星乃夜衣

文筆家。noteでは小説を書いていますが、普段は国際政治を中心にジャーナリズム系の執筆を行っています。 お問い合わせはこちらのリンクから https://linktr.ee/hosino8

星乃夜衣

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マガジン

  • 【続編】メメント モリ II(全26話)

    四年前、「死者の残影にアクセスする」という特別な力に目覚めた神崎直人は、その特殊能力を生かして親代でもある渡辺叡治の探偵事務所で働いている。そんな直人に与えられた今回の仕事は、青山涼の素行調査であるが、偶然にも青山涼が通う大学でピエールと名乗るフランス人研究員と知り合う。直人はピエールに接触し、初の潜入調査を試みるが、成績優秀者が集うサークルや学部閥、そして残影を映さない「記憶のない死体」をめぐり、調査は思わぬ展開へと発展していく。サスペンス・ミステリー 全26話

  • 【短編小説】寄生体(全5話)

    四年前、神崎直人が死から生還したあと、母の死をきっかけに「死者の残影にアクセスする」という特別な力に目覚める過去編。 全5話

  • 【短編小説】メメント モリ(全9話)

    神崎直人には特別な能力がある。それは死者の残影にアクセスできることだ。しかしそれはどんな理由にせよ死者の魂を汚す行為である。能力を駆使する度にそんなジレンマに陥る直人は、上司であり、親代でもある渡辺叡治の探偵事務所で働いている。ある夜、直人は一酸化炭素中毒で死亡した山本一郎という男の調査のため、軽井沢へと足を運んだ。残影からは事故死に見えたが、渡辺が先導して調査に加わると、山本一郎の死の背景には事故以外の側面があることが浮き彫りになっていった。山本一郎の死は事故か、それとも故意か。未亡人となった沙織を巻き込んで、探偵神崎直人の調査が始まる。サスペンス・ミステリー。 全9話

  • 逆噴射小説大賞

    逆噴射小説大賞に応募した作品やライナーノーツです。

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【続編】メメント モリ II プロローク 空虚

   一枚の名刺を握った手が若干揺らいだが、平然とした表情を繕うと、神崎直人は目の前に立ち塞がる強面の男に会釈した。男は鋭い光を帯びた三白眼で一瞥し、差し出された『渡辺叡治』の名刺を暫し無言で見詰めていたが、不意に手を伸ばして名刺を受け取ると裏返した。裏には直人には不可解な図柄と渡辺のサインが記されている。 「捜査一課長の荒木だ」  重々しい空気を纏いながら名を告げると、渡辺の名刺を内ポケットに差し込んだ。 「先ほど検案が終わった」 「交通事故で確定ですか」  眼鏡のブリッジ

    • 【続編】メメント モリ II エピローグ 地の果て(+巻末メモ)

      ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  フランスに帰国してから一週間後、ピエールはレマン湖北岸沿いの道を車で走らせていた。ハリスツイードのジャケットにボルドー色を基調としたペイズリー柄のウールのスカーフを首に巻き、ダークブロンドの髪を無造作に纏めた身なりは、カジュアルだがどこか洗練された雰囲気を醸し出している。  緩やかな曲線カーブに沿ってゆっくりとハンドルをきり、空を映し出す鏡のような湖が広がる光景を楽しんでいると、冬の訪れを告げるように、対岸の山

      • 【続編】メメント モリ II 24章 亡霊

        ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  まだ夜明け前だが、羽田空港第三ターミナルの出発ロビーには、すでに人が集まり始めている。渡辺は電子モニターでエールフランスのパリ行き便を確認すると、上階からロビーを見下ろすことにした。周囲に気を配ると、仮眠をとる旅行者や、床に寝転がる外国人の姿が見えるが、漂うコーヒーの香りが心地よくさせる。  四十分ぐらい経過した頃、遠くの方に長身の男の姿が見えた。一瞥しただけで目当ての人物だとわかる。乗客を装っているが、周囲に

        • 【続編】メメント モリ II 23章 二つの光

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  今月に入り、車内での密談はこれが三度目になる。一度目は渡辺と一緒に青山涼を捕獲した時。二度目は荒木に捕獲された時。だが、今回は直人の意思でピエールの車に乗り込んだ。 「人間は本能的な好奇心に逆らえないものです」  ピエールはそんな直人の心中など気に留めることもなく、明るい声で話を進める。聞きたいことは山ほどあるが、動揺を悟られないようにゆっくりと疑問をぶつけてみた。 「最初から僕が能力者だと知ってて、接触してき

