みそ五郎伝説の高岩山に抱かれた小さな分校 ~ 南島原市立長野小学校塔ノ坂分校最後の一日
島原半島には幾つかの巨人伝説があるそうで、それは何と言っても中央に雲仙という威容を誇る火山があるためかとも思うのですが、その中でも西有家(にしありえ)町の「みそ五郎」伝説は有名です。
伝説を非常に要約すると、雲仙から近い場所にある岩山、高岩山には「雲仙に腰かけて、高岩山に足を乗せる」ほどの大男がいて、普段は人々から好物の味噌を貰って暮らしているのだけど、ひとたび水害などの天災が起きると、人々の為に活躍するというものです。
その伝説の高岩山の麓に抱かれた里に「塔ノ坂(とうのさか)」という集落があります。よほど親類か知人がいない限り訪れることもないような山の中の小さな集落ですが、その集落の中の小さな分校が閉校するという記事を見て、最後の一日を見ておきたいと思いました。
島鉄バス「塔坂入口」から下る細い道が塔ノ坂へと続く道です。
「塔ノ坂入口」の小さな看板が見えます。最後の年度平成24年度の児童数は6名。うち2名が6年生ですので、3/22の終業式は4名の子どもたちが最後の一日を分校で過ごすはずです。
沿道には「スクール・ゾーン」の看板や、下画像のように「子ども・飛び出し注意」の看板などが次々に現れます。子どもたちを地区として見守っていることがひしひしと感じられます。
奥に見えている山が「みそ五郎」伝説の高岩山です。
まるで映画セットのような山の中の小さな集落。ここが塔ノ坂地区です。
その小さな集落の中心の、わずかな平地に建つのが長野小学校塔ノ坂分校です。
創立は100年前の大正元年(1912)。当時は長野尋常小学校塔乃坂分教場として開校されました。
校地は30坪で教室は1教室。児童数は約29名であったと言います。
なんにせよ、100年続くということは大変なことです。
校庭の片隅には「百周年」を記念する石碑が立っていました。(右側)
まさかその1年後(正確には4ヵ月後)に「閉校記念碑」が立とうとは、創成期にあった人々は想像できたでしょうか。
現地に着いたのは午前9時頃。この日が分校に子ども達が来る最後の日ですが、快晴であり、小さな校舎には朝日がさしていました。
中からはバタバタという音が聞こえます。始業式は何かと忙しいし、何より最後の一日ですから、お邪魔はしないことにして帰るつもりでした。
しかし、ちょうどそこに、本校である長野小学校の終業式に向かう子ども達と先生が出てこられました。挨拶をし、お願いした上でカメラを向けると、この笑顔です!
この笑顔こそが、この塔ノ坂分校で育った子ども達の「全て」を物語っていますね!「4月からも頑張って下さいね」と声を掛けると、照れ笑いしながら子ども達と先生は車で出かけて行かれました。
皆が行ってしまった後の分校は物音ひとつしなくなりました。当然のことですが、「学校」とは建物ではなく、子ども達と、そして先生がいる場所のことです。
許しを得て、学校を少し撮らせてもらいました。
分校の玄関。100年の間、増改築はあっても、多くの子ども達がくぐった場所です。
けっして広いとは言えないですが、数々の思い出に溢れるであろうグラウンド。
外は新しく見えますが、内側は木の香りの漂う、なつかしい木造校舎そのものが残されています。
学校文庫や教材、そして生活の道具。
この分校で学んだ者だけが共有できる、特別な「教育」もきっと多いことでしょう・・・。そんなことを感じさせる校舎です。
そして校地から見渡す郷土の景色というものも、けっして忘れることのないものでしょう。
冬になると氷結する雲仙・白雲ノ池に近い、ここ塔ノ坂地区は標高が高く、暮らしの上で大変なことも多いかと思いますが、それだけに地区全体で学校と子どもたちを守り育てていこうという気概が感じられます。
校舎内には掘りごたつのある部屋があり、雪で通勤が出来ない時には教師が泊り込むということもあったそうです。こんなあたたかい分校が無くなってしまうというのは、なんとも無念としか言いようがありません。
平成25年4月現在、分校の子ども達の笑顔は今も健在であることを祈るばかりです。
(元記事投稿:2013年04月12日22:38)
今、思えばフットワークが軽かったなと思う。
分校で過ごす最後の一日だったのだが、他に取材らしきものは一切見当たらなかった。
きっと記者のような存在として、温かく迎えてくださったのだろう。
今では食堂になっているということだが、一体どれくらいの効果があるのだろうか?
それよりも「第二、第三の学校」として、学校に行きづらい子どもや生徒たちが通えて、出席として認定できるような施設にすることが、こういった校舎の本分にかなうと思うのだが。
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