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族議員はやはり健在か、受動喫煙防止法案に徹底抗戦

 加計学園問題に目を奪われているうちに、政治の世界では国際的に恥ずかしい事態になっている。受動喫煙防止法案の今国会での法案提出を断念する。厚労省案は国際標準から原則、屋内罰則付きで禁煙にする。これに対して自民党たばこ議員連盟(約280人)を中心に、自民党が猛反発して徹底抗戦の構えで折り合う見通りが立たないためだ。「たばこを吸う人の権利を認めないのか」「小規模飲食店が経営危機に陥る」などが反対理由だ。塩崎厚労大臣の妥協しない姿勢に自民党は業を煮やしている。
 

これは喫煙家vs 非喫煙家の対立ではない。国際標準の合理的規制vs旧来の族議員の対立だ。

合理性は全面禁止に軍配か
 もそもこの受動喫煙問題は国際的に科学的な根拠に基づいて、議論の余地はない。すでに受動喫煙が肺がんのリスクを上げるのは確実であると科学的に証明されている。非喫煙者が受動喫煙を繰り返すことで、疾患リスクが通常の1.3倍になるそうだ。少なくとも年間1万5000人が、受動喫煙を理由に肺がんなどの疾患で死亡している。
そして分煙では健康被害を防ぐ効果なしとされている。先進国では公共施設やレストランなどの屋内全面禁煙は当たり前になっており、日本は先進国とは到底言えない状況だ。WHOは日本を世界最低レベルとしている。

 問題は全面禁煙によって飲食店の売上には悪影響があるかどうかだ。飲食店では売上に大きな打撃を与えると不安視する声があがっている。日本の民間機関でも全面禁煙化が売上に及ぼす影響の調査が実施され、8400億円の損失との調査結果を発表している。しかしこれは飲食店側の予想を聞き取り調査したもので、不安に思う業者は影響あると予想するものだ。
また既に条例で導入している神奈川県では、飲食店の売上げが減少しているところが多いとの調査結果もある。しかしこれについても、そもそも日本では外食産業は全体に縮小しており、厳しい経営環境だ。他の影響を除いて、条例導入と売上高減少との因果関係を示すものではない。
したがってこれらはいずれも合理的な根拠にはならず、これらを振りかざして反対するのは大いに疑問だ。

 逆に海外では、影響がないというエビデンスはすでに数多く存在している。各国で既に導入されており、影響を分析したものによると、受動喫煙防止の法律を導入しても飲食店の収入が下がることはなく、逆にファミリー客の利用が増えることなどで売上が上がる場合もあるようだ。

にもかかわず、自民党内では影響のある、なしの「水掛け論」が行われている。

こうして見てくると、国際標準の全面禁止をしない合理的理由が見当たらない。

しかも2020年に東京五輪を控えている。
2010年以降、WHOと国際オリンピック委員会(IOC)は五輪開催国の責務として「たばこのない五輪」の推進を要求しており、五輪開催国では、罰則付きで屋内全面禁煙を実施している。
したがって、日本もやらないという選択肢はないのだ。五輪を開催する以上、国際基準は満たさないと国際的にも恥ずかしい。
丸川五輪担当大臣も五輪開催にどういう役割を果たしているのか全く存在感がない。少なくともこの問題では厚労大臣任せにせず、リーダーシップを発揮してはどうだろうか。


自民党の古い利権構造・族議員による徹底抗戦
 自民党内のたばこ議連は徹底抗戦する。対案を出すものの厚労省案を骨抜きにする案だ。
声高に反対するのは、葉タバコ農家や飲食店団体などの支援を受ける、いわゆる「たばこ族議員」だ。この法案に反対しなければ選挙が危ない、と危機感をあらわにする。長年の利権と族議員という旧来の根深い構造が横たわっているのだ。
 個々の飲食店は反対でない店も多いが、業界団体としては反対の立場だ。そしてそれを選挙の支持団体とする議員は当然必死に反対する。

 それだけではない。たばこを巡るたばこ族議員の存在も大きい。国際競争力のない国内葉たばこ業者を国際競争から保護する。JTが国産たばこを全量買い入れし、それと引き換えに、JTがたばこの生産、販売を独占する。それをコントロールするのが財務省だ。たばこ需要の減少がたばこ税の税収減になることを嫌う。
このような長年のもたれ合い構造の関係者にとって、受動喫煙対策はアンチたばこを促進する目障りな存在なのだ。

 もちろん自民党の中にも受動喫煙対策推進の議員もいて、超党派の議連もあるが、残念ながら反対派の大きな声にかき消されている。問題はもっと根深い。法案を先送りして秋の臨時国会の成立を目指すと言うが、果たしてどうだろうか。今は塩崎厚労大臣が自民党に妥協しないでいるので、夏にも予想される内閣改造での大臣交代をにらんで引き延ばしをしたうえで骨抜きにする戦術ではないだろうかとの見方さえある。

 官邸も積極的に調整に乗り出す様子はない。もっともこの問題は「足して2で割る」といった伝統的な手法で妥協をする問題なのだろうか。それでは古い自民党の体質そのものだ。
 これだけ明らかに科学的根拠があって、国際的にも恥ずかしい状況である。問題は判断の物差しをどこに置くかだ。国民の健康よりも旧来の利権を重視しているとしか見えない。にもかかわらず、族議員の抵抗を許しているのは、政権に危機感がないためではないか。


野党はこのチャンスを活かせるか
 それならば野党はどうか。
 自民党がこの旧態依然たるしがらみに身動き取れないならば、野党は国民の支持を得る、いいチャンスではないだろうか。喫煙者の割合はどんどん減少して、今や20%以下までになっているのが現実だ。ということはタバコを吸わない8割の人の支持を得るチャンスかもしれないのだ。
厚労省案を野党共同提案にするのも面白い。

 自民党が族議員の存在で決めきれないでいる「おいしい状況」と思っても不思議ではない。さすがに小池都知事はそこに目をつけ、受動喫煙防止条例を都民ファーストの公約にしている。都議会公明党もそうだ。
しっかりして欲しいのが民進党だ。党内に分煙推進議連も立ち上げたグループもいて、まとめきれないでいる。
 折角のこの「おいしい状況」を活かす力量が問われている。

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