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        【続編】メメント モリ II プロローク 空虚

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        • 【続編】メメント モリ II(全26話)
          26本
        • 【短編小説】寄生体(全5話)
          5本
        • 【短編小説】メメント モリ(全9話)
          9本
        • 逆噴射小説大賞
          1本

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          【続編】メメント モリ II 22章 糸の先

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  もし未だに青山夫妻の依頼に事務所が追われていたら、今日はきっと都立国際大学のハロウィーン祭に潜入していたことだろう。だが、こうして土曜日の昼過ぎに荒木捜査一課長の計らいで、マジックミラーが設置された特別な部屋にいる。  部屋の中は暗く、壁に背中を預けるように渡辺が後方から正面を見詰め、手前には荒木ともう一人の刑事が、ガラス越しに映る逸見寛の姿を観察している。あくまで参考人として、逸見寛は招かれているが、荒木の部

          【続編】メメント モリ II 22章 糸の先

          【続編】メメント モリ II 21章 回想

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  問題は何を伝えるかではなく、何を伝えないかだ。霊感が強いと信じ込ませるだけで、怪しまれずにどこまで荒木警視正と情報を共有するのか。  出勤が遅れることを渡辺に告げ、携帯電話を上衣の内ポケットにしまい込むと、直人の口元からため息が漏れた。やはり昨夜、素直に渡辺のマンションに泊まるべきだったと後悔しても、荒木の迫力のある三白眼で凄まれれば、素直に警察の覆面車に乗り込むしかなかった。まさに昨日の青山涼と同じ状況に陥っ

          【続編】メメント モリ II 21章 回想

          【続編】メメント モリ II 20章 束の間の休息

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック 「おはようございます」  渡辺事務所のドアを開くと、幸恵のさわやかな声が響く。周囲に気を配ると、観葉植物がさらに増えている。このまま放置すると事務所がジャングルになりそうな勢いだ。 「おはよう」 「おはようございます。あれ、神崎は?」  平岡が手を止めて渡辺を見上げた。 「神崎は荒木さんの所に寄ってからここに来る。心配ない」  そう云うと、ガラスルームではなく、幸恵と平岡がいる作業テーブルの席に座った。 「コーヒ

          【続編】メメント モリ II 20章 束の間の休息

          【続編】メメント モリ II 19章 吊るされた男

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  直人にとって監察医務院を訪れるのは三度目だが、業務時間外であるため、荒木捜査一課長に連れられて別の入り口から解剖室へと案内された。 「検視前ですか?」  荒木に続いて解剖室に足を踏み入れた渡辺は、驚いた口調で尋ねた。 「これからだ」  荒木は警備員に眼で合図を送ると、直人に消臭剤を渡した。 「すでに腐敗が始まっている。鼻の下に塗るといい」  直人は頷くと、云われた通りに少量の消臭剤を指ですくい、鼻の下に塗った。

          【続編】メメント モリ II 19章 吊るされた男

          【続編】メメント モリ II 18章 帰途

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  東京行きの新幹線に乗り込むと、直人は窓際の指定席に座った。 「それにしてもすごい話でしたね。通過儀礼があるなんて映画みたいです」  青山涼から得た情報を頭の中で整理しながら、窓の外に広がる暗闇を眺めた。混雑を避けて夜に那須を発ったから、東京に着くのは夜の十一時ごろになる。 「よくある話だ。まあ、階級を示すのにトランプカードを用いたのは興味深かったな」  渡辺は周囲に気を配ると、直人の隣に腰を下ろした。 「青山君

          【続編】メメント モリ II 18章 帰途

          【続編】メメント モリ II 17章 捕獲

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  大学の授業が終わった火曜日の昼過ぎ。マンションの少し手前まで来たところで後ろから低いエンジン音が聞こえた。振り向くと一台の白い車がゆっくりと近づいてきている。青山涼は足を止めて車が通り過ぎるのを待ったが、その白いセダン車には見覚えがあった。車は青山涼の横で停車すると、スモークがかった助手席の窓が下がり、父親の顔が現れた。 「涼、話があるから乗りなさい」 「な、何の用?」  青山涼は唐突な出来事に反抗の色を見せる

