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父の面影

「どうしてミッドランドに来たんだ」

Dr.オハラは聞いた。私は、彼が住むミッドランドを貶めては悪いと真っ先に思った。かくして、こんなところに本当は来たくはなかった、金が足りなかったからここに来たのだ、それがわたしの本音であった。だが、私がこの世で最も尊敬するその老年の物理教授に、私はいつまでも答えあぐねていた。すると彼は、以前ここに来た中国人の女性について話した。同じ質問をしたところ、彼女は「ここに来たのはアクシデントだ」と答えたという。ミッドランドを貶めたかどうかはわからないが、うまい表現だと思った。私はそれにのっかった。アクシデントだ。

ようは金のために来たということであった。抜き差しならぬそうした理由があったにも関わらず、私はそれをばらすのを恥ずかしいと感じていた。そうだ。私が心配したのはミッドランドの名誉ではない。私の真意をばらすことによって貶めらえる我がの名誉であったのかもしれない。

彼はまだ生きているだろうか。そういえば進学の推薦状を書いてもらった。あの男のことだから、お世辞は書かなかったに違いない。私はそこらへんは律儀である。かれが書いた推薦を私は開封しなかった。父親不在の私にとって、かれはどこか父の面影を残した。

悲愴とピアノ

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