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書評誌「本の雑誌」が初めて作る10代向けブックガイド『10代のためのための読書地図』(7月上旬発売)の目次や試し読みページを公開!

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つらいときも さびしいときも
たのしいときも どんなときも
本がある。

書評誌「本の雑誌」初の10代向けのブックガイド。「朝の読書」や「夏休みの読書感想文」対応の「本の雑誌が選ぶ10代におすすめする100冊座談会」から「ジャンル別10代おすすめ本ガイド」、全国書店員さんがおすすめする10代に読んでほしい本&10代のときに読んでおきたかったと後悔した本など、興味を引きやすい角度から本を紹介。

また本屋さんでの本の買い方・探し方ガイドや本好きのためのハローワークなどなど、「本の雑誌」ならではの切り口で、10代の読書に迫る。

定価1980円(税込)
■A5判並製 ■280ページ
■978-4-86011-459-6

目次

本の雑誌が選んだ10代におすすめする100冊
[小・中・高 世代別&朝の読書・夏の読書感想文対応]
新井久幸・池澤春菜・大森望

ジャンル別10代おすすめ本ガイド
〈友だち〉北上次郎 
〈運動部〉髙坂浩一 
〈文化部〉久田かおり 
〈歴史〉吉川浩満 
〈性〉大塚真祐子 
〈宇宙〉堺三保 
〈名探偵〉北原尚彦 
〈科学〉仲野徹 
〈特別な才能はないけど〉沢田史郎 
〈社会〉永江朗 
〈刑事〉西上心太 
〈恋愛〉吉田伸子 
〈学校〉藤田香織 
〈仕事〉辻山良雄 
〈こわい話〉霜月蒼 
〈詩歌〉石川美南 
〈戦争〉日野剛広 
〈ダメだけどかっこいい〉花本武 

〇本の世界
本の買い方・探し方 内田剛 
本屋さんや図書室で使いたくなる用語集 鈴木毅 
読書感想文の書き方 杉江松恋 
10代に売れている本はなに? 古幡瑞穂 
なぜ若い時に本を読むことが必要なのだろう 田口幹人 
おもしろいぞ、教科書&副読本 松村幹彦 
本屋さんへ行こう! 及川晴香 

〇読んで旅する 
君の住む街が舞台 GOTO読書! 成田開生 

〇読書の季節
太宰治以上に「人間失格な本」 高頭佐和子 
〝名探偵コナン〟が導くミステリー 逸見正和 
辞書という攻略できないゲームで遊ぶ 山本貴光 
うつむきがちな君へ 藤井基二 
司馬遼太郎のすすめ 浜本茂 
これが人気! 本屋さんに訊いてみた。 山井洋子 

〇全国書店員アンケート
10代におすすめする本&10代のときに読んでおけばよかったと後悔した本

大竹真奈美 宮脇書店青森店
櫻井美怜 成田本店みなと高台店 
坂嶋竜 さわや書店イオンタウン釜石店
高田直樹 うさぎや
長谷川雅樹 ブックデポ書楽
伊野尾宏之 伊野尾書店
坂井絵里 今野書店
酒井七海 未来屋書店相模原店
高木久直 走る本屋さん高久書店
實山美穂 文信堂書店長岡店
清水和子 正文館書店知立八ツ田店
山崎蓮代 紀伊國屋書店名古屋空港店
樋口麻衣 勝木書店新二の宮店
山中真理 ジュンク堂書店滋賀草津店
石本秀一 丸善ジュンク堂書店神戸外商部
三島政幸 啓文社西条店
津田千鶴佳 今井書店経営企画本部
上田寛志 ブックセンタークエスト小倉本店

