15.新生児・小児の呼吸管理

新生児の呼吸管理

1.胎児循環
・胎児のガス交換は胎盤に依存している
・胎盤で酸素化された静脈血は、一部は門脈血と合流して肝臓を循環するが残りは静脈菅を介して下大静脈に合流する。
・下大静脈は卵円孔に向かい合うように右房に開口。2/3は左心房へ流入し、脳、心臓、上肢へ灌流。
・酸素含量の少ない上大静脈血は下大静脈の一部と合流して右心房から右心室へ駆出され動脈管を介して下行大動脈に流入。
・出生が近くなると動脈管は閉鎖する。
・動脈管内の酸素分圧が上昇すると収縮する性質、プロスタグランジンE(PGE)動脈管筋層の筋層拡張作用あり。
・胎生期では動脈管の酸素分圧が低いこと、肺血流が少ないためPGEが代謝されにくい、胎盤におけるPGEの産生により、動脈管は開存している。
・肺血管は酸素分圧が低いと収縮する性質あり、胎児は酸素分圧低いので肺血管抵抗は高い。

2.胎児肺の発達
・16週頃に第16分岐まで成長
・16週以降に横隔膜ヘルニア、羊水過少で、肺が圧迫されると成長が抑制され肺低形成となる。
・羊水過少は胎児の腎機能がなく無尿の場合や破膜して羊水の長期流出となった場合
・肺サーファクタントは脂質蛋白質合体。脂質の中心はリン脂質、飽和脂肪酸から構成されるレシチン
・SP-A〜Dがあり、A.Dが水溶性(肺局所の肝 感染防御)、B.Cが脂溶性(表面活性発現)
・肺サーファクタントが未熟のまま出生すると、肺胞は表面張力に抗しきれず機能的残気量を保てず虚脱が起こる(新生児呼吸促迫症候群)
・羊水や出生後に気道吸引液や胃内容吸引液でのマイクロバブルテストが診断に役立つ。
・母体のグルココルチコイド投与により肺サーファクタント産生を促進する。
・在胎11週頃より呼吸様の胸郭運動を行い、胎児肺の成長に役立つ上に出生後の肺呼吸に備えている。
・呼吸運動によって自分の肺から産生される肺水を断続的に気道を経て羊水腔および胎児消化管に排出している。
・胎児が強い低酸素状態に陥ると大きな吸息様運動である「あえぎ呼吸」が出現
・同時に低酸素は胎児の胎便排泄を促し、胎便を混じた羊水を「あえぎ呼吸」で、肺内へ吸引することになる(胎便吸引症候群)
・出生後筋緊張低下や徐脈、呼吸抑制や呼吸促迫症状が認められる場合には喉頭鏡直視下で気管内吸引を行い胎便の除去に努める。

3.出生後の肺胞換気の確立と循環動態の変化
・出生後、種々の呼吸抑制因子が解除されると、児の呼吸運動が活発になる
・肺胞を含めた気道では肺水で満たされている。
・産道通過時の胸郭の圧迫により肺水の1/3が排出される。
・下部気道に残った2/3は肺胞から肺間質へと移行。その際に啼泣が重要
・啼泣時は声帯を閉じたまま呼気が行われるので肺胞内圧が上昇し、肺水が間質に移行しやすい。
・出産予定日が近づくにつれ、肺胞上皮の膜のイオン運搬作用がcl分泌からna吸収パターンに変化
・この変化は陣痛やカテコラミン、バゾプレシンにより促進
・間質に移行した肺水はリンパ系、血管系を介して肺外に搬送される。
・肺水の吸収により気道抵抗の減少、肺コンプライアンスの増大がみられる。
・肺の拡張、肺胞内酸素分圧、肺血管内酸素分圧の上昇の直接的、間接的効果として、肺血管抵抗が減少、肺血流量は急激に増大。
・肺静脈より左心房に還流する血液が増え、左心房圧が右心房圧より高くなり、卵円孔は生後数分で閉鎖する。
・動脈管を介する血流も、肺動脈→大動脈の短絡が減少、大動脈→肺動脈の短絡優位。
・動脈血酸素分圧の上昇により動脈管は閉塞、PGEの供給源である胎盤を失うことで肺での代謝が促進、血中PGE濃度低下して、動脈管の閉鎖が進行する。

4.新生児の肺循環の特徴
①肺胞換気の確立とともに肺血管抵抗が急速に減少し、肺血液量が増加する過程にある。
②左→右短絡型心疾患や肺低形成を伴う呼吸器疾患では、出生後も肺高血圧が持続する傾向がある。
③低酸素血症、酸血症、低体温、疼痛刺激などにより肺血管抵抗は増加しやすい。この現象は、特に生後24時間以内の新生児で、生じやすい。
④卵円孔や動脈管が基質的に閉鎖していない新生児期には、肺血管抵抗の増加により、容易に卵円孔や動脈管を介した右→左短絡が生じる。(新生児遷延性肺高血圧症:PPHN)
⑤早産児では、血中酸素分圧に対する動脈管や肺血管の反応は正期産児より鈍く、動脈管の閉鎖が遷延しやすい代わりにPPHNは合併しにくい。
⑥PGEやPGE阻害物質を用いて動脈管の薬物的コントロールが可能

5.新生児仮死とその蘇生法
・肺胞換気への移行が進行しない例が全体の約15%存在、また全体の1%が救命のために本格的な蘇生手段(気管挿管、胸骨圧迫、薬物治療)を必要とする。

・2015年版新生児蘇生法ガイドライン(NCPRGL2015)

評価A1:出生児評価
・正期産児か?
・呼吸、啼泣は良好か?
・筋緊張は良好か?

