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こだわりと思いやりが溢れる湯治の宿、大滝屋旅館


大滝屋の看板にて

プロフィール

森下敬 さん
1966年5月4日生まれ。湯宿温泉で生まれ育ち、ご両親の代から営んでいる大滝屋旅館のご主人。柔道整復師の資格を活かし宿泊客向けに整体やストレッチの施術もおこなっている。

受け継ぎし宿に、より特色を。

梅雨入り目前の快晴の日に訪れた大滝屋旅館。場所は、国道17号線から太陽館の前の道を入り、石畳の道をすぐ左折したところ。国道の近くにも関わらず静かに草木が揺れる音を感じ、ゆったりした時間が流れている中、宿のご主人・森下敬さんにお話を伺った。

大滝屋は、もともと大滝屋という屋号の建物を敬さんのご両親が湯本館より借受け、お母様が女将をやる形ではじまっ た。お父様は勤めていた日本国有鉄道の合間に旅館を手伝っていたが、他にも従業員が沢山いたそう。現在は敬さんと奥様の早苗さん、数名の従業員で旅館を運営している。

インタビューの様子

敬さんの運営する宿は、館内に接骨院も併設する珍しいスタイルだ。その業態になった経緯について、敬さんは次のように話す。

「働く両親を見て、幼いころから漠然と自分が継いでいくんだろうというイメージはありました。いざ宿に入ることになって、宿の特色を出すために何かないかなと考えた。中学・高校と柔道をやっていたので骨接(ほねつぎ・柔道整復師)の免許を取り、施術が受けられる宿の流れを作ろうと思いやってきました。」

湯治にやってきて、そこで整体が受けられるのは宿泊客としてはとても嬉しいことだと思うのだが、敬さんによると、「温泉と施術で相乗効果があることがわかっているが、温泉に入るとその効果もあって身体が楽になるので、整体は受けなくても良いかなという判断をされるお客さんもいる。」らしい。「ははは」と少し残念そうに笑う敬さんだが、それだけ温泉の効果が高いからだろう。源泉かけ流しという鮮度の良い温泉の力は偉大である。

大滝屋内の施術室

関節や筋肉は温泉でもほぐれるが、再び痛みが戻ってこないようにプラスの効果を出してくれる整体は、受けた方がより湯治に来た甲斐があるように感じる。敬さんは有資格者というだけでなく、柔道整復師の学校で講師を5年間勤めた経験もあり、知識も豊富。施術も的確で心地が良いと評判だ。

施術室の入り口

接骨院だけではない、大滝屋の取り組み

インタビューの様子

大滝屋のホームページを拝見すると様々な取り組みが見られる。

まず、福祉タクシー”湯宿温泉おでかけ”のきっかけは、身体が不自由な方やご家族にも旅を楽しんでも らいたい、という思いからはじめたサービス。法律上、旅館の送迎は最寄りの駅から宿までしか動けない。しかし、地域的に観光地への交通の便があまりよくないと感じていたこともあり福祉タクシーを開始した。こちらもHPを見ていただくと詳細が載っている。始めた当時は「時代が早すぎる」とも言われたそうだ。

次に、より健康的に過ごしてもらいたいという思いで行っているノルディックウォーク。この取り組みは、みなかみ町のヘルスツーリズムセッションのひとつとなっている。受付は、みなかみ町体験旅行HP(https://m-tr.jp/health/program/motion/nordicwalk/)よりご参照いただきたい。

また、大滝屋は、「五郎兵衛やかた」という食事処も運営している。場所は、湯宿温泉からたくみの里へ登る坂の麓にある。こちらは敬さんのお父様が始めて、現在は弟さんが運営している。うどん・そばを中心としたお食事処で、須川宿(湯宿温泉のお隣)にあった庄屋の新宅を移築した趣のある古民家造りの店舗となっている。


1万分の1の宿!? 2種類の源泉かけ流し温泉の秘密

大滝屋の温泉

「温泉に入ると身体の調子が良くなってしまうので、整体を受けない人もいる」という話がでたが、その理由は温泉の鮮度にあるかもしれない。
大滝屋旅館は大滝源泉と、窪湯源泉の泉質の違う2つの源泉に入れることが大きな魅力である。 温泉の中でも完全な源泉かけ流しという状態は一説によると全体の1~2%と言われている。そこで、敬さんは

「源泉かけ流しが100分の1だとしたら、うちは2種類の源泉があるので100×100で10000 分の1の宿なんです、なんてお客様にお伝えしたりしてます。へへへ(笑)」

