EMSの話

EMSという言葉を最近よく耳にする事が多くなってきました。
我々の業界では20年以上前からEMSに関わってきましたが、その始まりはミュンヘンオリンピックの頃からになります。
当時、ソ連の体操選手がとてもムキムキな肉体で出場したそうです。現ロシアのオリンピック選手はドーピングの問題などで話題になりましたが、EMSKの始まりもそうした肉体改造の一端として開発されました。
低周波の項で触れましたが、筋の出力を上げるには低い周波数で刺激を行うということを申し上げました。当時のソ連の研究者たちは、では一体どれくらいの周波数が筋肥大に効果的なのかを研究者し、その結果50Hzが筋収縮に適しているということを発見します。そして50Hzで最大筋力を出せるくらいの出力で通電を10秒行い、50秒休ませるというプログラム設定をし、通常トレーニングと共に併用したところ、選手の筋肉は通常のトレーニングを行った選手と比べると筋肥大が認められた。というのが始まりだと云われています。その後このトレーニング方法を『ロシアン電流』と呼ばれましたが、低周波の弱点である皮膚抵抗の問題により、あまり普及はしませんでした。
しかし、技術の発展とともに中周波や干渉波、更には立体動態波という皮膚抵抗の問題が払拭されたなかで、また頭の良い人たちは考えます。2500Hzの中周波領域の電流を使用し、パルス発信(電気を流すタイミング調整みたいなものだと思ってください)で50分割します。そうすると50Hzの電流の束が50本並んでいる状態を作り出し、低周波の50Hzと似た状態を作ります。そうしたことにより、低周波での効果と同等に筋収縮が得られ、また皮膚抵抗の問題もなく通電することが可能となりました。そして通電の波形(電気の波の強弱だと思ってください)を台形にすることにより、通電時の急な筋収縮を抑え心地よく筋収縮を行えることになりました。
そして、中周波から干渉波・立体動態波と新しい機器での対応も可能となり、機器の進化に伴い、より深部の筋へと通電が出来るようになりました。

しかし、これに目を付けた健康器具業界が類似品を販売し始めたのです。
家庭用治療器は低周波しか販売が出来ず、また出力も低いのです。そして身体に貼り付ける導子に関しては個人での管理となります。前述したとおり低周波は皮膚抵抗が強く、また劣化した導子を使用することにより貼付部での火傷がおこりました。これは直ぐに問題になり、またあまり効果も望めなかったためブームは終わりを迎えます。

最近、また同じようなブームが始まってきています。導子の素材の変化や、通電方法などの工夫もなされているようですが、原理は変わっておりません。家庭用の機器は低周波です。事故に対する啓蒙もなされているとは思いません。個人で購入して使用する事を悪とは言いませんが、ご理解の上でのご使用を推奨します。PL法の観点から取扱説明書には書いてあるものとは思われますが、くれぐれもご注意いただきたく思い、また、私個人の考えではありますが、お勧めは致し兼ねるといったところです。

では、EMSの効果は実際にはどうなのでしょうか
先ず、EMSは腹筋何百回と同等の効果という昔あった謳い文句です。
これは1波形1回を腹筋1回に換算した様な言い回しです。
通常1波形の通電が6秒程で設定されています。そして通電していない時間を4秒としておきましょう。つまり、10秒に一回の筋収縮です。1分間に6回の収縮、10分間で60回となります。通電時間が長くなれば筋収縮が多くなるのは当然です。昔はこの1収縮1回ではなく周波数に対して1回と謳っている業者もあったように記憶しています。筋収縮は1回は1回です。何千回みたいな期待はしない方が賢明でしょう。
そして、この筋収縮1回は通常の収縮とさほど差はないようにも思われますが、筋肥大を目的とするのであればロシアン電流で前述したように最大筋力に近づける必要があります。しかし、自分意思とは別に起こる収縮です。運動に慣れており、危険性を理解して行わないと部位により自家筋力によって関節の脱臼を誘発する恐れがあります。ですのでEMSの使用方法を誤ると医療用の機器を使用していても大きな事故につながる恐れがありますので、ご無理はなさらないことが賢明であると思われます。
筋力トレーニングには一定の効果は望めるものの、通常のトレーニングと同様に継続した使用が必要となり、1回で効果抜群といった事はあり得ません。
また、脂肪の燃焼を期待されるのであれば、これも通常のトレーニングと同様に食事の管理と継続したトレーニングを行えばあるいは可能なのかもしれません。過去の経験から言いますと、半年位コンスタントに行った方には効果が見られました。体脂肪率が3か月から半年後に落ち、また同じくらいの期間変化がなく、3か月後くらいにまた落ちる。といった感じで減少した方がいたのも事実です。エビデンスというには数が少なく、また、この方はご飯に砂糖をかけて食べていたという、ちょっと偏りすぎた食生活をしており、直ぐに止めて頂いたので、効果は食事の方が大きかったのではないかと思いました。ですので、期待はできる可能性は0ではないが、通常のトレーニングや食事制限と併用することをお勧めします。過度な期待はしない方がいいでしょう。
テレビ通販などで、EMS使用後のお腹が引っ込んだ。というものもあまり正しいものとは思いません。腹筋とは主に腹直筋の事と考える方が多いのですが、腹直筋は元々腱画というもので区切られているので割れている状態が普通なのです。そして腹筋は腹直筋だけではありません。腹横筋という筋肉の中に腹直筋鞘という隙間があってその中に腹直筋が通っています。内・外腹斜筋もあります。そして腹筋は抗重力筋とは違うので、抗重力筋と比べるとサボりやすい筋肉なのです。つまり筋肉自体が緩んでいるイメージですね。なので腹筋に筋収縮がたくさん起これば筋は疲労し収縮します。これが一回で得られるとされる効果の原理です。もちろん複数回行えばこの筋収縮が運動となり一定の効果として現れることもあるでしょう。まったくの無駄だとは思いません。過度な期待だけは止めておきましょう。
しかし、腰の痛い人や元々腹筋の筋力の弱い人等、通常のトレーニングが行えない人には悪くないトレーニングだと思いますし、シットアップと呼ばれる皆さんが『腹筋』と呼んでいる運動は腰や椎間板への負担が大きすぎるという観点から最近では禁止する業界も増えてきています。そして、腹直筋だけの腹筋トレーニングではなく、腹横筋や腹斜筋のトレーニングも通常のトレーニング方法より効果的に行えるというメリットもあります。
使用方法や施術者側の知識と経験が効果を全く別物にしてしまいますので、ご注意いただきたく思います。

注:接骨院などの施術所で回数券の購入を求められたら断った方がいいで      す。一見お得に思われますが、使用している機器が粗悪であったという情報を頂いたこともあります。良い機器を使用している施術所も当然ありますので全てではないのですが、数回試して良かったら回数券を考える。くらいにしておきましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?