おまけ・10代本好きのハローワーク

[ジャンル別10代おすすめガイド]友だち いまだけの友でいい 北上次郎

 二十歳の誕生日のことを覚えている。部室に行っても後輩が数人いるだけで、同期の友が一人もいなかった。溜まり場の喫茶店に行っても雀荘を覗いても、誰もいない。
 約束をしていたわけではなかったが、いつも部室には誰かがいるのだ。一人くらいいるだろうと思っていた。
「おれ、今日、誕生日なんだよ」
「そうかあ」
 そういうどうでもいい会話をしたかった。ところが誰もいない。自宅に帰る途中で、いないだろうなとは思ったが、高田馬場で下りた。歩いて十分ほどのところに同期のM君が住んでいた。彼の部屋で同期の連中と何度か無為な時間を過ごしたことがある。溜まり場というわけではなかったので、そんなうまい具合にいるわけがないよな、とは思ったが、案の定、アパートを訪れてもM君自体が不在だった。高田馬場の駅に戻る途中、そうか、これがオレの二十歳の誕生日なのか、と思ったことがつい昨日のことのようだ。
 あのとき、特定の誰かに会いたかったわけではない。一人でもいいから、仲のいい同期の誰かがいて、どうということのない会話をしたかった。
 私たちは一人で生きていけるほど強くはない。一生の友を持て、とよく言うが、一生の友でなくてもいいのだ。そのときの無聊(ぶりょう)を慰めてくれる友でいい。その時々の、そういう友がいてくれれば、私たちは心乱されることなく生きていくことが出来る。
 そんなのは本当の友ではない、とおっしゃる方もいるかもしれないが、本当とは何か。そんなお題目よりも、いまの友でいい。もちろん、一生の友と出会えるものであるならば、それに越したことはないけれど、たとえそういうことがなくても、それはけっして君の欠点ではない。君が人よりも劣るということではない。そのときだけの友が、その後本当の友になることだってあるのだ。
 たとえば、彩坂美月『向日葵を手折る』という小説がある。父親が死んだので母と一緒に山形の山間の集落に引っ越してきた小学六年生のみのりを主人公にした長編である。ミステリーなのであまり詳しく紹介するとネタばれになりかねないから、ここでは控えめにしておく。みのりの目に映ったことは真実の一面であり、その多くは水面下に隠れていた、という構成は珍しくはないものの、その描写が瑞々しいので物 にどんどん引き込まれる。小学生時代の友が一生の友になることだってもちろんあり得るが、はたしてみのりの場合はどうなのか。この物語で描かれるのは4年間なので、その後どうなっていったのかはわからない。いや、エピローグではもう少しあとの話が出てくるか。それでも十年後、二十年後が描かれるわけではないので、将来のことはわからない。
 それでも転校してきたみのりのそばに彼らがいて、同じ時間を過ごしたことは事実なのだ。たった一人でいたわけではない、ということがみのりを救っている。
 それをもっと明快に描いているのが、瀬尾まいこ『あと少し、もう少し』だ。これは中学の駅伝大会を描く長編で、つまり、スポーツ青春小説である。陸上部で長距離を走るのが3人しかいないので、よその部からメンバーを集めてくるというのが、この物語の発端てある。そうして集められた一人がバレー部の大田君だが、この不良少年はバレー部の練習にほとんど出ていない。ただ、走る才能だけはあるので、部長の枡井君が声をかけるのである。
 駅伝というのはリレーであるから、メンバーの呼吸が合っていなければならない。ところが寄せ集めということもあり、六人の駅伝メンバーの仲はあまりよくない。その彼らがいかに力をあわせて駅伝を走るのかを描く長編で、ラストには熱いものがこみあげてくる傑作だ。
 このとき、いやいや走っていたと思われていた大田君が何を考えていたかは、五年後に書かれた続編『君が夏を走らせる』で描かれる。続編とはいっても、こちらは駅伝小説ではない。高校生となった大田君のひと夏を描く長編で、瀬尾まいこの作品から一作選ぶならこれ、というくらいに個人的には好きな作品だが、今回の趣旨からはズレるので、詳しい紹介はぐっと我慢。
 大切なことは、駅伝メンバーと過ごしたことが中学時代の大田君にとって救いであったことだ。『君が夏を走らせる』を読むかぎり、駅伝メンバーとはその後会っている形跡がないけれど、中学時代には「そのときの友」が大田君には必要であったのである。そうでなければ悪い仲 とつるんで、道を誤っていたかもしれない。一瞬だけの友、であったかもしれないが、その一瞬が、大田君を高みに連れていくのである。
 宇佐美まこと『夜の声を聴く』もこういう流れの中で読みたい。これは夜間高校小説だ。隆太と大吾は定時制高校の同級生で、大吾が住み込みで働くリサイクルショップの屋根裏部屋を溜まり場にしている。なぜ大吾がここに住み込んでいるのかは紹介すると長くなるので省略。隆太が定時制高校に通うことになった理由も省略。この長編は2020年のベスト1にした小説なので、ぜひとも読まれたい。
 ここでは、隆太と大吾がある一時期、一緒に過ごしたことと、それが二人の人生にとって大きな分岐点であったことを指摘するに止めておく。ここにもまた、「そのときだけの友」がいる。
 もう与えられたスペースの残りが少なくなっているので、あとは駆け足 だ。ここまで小学生、中学生、高校生と見てきたが、このあと大学生になっても(それが『鴨川ホルモー』だ) 、社会人になっても(これは『凸凹デイズ』で読みたい)、一瞬の友がいかに大切かという例はいくらでも見ることが出来る。友はいつでもいるのだ。


