消明者は嘘を吐く/最終日後編


 後編:消明者は嘘を吐く


デ「―――確認したいことがある」
『なんですか?』
デ「初日の投票結果についてだ。記録はしていただろう?」
『まあ、はい。公開情報なので』
 言いながら奏響は、記録用にとGMに支給されていたノートを開いた。
 そこには処刑された者やデリーターに消去された者の名前と、それぞれの役職カミングアウトのタイミングなどがざっくりと示されていた。
デ「なるほど」
神「何か分かるんですか?」
 横からユズカが覗いてくる。分かるというか、なんというか。
デ「あひと」
あ「はーい」
デ「お前はたしか1日目、トマニトラの処刑を誘導するようなことを1番最初に発言したな」
あ「そんなつもりはなかったけど、まぁそうかもね」
デ「だがお前は、あのとき手を上げなかった」
あ「⋯⋯⋯⋯」
デ「貴様は我が、デリーターを炙りだそうとしていることに、ギリギリで気づいたんじゃないのか?」
デ「そして相方の星海がそれにまんまと食いついたのを見て、自分が作ったノリであるにも関わらず、寸前で乗っかることをやめた」
あ「なるほど、そういう『推論』ね」
蛇「そうじゃそうじゃー、怪しいぞー」
デ「貴様もだ蛇艸」
蛇「」
デ「あのとき手を挙げておきながら、貴様はそれを翻して、最終的に星海カノに投票した」
デ「そこについて2人とも、納得のいく説明をしてもらおうか」
神(何でもいいから説明させて、ボロを出させるってことかな⋯⋯)
 テキストならともかく、対面であればとりあえず質問してみるのは悪手ではない。そして回答そのものよりも、目線や息遣い、仕草などを読み取ってそれを手がかりとする。
 時間はない。もうこれで決めるしかない。
蛇「なんでもなにも、あんなのただのノリじゃろ」
蛇「乗っかったはいいものの、はてそんなことで本当に良いのかと考え直し、最後には投票先を変えたというだけのこと」
蛇「それで実際デリーターを当てたわけじゃし、むしろ冴えてるとは思わんか?」
神「まあ、そうなんでしょうか⋯⋯」
蛇「そういえばあひとどの、あのときおぬしはワシに投票先を聞いてきたな」
蛇「極めて軽いノリではあったが、そんな無粋な質問をしたのは、ここまでついぞおぬし1人。相方がうっかり吊られやしないかと、本気で気になっていたのではないか?」
あ「今更思い出したように言わないでほしいなー、怪しかったんならそのとき言えばいいのに」
あ「あとデミスさんの質問だけど、意図に気づいたのはたしかにそう。だから疑われないために乗らなかった。それでなんか不自然なことある?」
あ「村人側なんだから、少しでも疑われないように立ち回るのは当然でしょ。考えすぎじゃない?」
神「まあ、そうかもしれないですね⋯⋯」
デ(ユズカ純粋)
神「あ、そろそろ時間ですね。投票どうします?」
デ「うむ⋯⋯」
 自称占い師の蛇艸、そしてあらはらあひと。
 ゲームの終わり。文字通りの命運。
 とりあえず息を吸った。身体に空気が回り、今自分が生きていることを改めて感じた。
デ「耳を貸せ、ユズカ」
デ「先に知られてしまっては、『面白い』も何もないからな」

『はい、では投票の時間です』
『今日吊る人を、みんなで指さしてください』
 せーの、の声につられて、バラバラに指をさす。

 デミス・クライン 0票
 神無月ユズカ 0票
 蛇艸 0票
 あらはらあひと 4票

神「あひとさん⋯⋯!?」
あ「ははっ、なーんだ」
あ「どっちにしろ、わちきなんじゃん」
あ「これでランダムになったら『面白い』と思ったんだけどなー」
『今日の処刑は、あらはらあひとさんに決まりました』
あ「⋯⋯⋯⋯」
 本当は。
 指をさすのが怖かった。
 殺しは全部、ひとりでやった。
 だって自分でやるしかなかった。
 それでもあの冷たさを、自分の意思ひとつで仮死体を作ったときの恐ろしさを、忘れられない。
 自分のつまらない対抗心で、この指で、またそれを増やすなんて、とても耐えられない。
 けれども、自分に与えられた役割は『嘘吐き』だったから。

あ「うん。じゃあ、また」

 そんないい子ちゃんなセリフなんて、わざわざ言ったりしないのだ。
 ああ、きっと大丈夫。ちょっと休むだけ。
 こんなもの、怖くなんかない。怖く、なんか―――


「へえ、自分に投票ですか」
「普通ならタブーですが、たしかに明記はしていませんでしたね」
「なるほど、なるほど」

「⋯⋯ふふっ」


つづく

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