゃないかという下心に突き動かされて訊いてみたところ、「知り合いから処分してくれって頼まれて。良かったらお持ちください」と言われた。少しだけでもお金を払おうと思っていたところ、タダでもらえることになり、私は何度も何度もお礼を言って鉢を抱えた。とてもうれしい気持ちだったので、全然重くないワって思ったものの、しばらくしたらすごく重たくなってきて腕が抜けそうになった。色は激しいピンクの胡蝶蘭。うちに置くとちょっとテイストちがうかもしれないけど、それならそれで。外で見ても巨大な鉢だけど、せまい我が家に入れたら本当にデカイ。デカすぎてどこに置いてもしっくりこないので、適当なところに置いて毎日眺めている。ちらかった我が家の中では、その部分だけが高級な会員制クラブみたいだ。夜会巻きに背中の開いたドレスでも着たくなる雰囲気をかもしている。この鉢はどんなところに飾られていたのか、そして、どうしてこんなにキレイな状態なのに廃棄が決定してしまったのだろうか、と想像したりして。どういう経緯があるのかわからないが、縁あってウチにやってきたので、なるべく大事にしたいと思う。あの時、通りかからなかったら、廃棄されてたのかと思うと、お花の方にしても「セーフ!」と言ったところだろう。狭くて散らかってはいるけれど、廃棄されるよりはいいんじゃないか。その日、最寄り駅より一つ先で降りて、なんとなく歩いて帰りたい気分だった。寒いのに、でもなんかブラブラと店とか見て、何にも買わなくていいからそんな気分だったのだけど、それが良かった。

お金を出せば立派な花は買えるけど、今回こうやって偶然もらえることになった訳あり(訳はないかもしれないが)のこの花の方がなんとなくうれしい。そのうち、花屋さんにはお礼に鯛焼きでも持って行こうかと思っている。

写真は持って帰る時、あまりの重さに耐えかねて一度地面に置いて休息を取った時のもの。普段全然運動をしていないこともあり、今も両腕が筋肉痛だ。今思うとよくこんなの抱えて帰ってきたと思う。