RC:ルーチンケア(母親の側で行う)
・低体温防止
・気道開通
・皮膚乾燥(羊水拭き取る)、皮膚色評価

処置C1:蘇生の初期措置(できるだけ早く自発呼吸を誘発)

a:保温
・ラディアントウォーマーの下で行う。
・在胎28週未満の出生では、出生直後にプラスチックのラップか袋で首から下を包み、ラディアントウォーマーの下で治療や蘇生を行う。分娩室の室温を上げたり、キャップを被せたり、温熱マットレス等の複数の保温法を組み合わせる。
・NICUや新生児病棟に入院時の体温を記録しておく。

b:気道確保(肩枕、気道吸引)
・仮死兆候のある新生児は直ちに仰臥位でsniffing positionをとらせて気道確保を図る。
・後頭部の大きい新生児では、肩枕(ハンドタオルなど)を置くことで気道確保がしやすい。
・この体位で呼吸が弱々しい場合や、呼吸努力があるにもかかわらず十分な換気が得られない場合は気道の閉塞が考えられ、吸引を行う。
・ゴム球式吸引器または吸引カテーテルで口腔、次いで鼻腔を吸引。
・鼻腔の吸引が自発呼吸を誘発しやすいので、口腔内分泌物を誤嚥しないように、口腔内吸引をする前に鼻腔吸引を行う。陰圧は100Torrを超えないようにする。

c:皮膚刺激
・乾いたタオルで皮膚を拭くことは、低体温防止だけでなく、呼吸誘発のための皮膚刺激となる。
・これでも自発呼吸が誘発されない場合、児の足底を平手で2.3回叩いたり指先で弾き、再度気道確保の体位をとらせる。
・それでも自発呼吸なければ人工呼吸へ

評価A2:蘇生初期処置の効果の評価と次の処置
・保温、気道確保、皮膚刺激の効果判定として呼吸と心拍数をチェック
・あえぎ呼吸は無呼吸とみなす
・パルスオキシメーターの使用が推奨

①心拍数の評価
・胸部聴診を第一選択、6秒間の心拍を10倍して心拍数とする。
・パルスオキシメーターでの心拍測定が正確
・NCPRGL2015ではECG使用の検討

②パルスオキシメーターによる酸素化の評価
・パルスオキシメーターは右手に装着する
・出生時には動脈管が開存しており、しかも肺血管抵抗が高いので動脈管を介して肺動脈から下行大動脈への右→左短絡が生じやすいので一番重要な脳循環の酸素化を評価するには、動脈管前動脈血のSpO2をモニターする必要あり。
・パルスオキシメーターは装着してから測定値が表示されるまで時間がかかるので、蘇生が必要な児に対しては、早期から装着する。

処置C2
・この時点での評価で無呼吸、あえぎ呼吸、心拍数100回/分未満の徐脈、が認められたらバッグマスクを用いて人工呼吸を開始。
・自発呼吸があり、心拍数100回/分以上であるが中心性チアノーゼと努力呼吸(陥没呼吸や呻吟や多呼吸)が認められる場合は、空気を用いたCPAPかフリーフローの酸素投与を施行する。
・流量膨張式バッグとマスクを用いたMask CPAPとNasal CPAPがある。
・気胸を避けるために気道内圧を5〜6cmH2OのCPAPを目標として空気で開始する。

・出生後10分以内の正期産児でも動脈管前SpO2はバラツキ多い
・できるだけ100%酸素の使用を避ける
・酸素ブレンダーも常備し過剰な酸素投与とならないように注意する。

処置C2:人工呼吸
・蘇生の初期処置を施行しても無呼吸または心拍100回/分未満の場合は直ちにバッグマスクで人工呼吸を実施する。
・新生児でも通常は20cm H2O位までの吸気圧で換気できるが、出生直後の空気呼吸開始時には30cm H2Oあるいはそれ以上の高い圧と長めの吸気時間が必要とされる。
・効率的な換気かどうかの指標は児の胸部の上下運動とそれにともなう心拍数の改善
・人工呼吸の回数は40〜60回/分が適切

新生児蘇生時の人工呼吸のポイント
①過剰酸素投与を避ける
・正期産児や正期産に近い児での人工呼吸開始時は空気を使用する
・早産児でも21〜30%の酸素で人工呼吸開始
・効果的な人工呼吸にもかかわらず、心拍数の増加が得られない場合やパルスオキシメーターで示される酸素化の改善が受容できない場合は、高濃度酸素の使用を考慮。
・心拍数が100回/分以上かつ酸素飽和度が上昇傾向にあれば早急に酸素を投与する必要はない。

②各種バッグの特徴
a:自己膨張式バッグ
・吸入酸素濃度は40%程度
・リザーバーをつけることで高濃度酸素投与可能
・容量は450〜500ml必要で、吸気時間が少なくとも1秒以上続けられるものを選ぶ
・過剰加圧防止弁は30〜35cmH2Oで作動するものとする。

b:流量膨張式バッグ
・フリーフロー酸素投与や吸入酸素濃度の調節が容易
・児の肺の硬さや気道抵抗をバッグを圧迫する手に感じることもできる。
・ただし通常の流量膨張式バッグには過剰加圧防止弁が付いておらずバッグを押した圧がそのまま児の気道にかかる可能性があるので必ずマノメーターに接続し、換気圧をモニターしながら加圧することが推奨

③Tピース蘇生装置
・マスクを顔面に密着させればあらかじめ設定したCPAPをかけることができる。
・親指で呼気弁を閉じることで、あらかじめ設定して吸気圧をかけることができる。

