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湯宿温泉、唯一のカフェ“Plants & Coffee ね”小さくも、こだわりのつまった空間で、小話から、きっと新たな芽が生える


お店の面する石畳の上にて

プロフィール

手島拓実 さん
1993年10月2日生まれ。愛知県蒲郡市出身。静岡県の芸大を卒業後、妻の泰子さんと上京し、デザイン会社に新卒で入社した。4年間勤めた後、2021年3月に群馬県みなかみ町に移住し、2023年5月に自身のデザインオフィスを兼ねた「Plants & Coffee ね」を開業。

 手島泰子 さん
1993年9月3日生まれ。新潟県新潟市出身。静岡県の芸大を卒業後、夫の拓実さんと上京。リフォーム関係の営業やホテルインテリアデザインの仕事を経験後、2021年3月に群馬県みなかみ町に移住。現在は、みなかみ町の建築設計事務所で働きながら、カフェの業務もこなしている。


情緒ある湯宿温泉の果てに 

緑に囲まれた1階店舗の様子

5月の新緑が美しい、絶好の取材日和に、「Plants & Coffee ね」に伺った。湯宿の温泉通りの果てに佇むお店は、国道17号沿いにありながら、店の入り口が、裏の石畳の小道に面している。はじめて行く方は、年季の入った石畳と淡緑色に包まれたお店の外壁の見事な調和に驚くかもしれない。

店に入れば、個性的な植物たちがお出迎えし、おしゃれなメニュー表には、コーヒーはもちろん、緑茶ラテやクリームソーダ、ベイクドチーズケーキなど素敵なラインナップが並ぶ。2階にあがると、ゆっくりくつろげる1人掛けの大きな椅子と、コンセント完備のカウンターがあり、小さな空間でもさまざまな過ごし方ができるようにデザインされている。

今回は、そんな魅力たっぷりの「Plants & Coffee ね」を手がける手島夫婦のインタビュー。東京からコロナ禍に移住してきた2人は、いったいどのようにして湯宿と出会い、開業に至ったのか。移住から開業までの道のりや、湯宿への思い、今後の展望までたっぷり語ってもらった。

個性豊かな植物がそろう店内

 “ポテンシャルも残りつつ、復活のしがいがあるところ”

拓実さんと泰子さんが群馬県みなかみ町に移住したのは、2021年の3月ごろ。もともと、東京からの移住を考えていた2人は、泰子さんの実家がある新潟と東京にもアクセスしやすい場所を探していた。最終的に、新幹線の駅もあり、自然も豊かなみなかみ町に移住を決意。

移住後、拓実さんは、フリーのデザイナーとして活動を始め、泰子さんは、みなかみ町の建築設計事務所で働き始めた。そんなふたりと湯宿温泉の出会いは、みなかみ町に移住してすぐのこと。湯宿を訪れた拓実さんは、すぐに湯宿のもつユニークな雰囲気に惹かれ、この地での開業を決意した。湯宿の魅力について、拓実さんは

「(湯宿の魅力を)“これ”って言葉にするのは難しいけど、エリアが密集してて歩きやすいし、石畳や共同風呂があって風情が残っている。それだけど、旅館や商店がなくなってて、ここからもう一回復活のしがいがある。ポテンシャルも残りつつ、復活のしがいがあるところが1番いいな」

と語った。泰子さんも「(湯宿にある)床屋の本多さんとコミュニケーションをとった時に、暖かく迎え入れてくれるようなムードがあった」と感じていた。

店舗1階の受付カウンターにて

単にカフェをやりたかったのではなく、、、ふたりの好きと得意がカタチになった店 

では、湯宿に惚れ込んだふたりは、どのように「Plants & Coffee ね」を起業したのか。まず、物件との出会いは、湯宿で長く床屋を営む本多工さんの紹介だった。美容室兼住居だった物件は、築60年ながらサイズ感も程よく、いろいろ妄想もふくらむ建物で、手島さん夫婦はすぐに気に入った。「植物とカフェ」という業態のお店は、都会でもそれほど多くはなく、ましてや田舎ではほぼみかけない。てっきりふたりのなかで、「植物とカフェ」のお店をやるという構想があったと思いきや、実は植物もカフェも、後付けだった。拓実さんは、お店をつくった経緯について、

「カフェはどっちかというと後付けで、ぼくがデザイナーでこちらが(泰子さん)が建築の仕事をしていて、空き家をリノベーションして何かをやりたいというのが強かった」

と語る。大学時代から空き家の活用に興味があったという拓実さんは、「何屋をしたい」というよりも空き家を活かして「何かをしたい」という思いが強かったようだ。そこで、デザイナーの拓実さんと、植物好きでリノベーションの設計もできる泰子さんの「好き」と「得意」がうまく組み合わさり、単なる空き家を拓実さんのデザインオフィスも兼ねた「Plants & Coffee ね」に一新させた。店名の由来について、泰子さんは

