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大阪屋菓子店 〜時代の移り変わりを見守る懐の深さ〜


大阪屋を切り盛りするおふたり

プロフィール

尾崎敬 さん
1963年6月6日湯宿温泉生まれ。高校卒業後、旧国鉄に入社。JRに統合するタイミングで退社し、フリーな時間を経て27歳のとき跡を継ぐ。バイクと登山が趣味。

尾崎悦子 さん 
1964年1月15日昭和村生まれ。高校卒業後、東京で美容系の職に就き5年ほど勤務。群馬に戻り沼田市で働いていた時に敬さんと出会う。結婚後お店を一緒に切り盛り。趣味は庭で育てているお花のお手入れと買い物。


大阪屋のはじまりは宿から?

大阪屋の立派な外観

五月雨に新緑が濃く映える5月の末、17号沿いに店舗を構える大阪屋へ。
どっしりとした趣のある外観。
民芸品の香りが感じられる入口をくぐると、
店主の4代目尾崎敬さん悦子さんご夫妻が出迎えてくれました。

大阪屋の店内

創業は昭和10年。はじまりは、敬さんのひいおじいさんが湯宿で宿屋を開業したころにまでさかのぼる。
その後、おじいさんが菓子屋として営業を始め、湯本館のはす向かいで羊羹や温泉まんじゅうを製造して販売していた。
一時期は、戦争で砂糖が不足し営業を中断する苦難もあったが、それを乗り越え今に至っている。
昭和60年には、店舗が手狭になってきたため、今の場所にお引っ越ししたそう。

取材では、囲炉裏付きテーブルに座らせてもらった。昔は実際に炭をおこして、お客さんがお茶を飲んだり買ったおまんじゅうを食べていたそうですが、火の取り扱いが難しいこともあり自然と使わなくなってしまったそう。

インタビューの様子

敬さんは高校卒業後、国鉄職員として深谷駅や水上駅に勤務していた。
国鉄がJRに統合されるタイミングで退職し、好きなことをしようとバイクで日本一周旅行をしていた。ただ、その途中でおじいさんの訃報が届き帰郷。
その後しばらくは自由に働いた。

「親から継げと言われたことはなかったが、当時は長男が継ぐのが当たり前だったので、自然な流れで店に入った」と敬さん。そのとき27歳。

1年ほど太田市の和菓子屋で修行し、28歳でお店に戻る。
「それからは毎日おやじとケンカだよ」と苦笑いしながら照れくさそうに教えてくれました。
その頃は温泉まんじゅうと節句菓子(雛祭り・端午)の生産で忙しかったそう。今より子供が多かったことを物語るエピソードでしょう。


大阪屋の名物“酒まんじゅう”の誕生秘話


丁寧な手作業でお菓子を仕上げる様子

大阪屋といえば酒まんじゅう。
敬さんのおじいさんとお父さんが、前橋の片原饅頭みたいなまんじゅうを作りたいねと開発して誕生しました。
モクモクと外に漏れ出る湯気を見たことのある方も多いでしょう。酒蒸しまんじゅうはこし餡、温泉まんじゅうはつぶ餡と餡も使い分ける。

大阪屋の作業場

また、すっきりと片づけられた作業場にもお邪魔させていただきました。
取材当日は仕込みが終わっていたので、へらや刷毛などの道具類が整然と並び、とても清々しい空間。毎日ここで丁寧にお菓子作りをされている光景が目に浮かびました。

筆者は以前、桜餅を購入したことがあり、葉っぱの塩加減が絶妙だったと記憶していると伝えたら、最近は原材料の高騰が続き、葉っぱまで値上がりしているのだとか。
物価高の影響は至るところに。。。と思いつつ、蒸かしたばかりのおまんじゅうをぱくり。絶品!

大阪屋のおまんじゅう

皮はしっとりしつつふんわり。餡の甘さがちょうどよく、しみじみと噛みしめる。まさに至福のひととき。


減りゆく人かげも、変わらない笑み

店内に飾られている恵比寿様と大黒様

昔と現在の違いは何かありますか?とお伺いすると、
「昔はお正月やゴールデンウイークといった連休は大忙し。スキー客も減ったよね。」と話す。
これには高速道路の開通とスキーそのものの人気の陰りが関係しているそう。
最近は、平っ標の管理人さんの紹介で登山客の方が増えているらしい。

昭和村出身で結婚後、30年近く一緒にお店を切り盛りしてきた悦子さんも移り変わりを見てきました。

「やはり過疎化が身に染みる。17号を通る車も減り苗場に行く人が減って、観光が先細っている気がする」と。

ただ、しんみりするわけでもなく「でもフジロックの時は混むけどね~」と明るく笑い飛ばす悦子さん。
はつらつとしていて元気のおすそ分けをいただきました。

悦子さん

お店を彩るふたりのキャラ

インタビューの様子

お店をするうえで、大切にしていることを伺うと、
「作るからにはお客さんに喜んでもらえることかな。」とまず敬さん。
「おいしいと言ってもらえるのが一番うれしい。長い付き合いのお客さんは本当にありがたい。常連のお客さんがしばらく見えないとどうしたかな?と気になってしまう。」

悦子さんに店内を案内してもらう様子

悦子さんは「元気よく!」浮き沈みがないように常に一定のラインをキープできるよう心掛けてらっしゃるそう。

店内ではお菓子のほかに、手作り雑貨(クラフトテープ製のかばん、布マスク、布ぞうり)や地元のりんご農家から仕入れているジュースなども販売している。

店舗奥の自宅にはバイク好き敬さんの愛車が数台あり、バイク好きなお客さんと話が盛り上がることもしばしば。バイカーのツーリング基地的な場所にも関心がある近ごろだそうです。


先代から引き継ぐ、ナゾの球体

巨大な巣がいくつもぶら下がる店内

店内にはいると、天井から下がる巨大オブジェのような木の塊が目につく。なにかと聞けば、先代が好きでどこからともなく集めてきたというスズメバチの巣! 厄介者扱いされがちなスズメバチですが、間近で見れば自然の造形にうならされ、店内の雰囲気にもなんともマッチしています。


湯宿のおすすめスポット

  • ゆじゅく温泉ゆうえんちから続く遊歩道。赤谷川沿いを歩けるのでとても爽やかで気持ちの良い散歩道。

  • やまいち屋の向かいにある火の見櫓(みせやぐら)。意外と知られていないが、現在では珍しいもの。


大阪屋菓子店

  • 営業時間:8:30~18:00

  • 定休日:木曜日

  • 駐車場:あり

  • 電話:0278-64-0601



この記事を書いたライター紹介!

小室 史 
1976年11月北海道釧路市生まれ。上京後、俳優・ライター・和菓子販売・きき酒師など興味関心のあること全てに手を出し、2019年みなかみ町に移住。こむろ農園営業部長、みなかみ町SDGsコーディネーター、和菓子教室企画など。晩婚晩産の当事者として、well-agingについて模索中。
Instagram→@fumi.k._h
 

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