見出し画像

ep,1 記憶(メモリ)の彼方

事あるごとにこの船からはデータという鋼管の鋼やら鋼鉄やらサンゴやらマラカイトやらはたまたくずやらが出入りし、それらが解凍されていく。
今潜り込んでいる船はいわゆる半物質の次元のもので、時限から解放された母船だ。船は今、すでに閉館された博物館に着陸している。


「おい、俺はこれを見るからそっちはまかせたぞ。」
「「わたし」でしょう?」

集積口から顔を出す一人の「船員」にため息をつく、こいつは仕事中にプライベートに干渉してくる数少ない輩の一人である。紅一点という立場でありながらその紅が抜け落ちていることに、哀れみでも感じたのだろう。

「お前は「わたし」の医者になる前にやるべきことがあるんじゃないか?たとえば、そうだな今すぐその頭を解剖して私の記憶を探り直せ。お前は男になる前にはなんだったか、なんて覚えちゃいないだろうそういうことさ。」

「ハチャメチャなこと言わんでください。」

この男はすぐに困ったように頭をかく。要するに「もとからそうだったんだよ」という返答が正解だが、もういい。いつものことだ。

「ったくこのポンコツコミュニケーター。機能だけしゃしゃり出て変な欄を見せてくるんじゃない・・・。」

今触っているのは数世紀前までは「PC」と呼ばれていた代物だ。なるほど、仕組みはよくわからんがこいつの貯蓄されたデータからバックアップをとることができれば、我々の任務も一歩、前進したことになる。

この持ち主の名前が分かれば、だがそいつはおそらく「男」だろうなと想像しながら、他の船員が来る前に画像を閉じた。ポケットから出した携帯食にかじりつく。
昼食だ。

ーーー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?