ゆるふわアニマルの放射線防護システム

むしコラム「ゆるふわアニマルの放射線防護システム」

 ゆるふわアニマルといっても、クマムシのことではありません。今回は、むしマガにもたびたび脇役として登場する、ヒルガタワムシの放射線耐性についてお話しします。

☆【画像】ヒルガタワムシ
http://goo.gl/Ki1Jp

 これまでにむしマガ0, 57, 86, 89, 93号などでヒルガタワムシについて少し触れてきました。ヒルガタワムシは輪形動物門に属するワムシの仲間で、ヒルのように這う動きを見せることから、このような名前がついています。体のサイズはクマムシと同じか、それよりもちょっと小さいくらいの微小動物です。

 ヒルガタワムシは、クマムシと同様に、路上のカラカラに乾いたコケから多く見つかります。クマムシを探そうとコケを採取してくると、その中からおびただしい数のヒルガタワムシがクマムシと一緒に出てくることがよくあります。

 ヒルガタワムシは肢があるわけでもなく、クマムシに比べるといささか可愛さが足りないのですが、そのへんてこりんな動きは、そこはかとないゆるふわ臭を醸し出しています。

 しかし、ゆるふわだからといって、この生き物をなめてはいけません。ヒルガタワムシは、クマムシに勝るとも劣らない驚異的なストレス耐性能力をもっているのです。

 ヒルガタワムシも、クマムシと同じように周囲に水がないと活動できません。周囲から水がなくなると、やはりクマムシと同様に乾燥して乾眠とよばれる無代謝の仮死状態に移行します。そして水が与えられ吸水すると、再び活動を始めます。まぁ、クマムシと同じ環境に適応しているので、ヒルガタワムシにも同じような能力があるわけですね。

 放射線に対する耐性も同様です。ヒルガタワムシは1120グレイのガンマ線を照射されてもほとんどが生存し、生殖能力を保持できる場合もわずかですが見られます。ちなみに、ヒトでは10グレイほどのガンマ線を短期間に浴びると、ほぼ助かりません。

 ヒルガタワムシもクマムシも、過去から現在にかけて、自然環境の中で高線量の放射線にさらされてきたわけではありません。つまり、放射線に耐性をもつように進化した、直接的な理由(選択圧)は存在しないのです。では、なぜ、かれらはここまで極端な放射線耐性能力を身につけたのでしょうか。

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