美術館

美術館をデートスポットに変身させるには

 先日の新聞報道によると、観光庁、文化庁は訪日客をもっと増やすために、美術館、博物館の閉館時間を延長する取組みに力を入れるという。既に延長している美術館もあるが、さらに拡大していきたいとのことである。外国人観光客から要望も多いからだという。
 もちろん大変いいことではある。ただし訪日客の誘致が目的であっていいのだろうか。また閉館時間を延長するだけでいいのだろうか。
もっと本質的なことを忘れてはならない。それは何か。

街の賑わいを創る発想で
 日本の国公立美術館では閉館時間を午後5時か6時にしているところが多い。これはいわゆる「お役所仕事」だからだろう。私は10年以上前から、せめて金曜の夜ぐらいは閉館時間を夜9時にしてはどうか、と言い続けてきた。それだけではない。コンサートホールもそうだ。コンサートの開演時間も日本は午後6時か6時半だが、欧米のように夜8時にしてはどうか、とも提唱してきた。
 その理由はこうだ。

 平日のコンサートホールでは奥さま族ばかり楽しんでいるというのは日本独特の光景だ。そこで開演時間を遅らせると、会社帰りのビジネスマン、ビジネスウーマンも楽しめるようになる。欧米のようにコンサート開演前にプレ・シアター・ディナーも楽しんでからコンサートに行くことも可能だ。結果的に街での消費も喚起される。

 閉館時間が遅い美術館は大人のデートスポットにも変貌する。すると夜、自然と街に人の流れができて「街の回遊性」が生まれるのだ。それが都市の魅力を増やし、活力を高めることになる。決して訪日外国人のためだけではない。もっと本質的な「街の賑わい・活力を創る都市戦略」なのだ。

 各地の都市戦略で見られる共通の問題がある。それはハード偏重だ。ホールや美術館といったハードを整備することばかりが議論される。むしろ開演時間、閉館時間といったシステムを工夫するソフトこそ大事なのだ。

美術館が人を惹きつける
 スペインにかつて鉄鋼で栄えた、屈指の工業都市のビルバオという町がある。鉄鋼業の衰退とともに町は一時寂れたが、町の活性化の一環として有名なグッゲンハイム美術館を誘致した。そのことによって今や見事に人気観光地として再生している。美術館の建物が斬新なデザインであるうえに閉館時間は平日でも夜8時で好評だ。訪れる観光客は週末だけではなく楽しめる。観光戦略としては当然の対応だろう。

 ニューヨークの近代美術館(MOMA)では夏になると、夜、中庭でジャズの生演奏を楽しむ人々で賑わう。単に絵画の鑑賞だけにとどまらない、エンターティメントがあるのだ。この美術館のミュージアムショップはアートの魅力たっぷりの品々が陳列されて楽しいが、そういうわくわくする仕掛けを工夫している。
 また毎週金曜日の夜はフリー・フライデーナイトという入館料無料のプログラムが用意されている。これはユニクロがスポンサーとして契約しており、チケットはユニクロのデザインだ。
こうして集客ビジネスとして随所にアイデア満載だ。

 日本にも東京にある民間美術館で平日の夜9時、10時まで楽しめるところも出てきている。六本木、渋谷といった立地の特色を活かした経営戦略だろう。しかし地方の公立美術館では未だ硬直的なお役所仕事がほとんどだ。

 そういう中で異色なのが長崎県美術館である。公立美術館としては異例の夜8時閉館で、館内にある運河を見下ろすカフェではワインなど楽しむカップルの姿もある。美術愛好家からは多少抵抗もあったかもしれないが、「敷居を低くして、人の集い、くつろぐ場所」というコンセプトを明確にした戦略が多くの来訪者を集めている。

脱お役所仕事で仕掛けづくりを

 美術館、博物館、コンサートホールなどまだまだ十分活かされていない資産は転がっている。特に「夜」という都市の魅力を高めるうえで大事な時間帯が活かされていない。そういう意味で閉館時間は大事な要素だ。ただそれだけでは十分ではない。その時間帯に楽しめる仕掛けづくりも併せて工夫する必要がある。
 それができていない原因はお役所仕事と「美術館とはこういうものだ」という固定観念だ。柔軟な発想でシステムを見直すだけでもっと集客ビジネスとして活きてくる。

 夜だけはBGMが流れる中でグラス片手に絵を鑑賞する。そんな型破りな美術館があってもいいのではないだろうか。美術鑑賞を汚すものとの受け止め方をする人も中にはいるだろうが、そういう人には昼間ゆっくり鑑賞していただいたらどうだろうか。

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