と笑って話す。そんな源泉かけ流しを、2種類も味わえるのはとても貴重である。 温泉も鮮度があり、湧き出ている場所から近いほど新鮮な湯であるそう。湯宿温泉に根強いファンがいるのもうなずける。


湯宿の移り変わりと、今後への期待

二段ベットのあるユニークな客室


湯宿の印象について、敬さんは次のように話す。

「皆顔見知りであることが安心できて良い所。少し年配の方はその分閉鎖的というか、知らない人がいると誰だろう? と警戒してしまうかもしれない。けれど挨拶をしてくれれば皆安心してくれる。」

湯宿で移住やお店を出したいと思っている人からすると、馴染めるか不安に感じてしまいそうだが、区長 (持ち回りで担当する地域のまとめ役)に話が通っていると、区長から説明がはいり、地域の方も安心してくれる。

シンプルで清潔感のある客室

「昭和の時代には住む人が湯宿で商売をしていた。収入の源はこの場所で成り立っていた。魚屋・八百屋・洋品店・靴屋なんかが軒をつらねていたけど、今は湯宿の外で収入を得るようになったので、湯宿は住む場所になった。外から来る人を歓迎する心の度合いが変わってしまったんです。」

現在も湯宿でお店を構えている方々のウェルカム感は安心できる。ただ、歓迎してくれる人もいるが、感染症拡大後の気持ちの不安はまだ残る人も多く、湯宿温泉の共同風呂は、未だ地域の方だけ利用可能のようだ。

「宿泊客は宿に入る時に検温してチェックをしている。 そういった健康な方が共同風呂に入ってもらうのは良いと思う。例えば旅館の浴衣を着ることが安全の印。街の中を浴衣を着た人が歩いてて、そして湯宿にあるお店に立ち寄ったりする。そうゆう街になったら良いなと思いますね。」


記事を読んでくれた方へのメッセージ


最後に、敬さんに読者へメッセージをいただいた。

「今、群馬県を上げて温泉文化を世界遺産に登録しようという流れがある。 温泉文化とは日本人が持っている美徳とマナーなんですね。脱いだものをキレイに畳み、後の人のために床を濡らさないように気を付けるといった思いやりの文化です。 湯治と考えると、旅行で帰ってきたらどっと疲れていたり、具合悪くなるのは食べ過ぎているからなんです。大滝屋は一汁三菜で腹八分目のお食事量でご用意してます。次の日も元気に活動できる量や内容になっています。」

温泉文化の中には湯治や観光に至る歴史から、入浴方法、湯守のこと、生活習慣などが定義さ れている。日本人では当たり前にできている人が多いであろう”思いやり”。 今一度見直され、是非世界に広がって欲しい。

9年前に改装し、とてもきれいな部屋を見せて頂いたが、2階の4部屋はすべて内装が違うため、泊まる部屋が変わると雰囲気がガラリと変わる。 湯治の宿として静かに過ごしてもらいたいため小学生以上から宿泊を受けている。大滝屋は、湯治の宿として、食事にもこだわり、整体も受けることができる特別な宿だ。

シックな和室の客室

今回の取材では、敬さんの穏やかな口調の中に素晴らしいこだわりや、熱い思いを秘めていることが感じられた。 敬さんは人の顔を覚えるのが苦手とのことだが、知識量もさることながら一度聞いたことはしっ かり覚えていらっしゃるので、自身の名前を添えて話をされるとすぐに理解してくれる。 整体・温泉、健康というジャンルの興味深い話が聞けるはずだ。

是非一度足を運んでみてはいかがだろうか。


旅館体験レポ!

施術の様子

記者は今回、ストレッチの施術を受けたが、力強さと優しい触れ方でほぐしてもらった。他動的ストレッチという、他人に関節の曲げ伸ばしをしてもらい、筋肉を刺激しながら関節の可動域を広げるストレッチで、運動などの活動前に行い、柔軟性を高めるストレッチだ。 施術後はすっきり爽快である。整体は宿泊のお客様が優先となるため、整体だけ受けたいとなると受付できないこともあるらしい。そこは電話で確認していただきたい。

施術の様子

大滝屋旅館

大滝屋の前にて
  • チェックイン:15時〜

  • チェックアウト:10時まで

  • 駐車場:あり(電気自動車充電設備もあり)

  • 日帰り入浴あり:貸切のみ(要問い合わせ)

  • 電話:0278-64-0602(11時から14時がつながりやすい)


この記事を書いたライター紹介!

並木かなえ
2021年にみなかみ町へUターン。漢方専門薬局で培った知識と経験を活かし、プライベート中医サロンカラダふわわにて漢方相談と推拿整体を行っている。

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