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NASA進出への伏線

★クマムシ研究日誌

 私がクマムシの研究を初めて10年以上が経ちました。ここでは、これまでのクマムシ研究生活を振り返りつつ、その様子を臨場感たっぷりにお伝えしていきます。

【第46回】NASA進出への伏線

 いよいよ宇宙生物科学会議での発表の日がやってきた。僕の場合はポスターに印刷された研究成果を発表する形式で行う、ポスター発表というものだ。

 微生物ばかりの発表の中で一人だけ動物を扱った研究発表をしていたので、ほとんど相手にされないのではないかと予想していた。しかし実際には、僕のところにはNASA宇宙生物学研究所の幹部も含めて数十人が聞きにきてくれた。しかも、皆とてもフレンドリーに話しかけてくれる。

 ほとんどの人はクマムシのことを知らなかったが、興味はもってもらえたように感じた。「もしかしたら社交辞令で皆優しくしてくれているのかもしれない」とも思ったが、それでもよかった。誰も聞きにきてくれずに深い孤独感を味わうような事態にならずずに済んだだけでも、十分に救われたからだ。

 ところで、宇宙生物科学会議では大学院生の発表を対象としたコンテストが設けられていた。僕も大学院生なので、このコンテストにノミーネとされていた。ノミネートされた大学院生は70名ほどである。発表を聞きにくる参加者の中に審査員が紛れていて、発表内容を審査するのだ。

 このコンテストでは審査委員会により1位から3位までが選ばれ、NASAから賞金が出る。1位は1000ドル、2位は750ドル、3位は500ドルだ。日本の学会では考えられないような額の賞金を、学生が受け取るチャンスがあるのだ。ちなみに2012年に行われた同会議では、賞金額が2006年当時の二倍になっていた。

 宇宙生物科学会議に参加する前は「もしかして自分の発表が入賞したらいいなぁ」などと思っていたが、実際に会場で他の大学院生の発表を見ているうちに、そんな期待をもっていた自分が恥ずかしくなっていった。

 ところが、である。発表の翌日に自分のポスターには「Finalist」のシールが貼られているではないか。自分が決勝ラウンドに進出してしまったのである。

 これはまったく予想外の出来事だった。ファイナリストに選ばれた10名の発表者は、もう一度発表の機会が与えられる。審査員はこれらのファイナリストの発表を再度審査し、決選投票が行われて1位から3位までが選出されるのだ。

 ここまできたからには、是が非でも3位以上を狙いたい。そう思い、決勝ラウンドで与えられた時間はテンションを上げながら懸命に発表を行った。

 そして翌日の会議最終日の朝、NASA宇宙生物学研究所所長のBruce Runnegar氏からコンテストの結果が発表された。何と僕は第2位に選出されてしまったのだ。

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