④マスク
・目と鼻を覆うが、目にはかからない大きさ
・マスクによる眼球圧迫で迷走神経反射誘発し、徐脈、眼球損傷を引き起こす。
・片方の中指で下顎を持ち上げ、親指と人差し指でマスクを児の顔に固定し(ICクランプ法)、他方の手でバッグを加圧する。
・ラリンジアルマスクエアウェイが、出生体重2000g以上、在胎34週以上の新生児の蘇生において気管挿管の代替手段として推奨

⑤気管挿管
適応:
・仮死児の気道に胎便が認められ、胎便の気管吸引が気道開通の一つの手段として有効と考えられる場合
・バッグマスク換気で良好な胸郭運動がない場合
・長時間胸骨圧迫が必要である場合
・アドレナリンの投与が必要で静脈ラインがない場合
・特別な適応:RDSでサーファクタントを投与する。横隔膜ヘルニアの児でバッグマスク人工呼吸をしたくない

・肩枕を入れて30秒間バッグマスク人工呼吸を行なっても、児の胸部の上下運動が不十分で心拍数が100回/分未満であれば気管挿管を選択する。
・新生児仮死の90%はバッグマスクで蘇生可能。気管挿管する前にバッグマスク人工呼吸での効果が上がらない原因を調べるべき。
・新生児では直式のブレードを用いて喉頭展開し、経口的に挿管することが多い。
・その場合、児の肩枕は除去するか頭部に移し介助者は肩を持ち上げないように抑えて、顔を両手で挟み込むように固定すると喉頭展開が容易
・気管挿管時は左手で喉頭鏡を持って舌を口腔左側に押しやりつつ、喉頭を展開する。
・喉頭鏡を挙上する際は、下顎全体を持ち上げるようにするといい
・気管チューブのサイズは内径2.0〜3.5mmのものを使用
・先端まで同径のもの、cole型は使用しない。
・経口挿管時の口唇からの標準的な挿入長は体重+6cmが指標
・気管挿管の気道内留置の確認法として聴診器による5点チェックと呼気中のco2検出装置が推奨
・最終的にはレントゲン写真によって気管チューブ先端位置を確認

評価A3:人工呼吸の効果の評価
・心拍数の増加、皮膚色、筋緊張、自発呼吸の改善がもたらされる
・自発呼吸が認められ、心拍数が100回/分以上になれば人工呼吸は中止して良い。
・100%酸素で30秒間人工呼吸を行なっても心拍数が60回/分未満であれば胸骨圧迫を開始

処置C3:胸骨圧迫
・胸骨上で両側乳頭を結ぶ線のすぐ下方を圧迫
・胸郭包み込み両母指圧迫法と二本指圧迫法
・胸郭包み込み両母指圧迫法は、胸郭前後径の1/3がへこむくらいの強さで1分間に約120回のペースで圧迫を反復
・患者に対して術者の手が小さかったり、一人で人工呼吸と胸骨圧迫を行わないと行けない場合は二本指圧迫法が推奨。台やベッドが柔らかい場合他方の手を児の背部に当てる。
・胸骨圧迫と人工呼吸との比は3:1の割合
・1分間に胸骨圧迫90回、人工呼吸30回、「1.2.3バッグ」
・30秒ごとに6秒間だけ心拍数をチェック
・60回/分以上を保持できるまで胸骨圧迫を続ける。人工呼吸中の酸素濃度は100%。
・人工呼吸と胸骨圧迫を必要とした児でも心拍再開したら右手につけたSpO2を見ながら必要最小限の酸素濃度にしていく。

評価A4:人工呼吸+胸骨圧迫の評価
・99%は蘇生できる
・100%酸素適切な人工呼吸+胸骨圧迫を併用しても心拍数が60回/分未満であれば薬物投与が適応

処置C4:薬物投与
・緊急薬物投与ルートとして臍帯静脈
・第一選択薬剤:アドレナリン
1万倍希釈アドレナリンを0.1〜0.3ml/kgの一回量で静脈内へ投与する。
・必要に応じて3〜5分ごとに再投与
・気管内投与は吸収不確実、静脈投与が推奨。

・循環血液量増加薬:生理食塩液、乳酸リンゲル液
・アドレナリン投与でも蘇生に反応しない児で失血が疑われる場合。
・10ml/kgの量で5〜10分かけてゆっくり静注する。必要に応じて反復投与

6.新生児の解剖学的、呼吸生理学的特徴
・新生児は頭部と舌が大きく、気道軟骨が脆弱なため上気道閉塞をきたしやすい。
・鼻呼吸であるため、鼻閉があると容易に呼吸不全に陥る。
・新生児の呼吸は腹式呼吸が主体だが、新生児の横隔膜は相対的に挙上しているので腹式呼吸の換気効率は悪く、筋原繊維の乏しい呼吸筋は疲労しやすい。
・さらに呼吸中枢が未熟なために周期性呼吸や無呼吸を合併することがあり、鎮静薬、鎮痛薬、低酸素血症は容易に呼吸抑制を引き起こす
・特に出生直後の新生児やRDS児では肺コンプライアンスが小さく、胸郭コンプライアンスが大きいので、陥没呼吸を呈しやすく、換気効率の悪い多呼吸で代償しようとするために呼吸筋が疲労するという悪循環に陥る。
・機能的残気量の低下や無気肺のために中心性チアノーゼも出現しやすい。
・一方では早産児では血液中の酸素分圧の上昇により未熟児網膜症きたす危険あり
・さらに高濃度酸素投与や陽圧換気により容易に肺損傷をきたす
・乳幼児、小児では上気道閉塞を起こしやすく、上気道の最狭部が成人のように声門ではなく、声門下にあること。そのため太いサイズの気管チューブを用いて気管挿管すると声門下でつかえて声門粘膜を傷つける危険性あり。
・新生児では呼気終末に声門を閉じて生理的に2〜3cm H2OのPEEPをかけて機能的残気量を維持している。したがって呼吸不全の児に単に気管挿管だけしてPEEPをかけないと酸素化が低下することがある。

