月竜 橙雫れき

月は苦手で、とつぶやいた鉱石竜に、不死竜の少年は驚いて問いただします。

どうして? 月は何も、こわいことしないよ。
いいえ、別に月が怖いのではないのです。あなたが生まれる前でしょうから、きっと知らないでしょうけど。

そうして鉱石竜は、ため息をついて語ります。
昔、人食いの月竜がいたのです。同じ竜族にはさすがに手を出すやつではありませんでしたが、他の竜の主だろうと構わず手を出す節操のないやつで。

最期には、主の命を受けた雲竜が討ちました。

どこか寂しそうな目で、つまらない話をしましたねと謝る鉱石竜の手を、不死竜の少年はしっかりと握って言いました。
おともだちだったんだね。
けれど鉱石竜は、つないだ手を握り返して、そっと首を振りました。

いいえ、もう、昔の話ですから。

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