「植物の根っこの“ね”と、地域に根差すの“ね”、カフェを利用したお客さんがお喋りをしたときに「そうだよね」とかのコミュニケーションの語尾の“ね”を掛け合わせて“ね”という名前にしました」

と話す。また、お店のオープンパーティーを開催した際には、たくさんの近所の方々がお祝いにかけつけ、湯宿にきて良かったと感じた瞬間だったと振り返った。

インタビュー風景

お店のコンセプトについて尋ねると、拓実さんは「ひとの日常をちょっと良くしたい」と答える。店のメニューはどれも、リーズナブルな価格で提供され、「日常的に通ってもらえるお店にしたい」と語った。コーヒーひとつをとっても、価格を抑えるため、グレードが高くなくてもおいしい豆を選び、気軽に来やすい店になるように考えている。2023年5月にオープンしたお店は、1周年を迎えた。今の感触について聞くと、拓実さんは

「デザイン事務所を併設したことによって、お客さんとのコミュニケーションから仕事につながるケースもある。お店から輪が広がった」

と実感し、お店を持ったことによって、デザインの仕事も順調のようだ。一方、泰子さんは「植物が売れない(笑)」と笑いながら本音をこぼした。


飲食のノウハウがなくても、デザインができればモデルケースをつくりだせる 

手島さん夫婦の話を聞いて驚きだったのが、ふたりとも飲食経験がほとんどなく、ノウハウも最初はなかったことだ。未経験でもお店が出せたことについて、拓実さんは

 「(飲食のノウハウは)ゼロに近いけど、デザインや建築設計の仕事って、田舎だと必要性が浸透していない感じがして。だったら自分たちでモデルケースをやっちゃった方が名刺がわりになって、こんなものをつくれることを見せられた方が、1番説得力があると思った。カフェとしてうまくいくかは後回しというか、、、つくってからさてどうしようかと(笑)」

と話す。東京でデザインの腕を磨いてきた拓実さんからみれば、地方はまだまだデザインの力が伝わっていないように感じた。手島さん夫婦のお店は、田舎にあふれる空き家も、デザインとリノベーションをほどこせば、価値あるものに再生できることを、自分たちの手で証明している。拓実さんは、「どこにでもあるような築60年の空き家でも綺麗にしてお店にできた」と胸を張る。

また、お店では、飲食をしたい人に向け、お昼にキッチンを貸して、ランチの販売を行うなど、新たな試みも開始。その真意について、拓実さんは
「自分だけで商売するんじゃなくて、自分にもメリットがあるし相手にもメリットがある。いろんな人を巻き込みながら一緒に商売をしたい」
と話した。今後、「ね」でチャレンジしたい人が集まれば、湯宿に新たなシナジーが生まれそうだ。

最後に、お二人から今後の展望について伺った。拓実さんは「このお店だけじゃなくて、他の物件も活用して別の事業とかもしていけたらいいなと思ってます」と力強く話した。泰子さんは「展望の距離が(拓実さんは)もうちょっと先のことを言っていて。このお店を利用する人や関わる人を増やしたい。もっと呼び込めるように頑張りたい」と笑顔で語った。


記事を読んでくれた方へメッセージ

拓実さん
「ぜひ一度お店に遊びに来て、直接お話しできた方が魅力や現実的な部分もおはなしできるので、是非コーヒーを一緒に飲みながら、ふらっと遊びにきてくれたら」

泰子さん
「私たちからは話しかけないかもしれない。ひとみしりだから、興味がある方は話しかけてください(笑)」


お店体験レポ!

今回は、新作ドリンクの「やよいひめサイダー」を注文。薄めの色合いながら、いちごの甘みがしっかりと感じられて、夏にぴったりな1品だ。メニュー開発担当の泰子さんは、豊富なみなかみのフルーツを使用し、1年を通して季節が感じられるようなメニューを作りたいと意気込む。

やよいひめサイダー

手島夫婦の湯宿おすすめスポット!

  • 湯宿温泉 金田屋

温度が高めと言われる湯宿でも、入りやすく調整され、リフレッシュできること間違いなし。


Plants & Coffee ね   


この記事を書いたライター紹介!

こくぶん。

1998年生まれの大阪府出身。2021年春に金沢大学大学院を終了後、地域おこし協力隊として湯沢町に移住。湯沢でのゲストハウスの起業に向けて活動中!SNSはこちら→X(旧Twitter)


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