7.新生児の呼吸障害の徴候
・頻呼吸:60回/分以上、1回換気量を補う
・陥没呼吸
・呻吟:機能的残気を保つため声門を狭くする
・中枢性チアノーゼ
・無呼吸
・シーソー様呼吸
・下顎呼吸、鼻翼呼吸
・喘鳴:上気道閉塞で吸気時ゼーゼー、末梢気道閉塞で呼気時にヒューヒュー

8.新生児期に呼吸不全をきたす疾患の分類と診断
・鑑別診断には、病歴と臨床症状が重要
・RDSは早産など未熟性の高い児に、胎便吸引症候群は仮死のある過期産児に合併しやすい。
・長時間の前期破水や母体発熱、羊水混濁、母体のB群β溶連菌保菌は感染症を示唆
・RDSでは陥没呼吸、新生児一過性多呼吸では頻呼吸 
・臨床検査としては、胸部エックス線やファイバー気管支鏡やCT等の画像検査が有用。
・特殊検査として、RDSの確定診断として羊水ないし胃液のfoam stable testやmicro bubble testが、胎便吸引症候群の確定診断には気管内吸引液中の胎便や尿吸光度測定が、肺炎にはCRPと血算や細菌学的検査が有用。
・動脈血液ガス検査からも呼吸障害の程度だけでなく、病態の性状を示唆する情報得られる。閉塞性気道病変や中枢神経系低換気では低酸素血症より高二酸化炭素血症が顕著、無気肺では低酸素血症
・胸水貯留量のチェックとして超音波検査

9.新生児の呼吸管理のポイント
①目標とする動脈血酸素分圧
・未熟児網膜症や慢性肺障害の危険性を少なくするため50〜80Torrを保つ様にする。
・乳幼児でも100Torrを超えない様に最小限の吸入酸素濃度を使用

②気道の確保と気管チューブ
・新生児では舌が相対的に大きいため、経口エアウェイはかえって舌根による気道閉塞を招きやすい。肩枕が気道確保に役立つ。
・気管挿管する場合、起動粘膜の損傷を避けるため細めのサイズのカフなし気管チューブを用いる。
・したがって吸気時に挿管チューブの周囲にリークが生じるので、従量式の人工呼吸器は利点を生かせず、従圧式が主体となる。
・気管チューブの固定と定時的なチェックが重要。
・気管チューブの閉塞防止には、吸入気の加温加湿が重要で口元温度を37〜39℃に設定するだけでなく、加温加湿器本体の方温度をホースヒーターの温度よりも2℃高くなる様に設定して十分な加湿が保証される必要あり。

③人工呼吸器
・PEEPを用いたtime cycled pressure limited ventilationが主として用いられてきたが、HFOもしばしば使用される。patient triggerd ventilationも使用頻度増えてきた。

④モニター
・新生児期には経皮的に酸素分圧、二酸化炭素分圧の連続モニターが可能。
・新生児遷延性肺高血圧症や先天性横隔膜ヘルニア、特殊な心疾患が疑われる場合は、2台のパルスオキシメーターを右上肢と下肢に装着して同時モニターを行う。

10.新生児での人工呼吸管理の実際
①酸素療法
・高二酸化炭素血算を伴わない軽度の低酸素血症の児に対してはヘッドボックスや保育器内に酸素を投与する。
・新生児では未熟児網膜症や慢性肺障害を防止するため動脈血酸素分圧を50〜80Torrに保つ最小限の酸素濃度にする。
・細菌感染症や血栓等の合併症を避けるため臍動脈カテーテルの留置は最小限に留め、動脈血ガス分析が長期にわたり必要な場合は、橈骨動脈や足背動脈に留置するように努める。
・新生児では高濃度の酸素投与は慢性肺障害を引き起こす危険性があるので吸入酸素濃度が40%以上必要な場合や陥没呼吸が目立つ場合はnasal-CPAPか挿管による人工換気療法を考える。

②nasal-CPAP
・新生児は鼻呼吸であるため、気管挿管をしなくてもnasal prongを挿入し陽圧回路に接続することで気道に持続性気道陽圧をかけておくことが可能である。
・肺のコンプライアンスが低下した疾患(RDS、新生児一過性多呼吸、肺炎)では酸素化能を改善し、呼吸仕事量を軽減する。
・上気道狭窄(喉頭軟化症、声帯浮腫等)や無呼吸発作例でも閉塞性無呼吸や呼吸筋の疲労を軽減することが期待される。
・下気道閉塞のある疾患(胎便吸引症候群など)ではair trippingの危険性が増す。
・鼻中隔を損傷しない範囲で出来るだけ太めのnasal prongを使用する。
・分泌物を除去するためと鼻中隔への圧迫を軽減するため、時々nasal prongを外して鼻孔を吸引する。胃内にガスを飲み込みやすいので太めの胃カテーテルを留置し先端を解放しておく。
・10cm H2Oのnasal-CPAPでも吸入酸素濃度が40%以上必要な場合やPaCo2が高値の場合、挿管による人工換気療法