          【続編】メメント モリ II 17章 捕獲

          【続編】メメント モリ II 16章 月曜日の朝

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック 「渡辺社長、一体どういうおつもりで」  幸恵は眉を顰めると、ガラスルームから出てくる渡辺を見据えた。 「息子さんも交えたご家族の話し合いに同席する」  そう告げると、渡辺は久しぶりに出勤した直人に視線を向けた。 「依頼は完了したが、青山夫妻は息子さんを危険なサークルから退会させてほしいそうだ」 「でも本人は退会する気はないのでは……」  青山夫妻の依頼が息子の素行調査からサークルの退会まで発展していることに、直人

          【続編】メメント モリ II 16章 月曜日の朝

          ミッドナイト・マイアミ

           黒いナイロン製のスポーツバッグのファスナーを全開にすると、ありったけの貴金属や宝石を鷲掴みにしてバッグの中に放り投げた。 「ジョニー、これは一カラットあるよ」  ルイが慌てて床に転がった指輪を拾ったが、 「口より手を動かせ!」  ルイからダイヤの指輪をひったくり、上衣のポケットに忍ばせた。 「コロンビアンが来る前に、ありったけバッグに詰めろ!」 「お、おう」  急いでショーケースに手を伸ばすルイを横目で確認しながら、膨れ上がったバッグを持ち上げ、ひとまずカウンターの奥の部屋

          ミッドナイト・マイアミ

          【続編】メメント モリ II 15章 霊園にて

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  日曜日の朝は、すべてがゆったりと動いている感覚に陥る。  ビルに囲まれた都会とは一線を引くような静寂な霊園に足を踏み入れれば、ほんの四か月前までは葉桜に包まれていた空間も、今では赤や黄色に彩られている。周囲に気を配りながらも墓地に続く石畳を歩き、奥に進んでいくと、やがて上品なジャケットに身を包んだ男性の姿が視界に入る。渡辺は音も立てずに近づくと、声をかけた。 「今週末だろ? ワシントンでの金融会合」  橘宗一郎

          【続編】メメント モリ II 15章 霊園にて

          【続編】メメント モリ II 14章 死相

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  その足音はエレベーターホールへと続いた。  駅の近くに集中する雑居ビルの一角に足を踏み入れた時に、誰にもつけられていないかをすでに確認している。逸見寛はエレベーターに乗り込むと目的場所の階数ボタンを押した。体の動きを一定の角度で最小限にとどめ、顔を上げて表示を見ることもない。  エレベーターのドアが十一階で開くと、飾り気のないエレベーターホールが迎える。夜が明けて久しいが、周囲にはまだ誰もいない。眼だけを動かし

          【続編】メメント モリ II 14章 死相

          【続編】メメント モリ II 13章 罪の意識

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  腕に巻かれた時計を見ると、すでに十時を回っている。綾子は大通りに面したコーヒーショップに素早く入ると、平岡と二人の学生も後を追うように続いた。 「外は冷えるな」  平岡が呟きながら営業時間を確認すると、閉店までまだ一時間ほどある。周囲を見渡すと、騒がしいバーとは対照的に、落ち着いた雰囲気の店内に客は数人しかいない。 「バーの方がよかったかな?」  学生たちにさり気なく聞いてみたが、コーヒーショップの方が落ち着い

          【続編】メメント モリ II 13章 罪の意識

          【続編】メメント モリ II 12章 それぞれの思惑

          ∴ 前章はこちらをクリック ∴ プロローグはこちらをクリック  土曜日の夜の大学周辺は学生たちでひときわ賑わう。通りからは笑い声が響き、肌寒い空気に包まれながらも若者たちの熱気で満ちている。  大学内にはふざけたお遊びのサークルから、真面目で活発なクラブまで多数の同好会が存在する。平岡は調査対象をエリート集団〝フロック〟と定めることで、週末の夜は好んで『ペッパーズ』という英国風のパブにメンバーが集まることを、フロック出身の財界人から突き止めていた。 「茂叔父さん、だったらそ

          【続編】メメント モリ II 12章 それぞれの思惑