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太陽のように温かな母親の人柄が、チャップリンの才能を開花させた ~ 「チャップリン自伝ー若き日々」を読む ⑤

ある日、児童虐待防止協会というのから訪ねてきた男がある。
ルイーズはカンカンに怒った。
協会としては、シドニイと私が早朝の三時ごろ夜回りの焚火のそばで眠っていたという報告を警察から受けたので、それでやってきたのだという。
なるほど、そういえばその晩も、わたしたちはルイーズに閉めだされ、お巡りさんに頼んでドアを開けさせてもらい、やっと中にはいれたのだった。
しかしその数日後、ちょうど父は地方巡業で留守だったが、母が精神病院を退院したというしらせがルイーズにあった。その翌日だったか二日目だったか、家主のおくさんがきて、シドニイとわたしに会いたいという婦人が来ていると言った。
「お母さんよ」とルイーズがいった。
ちょっとどうしていいかわからなかったが、まずシドニイが一気に駆けおりて母の両腕にとびこむし、わたしもつづいた。
前と少しも変らない、ニコニコ笑っているやさしい母、彼女はいきなりかたくわたしたちを抱きしめた。
ルイーズと母とは顔を合わせるのが気まずいらしく、わたしたちが荷物をまとめる間、母は入口で待っていた。といって双方とも、べつに恨みや悪意があったわけではなく、それどころかシドニイに対してさえ、さよならをいうときなど、ルイーズの態度は非常によかった。

平成25年刊 チャップリン自伝 ー 若き日々(新潮文庫)P71

母ハンナが精神病院に入院したために、父に預けられることになったチャップリンと兄シドニイだったが、後妻ルイーズから罵られたり、家から閉め出されたりなど、ひどい仕打ちを受けていた。
母ハンナは、退院するいや否や、後先も考えずに二人を引き取りにやってきている。
チャップリンと兄にとって、これがどんなに嬉しい事であったかは、想像に難くない。

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