③HFNC
・患者の吸気量に匹敵する流量の加湿された酸素を鼻腔から流す酸素療法
・高流量の吸気ガスで死腔のco2を洗い出す(ウォッシュアウト)することでco2の再呼吸を低減させること。
・鼻孔サイズよりも径の細い鼻カニューレを用いる
・専用の加湿器を使えば加湿も十分で軽いCPAP効果も期待できる。
・鼻カニューレが細くても良いので鼻損傷が少なく患児も嫌がらないという利点
・供給ガスの温度が上がってから徐々に酸素流量を上げていくのが安全
・欠点は回路が高価で大量の酸素を必要とすること。

n-CPAP
利点:
・高いPEEP効果
・アラーム、モニタリングがあり確実に治療できる

欠点:
・皮膚、粘膜、顔面損傷
・不快感

HFNC
利点:
・軽度のPEEP効果
・二酸化炭素洗い出し効果
・皮膚粘膜等の損傷が少ない
・ディベロップメンタルケア

欠点:
・アラームがない
・プロングが外れやすい

④人工呼吸療法
a:time cycled pressure limited ventilation
・回路内には定常流が流れており、患者は自発呼吸ができる。間欠的に呼気弁が閉鎖して強制換気が施行される。
・肺内にガスが均等に分布しやすく、比較的低い最大吸気圧で1回換気量を確保しやすいため肺損傷の危険性が少ない。
・最大の欠点は肺の病態の変化により換気量が変動することと、気道閉塞が生じても高気道内圧アラームが作動しないこと

FiO2:
・未熟児網膜症や慢性肺障害を防止するためにPaO2が50〜80Torrを保つのに必要最小限のFiO2を使用する。
・FiO2を0.4以下にできない場合は、PEEPを高めに設定するかHFOやサーファクタント補充療法を考える

PEEP:
・呼吸コンプライアンスの低下した疾患(RDSや肺炎等)ではPEEPを5〜10cm H2Oと高めに設定し、胎便吸引症候群のような閉塞性呼吸器疾患では1〜3cm H2Oと低めに設定する
・気管軟化症や喉頭軟化症ではPEEPを8〜10cm H2Oと高めに設定した方が呼吸障害が軽減することもある。

最大吸気圧:
・気胸や慢性肺障害等の肺障害を防止するためには最大吸気圧はPaCo2を40〜60Torrを保つ範囲でできるだけ低く保つ、特に1500g未満の極低出生体重児では最大吸気圧を20cm H2O以上にしないように努める
・この条件でPaCo2が60Torr以下に保てない場合はHFOやサーファクタント補充療法を考える。
・アラームの設定は最大吸気圧の設定値よりも2〜3cm H2O低い値とする。
 
換気回数:
・急性期には呼吸コンプライアンスの低下した疾患では30〜40回/分、閉塞性呼吸器疾患では20〜30回/分より開始し、最大吸気圧が20cm H2O以下でPaCo2を40〜60Torrに保つように換気回数を調節する。
・換気回数を60回/分以上にしなければPaCo2をコントロールできない重症例ではair trippingの危険性があるのでHFOを考える。

吸気時間:
・急性期には0.5〜0.8秒と長めに設定し、weaning時には0.3〜0.4秒と短めに設定する。
・一般にコンプライアンスが低下した疾患では吸気時間を長めに設定したほうが酸素化が良く、閉塞性呼吸器疾患では呼気時間を長めに設定した方が気胸等の合併症が少なく安全

加温加湿器:
・実際の吸入気が口元温度は37〜39℃で100%加湿されるように設定する。
・ラジアントウォーマーや閉鎖式保育器で高温環境下では特に注意が必要。
・加湿器本体の温度をホースヒーターの温度よりも2℃高くなるように設定して十分な加湿が保証されるようにする。
・呼気回路だけでなく吸気回路にも多少の水滴がつく位の加湿が望ましい。

b:patient trigger ventilation
・新生児、乳幼児では、カフなし気管内チューブ周囲でのリークによるautocycleや多呼吸時のauto PEEPの危険性や細い気管内チューブによる流速のオーバーシュートの問題等が残されており、コンプライアンスが低下した肺疾患の急性期での使用は慎重に検討する必要がある。
・ファイティングを起こしやすい患者や人工呼吸器からのウィーニング時に有用

c:高頻度振動換気法(HFO)
・1回換気量が解剖学的死腔量以下と小さく、気胸や慢性肺障害等の肺損傷の危険性の少ない換気法である。
・新生児では、通常は換気回数は10〜15㎐に固定して使用する。
・平均気道内圧と1回駆出量を独立して調節できるのでPaO2とPaCo2を独立して調節できる。
・PaO2を上げたい時はFiO2か平均気道内圧を高くし、PaCo2を下げるために1回駆出量を大きくすれば良い。
・コンプライアンスの低下した疾患(RDSや肺炎やうっ血性肺浮腫等)では平均気道内圧を2〜4cm H2O高めに設定した方がかえって肺損傷を起こしにくい。
・平均気道内圧を10cm H2O以上に保つ場合は頭部挙上位とする。
・閉塞性肺疾患(胎便吸引症候群)ではoscillationの効果が肺胞まで到達しにくく効果が得られないことがある。
・同様の理由でHFO施行中は、気道内分泌物をこまめに吸引することが大切
・PaO2の改善が不十分な場合は20〜30cm H2OのSI(深呼吸)を15秒くらい施行しても良いが、深呼吸中は血圧低下や脳循環障害等が生じる可能性があるので頭部挙上位を保ち乱用は慎む
・static SI(HFOを中断したままMAPよりも15cm H2O高い圧で15秒間膨らませる)は脳循環動態に大きな変動を与えるので酸素化が不十分な症例ではMAPを高くするか、pulsatile SI(HFO施行したまま15秒間くらいMAPを10cm H2O高くする)を施行した方が安全

d:人工呼吸器のウィーニングと抜管
・ウィーニング開始にあたり一般的に考慮すること
①呼吸不全が改善している
②中枢神経機能が改善している
③循環動態が安定
④感染が制御
⑤鎮静、鎮痛薬による影響が許容範囲

