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火星

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2020年7月の記事一覧

まだ輪郭の見えない愛の話

号泣してもおかしくないような状況で涙が一寸も出ないときに、鏡に写った自分と目を合わせ続けると、次第に、出るはずであった涙の量だけ視界が歪んでくる。どうして雨が降っているのか。「梅雨だから」という回答が聞こえてくる前に、ホーチミンのスコールの街を思い出す。エネルギーも滅茶苦茶で行動も滅茶苦茶だった二十代の私が作った記憶は、人生の走馬灯の一幕としては、絶妙な鮮やかさと強烈な美しさに仕上がっている。

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