〝名探偵コナン〟が導くミステリー 逸見正和

 「謎があり、伏線(それとない手がかり)があり、最後に解明される」ハラハラドキドキの小説がミステリ。そんなミステリの扉を、令和一有名な探偵『名探偵コナン』(青山剛昌、小学館・少年サンデーコミックス)の第一巻、「ボ、ボクの名前は、江戸川コナンだ!!!」のセリフから開けてみましょう。

 コナン=コナン・ドイル

 世界一有名な探偵シャーロック・ホームズの生みの親です。一日中、事典を書き写すだけの仕事の裏で事件が進行する「赤毛連盟」などの第一短編集『シャーロック・ホームズの冒険』(創元推理文庫、角川文庫など)をまずはどうぞ。ホームズは短編中心で読みやすく、四作ある長編では、謎の魔犬が出てくる『バスカヴィル家の犬』が怖くて面白いです。ドイルは他にも『失われた世界』(創元SF文庫)などのSFも書いています。※ホームズは創元推理文庫、角川文庫、光文社文庫、青い鳥文庫など多数。
 そのホームズにはモーリス・ルブランによる怪盗紳士ルパンというライバルがいます。ルパンは『怪盗対名探偵』(ポプラ社)でホームズと闘いますが、実はこれは別人物だったりします。日本ではなぜホームズになっているのかを探るのもミステリの楽しみの一つです。泥棒で紳士、ときには探偵でもあり、超人的な活躍で次々冒険を繰り広げていくルパン。1958年(!)の『奇巌城』から始まるポプラ社の南洋一郎による怪盗ルパン全集全20巻(以前は30巻)は、原作どおりではなく子供向けに変更している部分が多いのですが、ずっと読まれ続けているのはとにかくかっこいいからです。そのおかげで今でも日本では秋木真『怪盗レッド』(角川つばさ文庫)、はやみねかおる『怪盗クイーン』(講談社・青い鳥文庫)とたくさんの怪盗たちが活躍しているのです。いずれは本格的な訳へも手を伸ばしてみてください。
 偕成社文庫やハヤカワ文庫が本格的な翻訳です。偕成社の全集(品切)が図書館にあると思います。