・抜管基準
①呼吸機能
小児:
CVC(啼泣時肺活量)>15ml/kg
MIP(最大級気圧)>35cm H2O
PIFR(peak inspiratory flow rate)
4ml/sec/cm hight

新生児:
①Cst>0.6ml/cm H2O/kg
②CVC>15ml/kg
③Rrs<300cm H2O・kg/L/sec

②呼吸筋の疲労度
・CPAPテストで確認
・実際にはCPAP3〜5cm H2Oを2時間行って、前後でのバイタルの変化、血液ガス所見の変化などを確認して判断

③上気道閉塞の程度
・抜管前に20〜30cm H2Oの起動内圧をかけて気管チューブと喉頭の隙間から空気が漏れる音を確認して抜管後の喉頭浮腫を予測

11.特殊な呼吸管理法
①サーファクタント補充療法
・RDSの根本的治療として有用
・急性期の呼吸不全の改善だけでなく気胸や慢性肺障害等の合併症の減少に有用

②NO吸入療法
a:適応
・人工呼吸療法や血管拡張剤では肺高血圧のためにOxygenation Indexを20未満に下げられない場合
・保険適用は原発性および続発性の新生児遷延性肺高血圧症

b:問題点と対策
・NOは酸素と反応して有毒なNO2となり、これが気道に吸入されると水と反応して硝酸塩や亜硝酸塩となり、気道損傷や肺障害、肺水腫を引き起こす危険性がある。
・室内に排気すると環境汚染による危険がスタッフにも及ぶ
・できるだけ低濃度のNOを使用し、吸入酸素濃度を低くし、NOと酸素の接触時間を短くする工夫が必要
・長時間使用したり、20ppm以上では患者の血中メトヘモグロビンが上昇することがある。
・血小板の機能が低下する可能性もある。

c:方法
・超音波検査で肺高血圧の存在と程度を確認した後、血液ガス、血算、血中メトヘモグロビンを測定し、パルスオキシメーターを装着してNO吸入を開始する。
・20ppmから開始し、5ppmずつ下げて行って、5ppm位で維持を目指す
・20ppmで1時間以上改善しなければ無効
・呼気中NO濃度が0.2ppm以上、血中メトヘモグロビン濃度が2%以上ある場合はNOの吸入濃度を下げる
・酸素化の改善が顕著な場合、FiO2とNOを交互に下げていく。
・NOが5ppm未満、FiO2が0.4未満でも酸素化が安定している場合NOからの離脱を考える

d:適用上の注意
①呼気中NO濃度、吸気中NO2濃度、PaO2、血中メトヘモグロビン濃度をモニターしながら投与
②血中メトヘモグロビン濃度は、NO吸入開始後1時間以内に測定し、以降12時間以内は頻回に測定。24時間以降は少なくとも1日ごとに測定すること
③NOの吸入濃度は吸気回路の患者近位で測定すること、吸気中NO2濃度および吸気中酸素濃度についても同じ場所でアラームがついたモニタリング装置を用いて測定すること
④血中メトヘモグロビン濃度が2.5%を超える場合は、本剤吸入濃度の減量または投与を中止すること。その後も改善が見られない場合には、必要に応じてビタミンC、メチレンブルーまたは輸血で対処
⑤吸気中NO2濃度は、可能な限り定常状態において0.5ppm未満を維持すること。濃度が0.5ppmを超えた場合は、一酸化窒素ガス管理システムを点検し、原因を精査すること。可能であれば本剤またはFiO2を減量すること。

③体外式膜型人工肺(ECMO)
・他の人口換気法で有効な酸素化や換気が得られない場合、体外で血液のガス交換をする
・肺を休めて肺損傷の回復を図る目的で使用される。
・血管内に太いカテーテルを挿入、抗凝固薬を使用するなど侵襲性が高く24時間の監視体制を必要とする。

a:適応
・Oxygenation Indexが、40以上が4時間以上続く
・pHが7.15未満でPaO2が40Torr未満
・頑固なエアリークがあるのに、平均気道内圧を15cm H2O以下に下げられない

b:禁忌
・頭蓋内出血
・在胎週数35週未満
・出生体重2000g未満
・人工換気10日以上
・不可逆的肺損傷
・予後不良の合併症や先天奇形

c:合併症
・空気塞栓
・血栓
・出血傾向
・感染

d:方法
①VA方式
・総頸静脈や右心房より脱血し、酸素化した血液を頸動脈より送血

②VV方式
・二重管を総頸静脈から挿入し下大静脈から脱血し、右心房に送血する。
・いずれも頸静脈の頭側からのcephalic drainage を併用すると脱血が容易となる。
・まずVV方式を試し、効果が不十分ならVA方式に移行
・lung restの目的で人工換気のFiO2は0.4以下とし、最高気道内圧は20cm H2O以下に下げ、PEEP5〜10cm H2Oとする

