「アル中日記」⑥「天命」
2021年5月某日。私達は「アルフロメオ4C」を契約した。「決めた!買うよ!」と言った次の瞬間、N氏は天を仰ぎ、静かに大きく息を吐いた。この時のN氏の表情を、我ら夫婦は生涯忘れる事はないだろう。本来受注生産なのに、ちょっとした運命の悪戯で、オーナーが誰になるのか分からないまま船に乗せられ、はるばる遠い日本にやって来た1台。一度は完全に諦めた「夢のスーパーカー」。それがN氏の粋な計らいで我が家にやって来ることとなった。
これぞまさに“縁”のなせる技。
N氏には心から感謝したい。本当にありがとうございます。そんなわけでこの運命の4Cとの出会いを大切にしようと、清水の舞台から飛び降りる決断をした。
そのはずだった。
ところがハンコをついた瞬間、頭の中に様々な想いが押し寄せて来て、改めて自分のしでかした事の大きさに戸惑ってしまった。
確かに4Cは「乗ってみたかった」。そうだ「欲しかったというよりも乗ってみたかった」というのが本音だ。アルファロメオでは史上初の量産ミッドシップカー。モデナのマセラティの工場で、1台1台ほぼ手作りで生産される。
特筆すべきはF1と同じプリプレグ方式で生産されるカーボンモノコック。同じ手法で作られている他の車種はフェラーリやマクラーレンなど5000万クラスのスーパーカーのみ。しかし4Cはその1/5以下で購入可能。見た目だけじゃない、中身もちゃんとしたスーパーカーが1000万円以下で買える。
まさに「アフォーダブル・スーパーカー(手の届くスーパーカー)」なのだ。
ただし「手が届く」とは言うものの、その価格は自分の年収以上。しかも快適装備は手動のエアコンくらい。サイドミラーも手動。トランクは一応付いているものの、機内持ち込み用トランクが1個入るだけ。しかも温度が60度以上になるから生鮮食料品は入れられない。つまり我が家のスーパーカー(スーパーに行くためのクルマ)としては落第点。そんなただ走るだけの趣味車に注ぎ込むには、誰がどう見積ったって高い。
支払い総額のうち、今回用意できたのは1/3。残りは5年ローン。家のローンが、あと10年以上残っているのに5年ローン。老後を生き抜くために2000万円は貯蓄しなさいとテレビで言っていたのに5年ローン。インテリジェントローンのおかげで、月々の支払いは何とかなりそうな額に落ち着いたものの、世の中そんなに甘くない。それを払いつつ、5年間で更に残価分貯めないと、4Cは自分のものにならない。これはとてつもない足枷だ。そんなわけで入手できた喜びはどこはやら。今は「悲壮感」「やっちまったなぁ感」が9割。
試乗した感想は、正直申せばただただ怖い。自分が4C を颯爽に乗り回す姿を想像する事が未だできない。でも買ってしまった。乗ると誓った。結局無駄金だったと後悔することのないよう精進するしかない。
ふとあの人の言葉が頭をよぎった。
この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし、踏み出せばその一足が道になり、その一足が道となる。 迷わず行けよ 行けばわかるさ。
猪木ボンバイエッ!
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