 江戸川=江戸川乱歩

 名前の由来は、意外な犯人が登場する世界初のミステリ『モルグ街の殺人』(新潮文庫)を書いたエドガー・アラン・ポーから。日本のミステリの父ともいわれ、1923年の暗号ミステリ『二銭銅貨』でデビューし、名探偵明智小五郎と怪人二十面相を生み出し大正から昭和に活躍しました。二十の顔を持つ変装の名人『怪人二十面相』から始まる少年探偵団シリーズ(ポプラ社)は今でも大人気です。大人ものの乱歩を読もうと思ったら明智小五郎が奇妙な犯罪者と闘う『黄金仮面』『蜘蛛男』『人間豹』(創元推理文庫など)がお勧めです。ちなみにある作品にはある有名な怪盗が出てきたり……。
 さて、大人向けのミステリを読もうと思ったとき役立つのは『東西ミステリーベスト100』(文春文庫)です。日本と海外のオールタイムベストをまとめた本です。1985年と2012年の2回実施しており、今売っている文庫は2012年版です。
 海外の1回目1位、2回目2位の名作は1932年のエラリー・クイーン『Yの悲劇』(角川文庫)です。クイーンは二人組のペンネームですが、X、Y、Z、『レーン最後の事件』と探偵ドルリー・レーンが活躍する悲劇四部作はなんと違う作家(バーナビー・ロス)を装って書かれました。そのクイーンは同姓同名の名探偵エラリー・クイーンが活躍する1929年の『ローマ帽子の秘密』から始まる国名シリーズが有名です。国名シリーズは全てこれ傑作ですのでぜひ読んでみてください。角川文庫が新訳です。
 国内では2回とも1位をとった作品があります。瀬戸内海の島で起きる連続殺人事件に名探偵金田一耕助が挑む横溝正史『獄門島』(角川文庫)です。『獄門島』の前の事件は『殺人鬼』という短編集に入っています。こういうのもシリーズを読む楽しみです。20年にわたる謎を解く最後の事件『病院坂の首縊りの家』までたくさんの作品が書かれています。※金田一耕助の主な作品は角川文庫で読めます。日本探偵小説全集全12巻(創元推理文庫)の横溝正史集にも収録。
 明智小五郎、金田一耕助を紹介しましたが、高木彬光『刺青殺人事件』(光文社文庫)から登場する神津恭介の三人が日本三大名探偵といわれます。
 また三大といえば、夢野久作『ドグラ・マグラ』(角川文庫)、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』(河出文庫など)、中井英夫『虚無への供物』(講談社文庫)は三大奇書といわれます。そこに竹本健治『匣の中の失楽』(講談社文庫)を含めて四大奇書ともいわれ、いずれも大長編です。いつか読んでみてください。
 おまけで、週刊文春ミステリーベスト10の20世紀国内部門第1位、天藤真『大誘拐』(創元推理文庫)を紹介します。「我々の要求する身代金は百億円である。」そう、誘拐の身代金はなんと100億円! 誰も死なない
 ミステリとして楽しめると思います。1978年のこの作品は1991年に岡本喜八監督により映画化されています。

 乱歩から始まった日本のミステリは一時期、名探偵ものミステリが流行らない時期がありました。1976年に横溝正史『犬神家の一族』が映画となり一大ブームが起きます。それから5年、1981年の島田荘司『占星術殺人事件』(講談社文庫)でまた名探偵の時代が来ます。6名の女性が殺され、それぞれ体の一部がないという戦前の事件に40年たって、占星術師で名探偵の御手洗潔が挑みます。最後、あっと驚く結末が待っています。
 あっと驚くラストといえば、1987の綾辻行人『十角館の殺人』(講談社文庫)です。建築家中村青司が手掛けた十角形の建物で起きる連続殺人の本作は発売から30年で100万部を超えました。中村青司の手がけた奇妙な館で起きる殺人事件はシリーズ化され、館シリーズと呼ばれます。館シリーズをきっかけに、新しい「古きよき時代のミステリ(名探偵や孤島での殺人など)」をさして「新本格」という言葉が使われるようになりました。同じ新本格派としては、名探偵法月綸太郎シリーズの法月綸太郎、大学生の有栖川有栖と作家の有栖川有栖と二つのシリーズを書く有栖川有栖などがいます。
 新本格の作家さんたちが好きな作品として、よくあげるのが、名探偵星影竜三が活躍する鮎川哲也『りら荘事件』(講談社文庫)です。第一の殺人では死体の傍にトランプの〝スペードのA〟が置かれ、第二の殺人ではスペードの2が……という作品。『リラ荘殺人事件』(角川文庫)などタイトルが違うこともこれまたミステリな作品です。くわしくは文庫の解説をどうぞ。
 綾辻行人は『時計館の殺人』で、その年で一番面白いミステリに与えられる日本推理作家協会賞を受賞します。なんと同時受賞の宮部みゆきは、綾辻さんと生年月日が同じです。宮部みゆきの受賞作『龍は眠る』(新潮文庫)は超能力を扱ったSFでありミステリでもあるという傑作です。他に少年が主人公の『魔術はささやく』(新潮文庫)はラストの一行が素晴らしいです。
 そして、これだけ「書いても書いても終わらないミステリの紹介」は「読んでも読んでも終わらないくらい作品がある」ということでもあります。そう、冒頭に書いたミステリの扉は開かれ、閉じられることはありません。みなさんもぜひ、たくさんのミステリを読んでください。きっと他では味わえないハラハラドキドキが待っているはずです。

逸見正和(へんみ まさかず)
江戸川乱歩、横溝正史、島田荘司、綾辻行人で人生が決まる。出版社勤務。

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『10代のための読書地図』
本の雑誌編集部編
【7月上旬発売】

定価1980円(税込)
■A5判並製 ■280ページ
■978-4-86011-459-6

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