③抗凝固
・送血路で活性化凝固時間(ACT)が180〜200秒になるようにフサンかヘパリン持続注入

乳幼児の呼吸管理

1.生理学的特徴
①呼吸数と高二酸化炭素血症リスク
・成人と比べ小児では生理的な呼吸数が異なる
・生理的呼吸数が多いため、分時換気量を増大させるための呼吸数増大には限界があり、かつ体重当たりの分時換気量が大きいため、呼吸の異常により高二酸化炭素血症をきたしやすい

②酸素消費量と低酸素血症リスク
・乳幼児は体重当たりの酸素消費量が成人のおおよそ2〜3倍と大きい。
・一方で機能的残気量が成人のおおよそ半分程度と少なく、無呼吸時に利用可能な体内の酸素含量が少ない。
・そのため呼吸停止時に容易に低酸素血症を呈する
・酸素化後であっても換気停止で低酸素血症を呈するまでの時間は成人の半分以下で乳児で、90〜100秒、2〜5歳で160秒程度
・上気道感染を伴えば許容時間はさらに短縮

2.解剖学的特徴
①上気道
・乳児期の呼吸は鼻呼吸が主体
・鼻腔は気道抵抗の主たる部位であり、経鼻胃管の挿入により気道抵抗は50%程度ぞうかする。
・鼻腔の閉塞は呼吸不全につながりやすい
・頭部が大きく、舌が大きいため仰臥位で気道閉塞をきたしやすい
・小児期になるとアデノイドや口蓋扁桃の存在が気道抵抗となる

②下気道と肺胸郭
・末梢気道は絶対径が細いため、浮腫や分泌物による狭窄の影響が大きい
・肺胞の成熟は2歳頃までに完成。
・乳児の胸郭コンプライアンスは高く、横隔膜収縮に伴う換気効率は悪く、呼吸筋は疲労しやすい

3.酸素療法
・原則として経鼻カニューレを用いる
・新生児や乳児への2l/minでの酸素療法時には過大な酸素投与の危険性に注意が必要

4.バッグマスク換気
・人口換気の基本であり、適切な手技で行えば気管挿管と同等の効果があり、より安全
・適切に施行されていれば、気管挿管を急ぐ必要はない
・自己膨張式バッグと流量膨張式バッグがある。
・概ね体重10kg未満の乳児では500ml前後の容量のバッグを10〜30kgの小児では1000ml前後のバッグを用いる
・マスクは乳幼児では鼻梁から下口唇までを覆い眼瞼を圧迫しないもの
・過剰な換気による胃送気は、胃膨満から逆流、横隔膜圧迫による換気障害の危険性を高めるため、一回の吸気は1秒程度を目安に胸郭が挙上すれば送気をやめる。
・気道内圧をモニターしながら可及的に低圧(最大吸気圧の目安:10〜12cm H2O)で換気を行う
・意識のない患者では、介助者により輪状軟骨圧迫手技を行うことで胃送気が軽減できる。

5.気管挿管
①気管チューブ
・サイズは年齢に基づく選択
・救急現場では身長に基づくサイズ選択も使用できる。予測されるチューブサイズの前後0.5mmを合わせて準備する
・正期産児〜6ヶ月:
カフなし気管チューブ内径3.0〜3.5
・2歳〜:
カフなし気管チューブ内径4+年齢/4
・気管チューブ挿入長の予測
身長(m)×1/10+5
・適切なチューブなサイズとは、カフなしチューブでは声門と声門下を抵抗なく通過するもっとも太いもので気道内圧を20〜30cm H2Oにした際にリークがあるもの
・小児でもカフ付き気管チューブが使用可能
・マイクロカフ気管チューブ使用にて、声門下狭窄などの気道合併症発生率は増加しない。また、サイズ変更の必要性が減る。カプノグラフの信頼性が増す。換気効率が改善するなどの利点がある
・気管チューブ挿入後、比色法による二酸化炭素検出器にて気管内にあることを確認。胸部X線、気管支ファイバーなどによる先端位置の確認を行う。
・仰臥位かつ頭部中立位で撮影された胸部X線上で気管チューブ先端が両側鎖骨中線と気管分岐部より1cm頭側の間、あるいは第2胸椎と第3胸椎の間が適正である。
・気管チューブの先端位置は、首の屈曲で1椎体分深くて、伸展で1椎体分浅くなる

②気管挿管手技
・声門への外傷侵襲を軽減し、反射による嘔吐、誤嚥を防ぎ、高血圧や頭蓋内圧上昇を防止し、挿管操作を容易にするために薬剤の補助下にて行う。
・鎮痛、鎮静薬を先に投与し、筋弛緩薬が効くまでの間はマスク換気により補助換気を行い、意識消失と筋弛緩が得られた時点で挿管操作を行う

③difficult airway management(DAM)
困難気道対策
・先天奇形による解剖学的異常が多い
・開口困難、短頚、頸部可動域制限、巨舌、小顎などが特徴としてある
・ピエールロバン症候群、トレーチャーコリンズ症候群などは、代表的な先天的挿管困難疾患である。
・後天的原因として、急性喉頭蓋炎、深頸部膿瘍、気道異物、抜管後声門下浮腫、腫瘍、外傷などがある。
・挿管困難に陥ってもマスク換気が可能であれば患者を直ちに失うことはない
・挿管困難に遭遇した場合、
①ガムエラスティックブジー
②ビデオ喉頭鏡
③声門上デバイス(LMAなど)
④気管支ファイバー
などを用いて挿管を試みる。
・成人と違い、意識下の気管支ファイバーガイド挿管や、外科的気道確保処置が極めて困難との認識が重要
・輪状甲状膜切開は12歳未満の小児では困難性と合併症の高さから原則として推奨されていない

6.人工呼吸管理
①モード/初期設定
・圧制御式(PCV)でも量制御式(VCV)でも良い
・PCVでは、気道内圧を調整しやすいが、換気量が変動
・VCVでは換気量を一定に保ちやすいが、小児では変動が大きい、吸気時の非同調が起こりやすい

②モニタリング
a:酸素化
・酸素化障害の重症度評価としてOI
・OI=平均気道内圧×FiO2/PaO2×100
・OI≧16であれば重篤な酸素化障害
・PaO2が測定できない場合、SpO2で代用しOSIとする。
・OSI=12がOSI=16となる。

b:換気
・カプノグラフィを連続測定し継続的にモニタリング
①気管挿管の確認(食道挿管の否定)
②気道開存の確認
③計画外抜去の認識
④呼吸数などの情報が得られる
・呼気終末二酸化炭素分圧はPaCo2とほぼ等しく、PaCo2の良い指標となる。リークがあると解離が生じる

③人工呼吸回路、加温加湿
・小児では1回換気量が小さいため、人工呼吸回路の容量や回路の死腔、および回路の圧縮容量の影響を受けやすい
・回路の圧縮容量は1回換気量に影響する
・小児専用回路は小さい回路内容量(死腔)と小さい回路コンプライアンスを有し、換気量への影響が少ないことが利点である。
・人工鼻の使用により、機械的死腔と呼吸抵抗が増大する。
・リークがある場合には、呼気の水分を維持できず十分な加湿がされない。新生児、乳児での人工呼吸管理では、人工鼻は、一般的に適応とならず、加温加湿器が標準的に用いられる。

④気管チューブ補償
・チューブによる気道抵抗の規定因子はチューブ内径と長さ。内径が細くなればなるほど吸気流速の増減に影響あり、チューブ抵抗を代償するためにチューブ径に応じた補償圧を付加するべき

⑤人工呼吸中の鎮痛鎮静
・気管挿管の苦痛緩和と人工呼吸器との同調性を高めるため使用
・プロポフォールは小児人工呼吸中の持続投与は、プロポフォール関連症候群の危険性から禁忌

⑥人工呼吸器離脱
・人工呼吸器離脱の手法は確立していない。
・ウィーニングが伝統的に行われている

⑦自発呼吸トライアル(SBT)
・PSVでPS=5cm H2O PEEP=5cm H2O
・近年PSVの使用は過剰なサポートとなる知見もあり、CPAP=5cm H2Oとする意見もある

⑧抜管失敗とその予防
・抜管後の気道狭窄、呼吸努力増大、筋力低下などが抜管失敗の原因となる
・特に気管チューブ留置による物理的損傷により気道の炎症や浮腫をきたし、抜管後に気道狭窄や閉塞をきたす危険性がある。
・長期挿管、太すぎるチューブ、喉頭挿管、気管挿管手技の反復、感染症、慢性の炎症性疾患などが危険因子
・気道内圧20〜25cm H2Oでのチューブリークの存在はチューブサイズが過大でないことを示し、喉頭浮腫や抜管困難の危険性を下げると考えられる。
・リークテストによる抜管後の合併症発生予測能は確立されていない。
・抜管前のステロイド投与は、小児において抜管後の喘鳴発生率を低下させる可能性があるが、再挿管率には影響なし

7.その他の呼吸療法
①NPPV
・気管挿管を回避できる
・気管挿管に伴う合併症が減らせる
・適用と離脱が容易
・乳児期を超えた患児に適用

②HFNC
・加温加湿した酸素と空気の混合気を鼻咽頭腔に高流量投与する酸素療法システム
①PEEPの付加、吸気時の上気道抵抗の軽減
鼻咽頭腔の減少などの作用により呼吸補助が行える
②正確な酸素濃度の吸入を可能とする
③加湿により気道粘膜繊毛活動が最適化され患者快適性が良好

③NAVA(neurally adjusted ventilator assist)
・NAVA、神経調節換気は、専用の胃管により横隔膜電気的活動を測定し呼吸補助のタイミングや吸気圧および換気量を制御する人工呼吸モード
・横隔膜機能低下の予防、人工呼吸関連肺損傷の軽減、人工呼吸管理日数の短縮が期待される

8.人工呼吸管理を要する代表的疾患
①小児ARDS
・肺に対する直接的あるいは間接的損傷に引き続き生じる急性のびまん性肺胞障害
・生命予後改善を示した治療法はない
・最低限の酸素化を保ちながら高二酸化炭素血症を許容する肺庇護換気による支持療法が主体

②急性細気管支炎
・2歳以下の小児に好発
・RSウイルス感染が最も多い
・感冒様症状、無呼吸、頻呼吸、頻脈、喘鳴、呼吸困難などで発症
・細気管支が炎症による浮腫で狭窄、閉塞するため努力呼吸、呻吟、呼気性喘鳴、呼気園長などの所見を呈する
・薬物治療の有効性は確立されていない
・高張食塩水吸入は生理食塩液吸入と比較して、呼吸状態の臨床スコアの改善と一般病棟での入院日数の短縮効果が示唆されている

③先天性心疾患(VSD、心室中隔欠損)
・陽圧人工呼吸は肺血管抵抗や静脈灌流に影響を及ぼすため、先天性心疾患のうち肺高血圧や体肺血流不均衡の存在する類型群では呼吸管理が循環管理に無視できない
・肺血管抵抗を高める因子
低酸素血症、高二酸化炭素血症、肺胞過膨張、虚脱、陽圧換気、アシドーシス
・肺血管抵抗を下げる因子
酸素、低二酸化炭素血症、陰圧換気、一酸化窒素吸入、アルカローシス


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