13-1.人工呼吸とその適応、離脱

自発呼吸と機械的陽圧換気との違い

①自発換気
・吸気は横隔膜の収縮により、胸腔内圧が陰圧となり空気が肺内に流入する。
・呼気は横隔膜の弛緩により受動的に空気が呼出される。
・自発呼吸中は常に陰圧を維持している
・吸気時に胸腔内圧が低下するため右房圧が減少し、静脈形における中枢と末梢との圧較差が拡大する。それにより静脈還流が増加し、心拍出量を増大する。

②機械的陽圧換気
・気道内へガスを圧入して肺を内部から押し広げることによって吸気ガスが各肺胞へ到達する。
・したがって吸気時には気道から肺胞へとガスが強制的に送気され胸腔が拡大するため、胸腔内圧と肺胞内圧は気道内圧に平行して陽圧となる。
・機械的陽圧換気でも呼気は胸郭と肺のコンプライアンスによってなされている。

③陽圧換気の影響
・胸腔内圧が上昇するため、中心静脈と末梢静脈の差が少なくなり、静脈還流量は低下、心拍出量は低下する。
・循環動態の抑制、ガス交換も自発呼吸より劣る

換気方式の分類

①送気時に主に規定する因子
・換気モードは人工呼吸器が送気時に主として規定するパラメータによって量規定換気と圧規定換気に分類される。
・量規定換気は設定した量が得られるまで送気
・圧規定換気は回路内圧が設定圧になるまで維持するようにガスが送気される。
・時間サイクルはあらかじめ決めた期間はガスを送気する
・時間サイクルにおいて、吸気流速パターンに矩形波を用いれば、換気量は吸気流速と吸気時間との積になり、実質的に量規定換気である。
・時間サイクルにおいて、吸気流速パターンを漸減波にして、回路内圧を規定すると従来の従圧式換気と異なりPCV(設定した吸気時間内は気道内圧が一定に保たれる)となる。

圧規定換気では同じ設定圧であっても一回換気量は肺や気道の病態により変わる。
量規定換気では病態が変化しても一回換気量の変動は少ないが、気道内圧が変動する。

②調節換気と部分的補助換気

量規定 圧規定 両者
調節換気 VCV PCV CPPV
部分的補助換気 補助呼吸、SIMV 補助呼吸、CPAP、PSV

調節換気:あらかじめ設定した間隔で人工呼吸器がガスを送気

部分的補助換気:患者の吸気努力によって人工呼吸器がトリガーされて送気を開始

各種換気様式

1.調節換気
・自発呼吸が存在しない場合に行われる換気様式
・吸気の開始は人工呼吸器に備えられているタイマーとよって周期的に行われる。
・量規定換気は設定した一回換気量に達すると呼気へと変更する
・圧規定換気は気道内圧が設定値に達すると送気を中止して呼気弁を開放。
・吸気流速波型で漸減波を用いて圧と吸気時間の両者を規定する方式がPCV

①量規定換気(VCV)
気道内圧:
・量規定した調節換気では回路にリークがない限り患者が低換気に陥る危険性は少ない。
・送気時に生じる気道内圧とは無関係にあらかじめ設定された換気量が強制的に送られる。
・肺コンプライアンスが低下した例や気道抵抗が増加した場合、さらに自発呼吸の出現時や分泌物の貯留時には気道内圧は上昇し、圧損傷を生じる危険がある。
・量規定の調節換気を行う際は換気回数や換気量を規定するとともに、人工呼吸器に装備された高圧アラームを使用前に必ず設定する。
・量規定換気では一回換気量が同じであっても、用いる吸気流速波型によって生じる気道内圧が異なる。

コンプレッションボリューム:
・量規定換気では、患者の病態が変化しても設定した一回換気量によって患者は換気されていると考えがちである。
・しかし、設定した一回換気量が人工呼吸器の本体から送気されているが、実際に患者の気道へ流入する換気量は設定値より少ない。
・気体であるため、ガスの一部は呼吸回路内で圧縮され患者の気道に到達しないからである。
・人工呼吸器から送気されても回路内で圧縮されて患者の気道に到達しない量をコンプレッションボリュームという。
・通常人工呼吸器は2〜3ml/cmH2Oのコンプレッションボリュームを有している。
・1回換気量500mlに設定した場合に吸気終末休止時の気道内圧が20cmH2Oを示した場合、約60mlのコンプレッションボリュームがあり、実際に患者が得る換気量は500から60を引いた440mlである。
・コンプレッションボリュームは気道内圧が高いほど大きくなる、肺胸郭系のコンプライアンスが低いほど、人工呼吸器内部のコンプライアンスが大きいほどコンプレッションボリュームは増大する。
・小児は一回換気量が小さく成人よりコンプレッションボリュームの影響が強く、量規定換気を行っても実際に得る換気量は大幅に減少する。
・そのため小児ではVCVでなくPCVが多用される。

②吸気終末休止またはプラトー(EIP)
・人工呼吸器による送気終了後、すぐに呼気弁を開放せずある期間両弁を閉じたままにする。
・1つの呼吸サイクルの10%をEIPにしており、不均等分布が改善される。

③従来の従圧式調節換気
・回路内圧が設定圧になると吸気が終了するため、あらかじめ換気量を決めることはできない。
・その上、コンプライアンスの減少や気道抵抗の増加など病態の悪化によって換気量が減少する。
・そのため重篤な呼吸不全にはあまり使用されない

④PCV
・設定した吸気時間内は設定した気道内圧で維持される。
・吸気開始後は速い流速によって気道内圧を設定圧にまで上昇、吸気時間内はその圧を維持する。
・回路内圧が規定されてガスが流入しやすい部位での過膨張が生じないため、吸気ガスの不均等分布が減る。
・同一換気量のVCVに比して低い最高気道内圧で換気でき、平均気道内圧が高くなるため酸素化能が改善される
・気道内圧を一定に保つため、圧損傷が発生しにくい。
・換気量は駆動圧の増減により調節しているが、送気時間が短い場合は送気時間を長くすると一回換気量が増加する。

⑤IRV
・調節換気では、吸気と呼気の比は1:2に設定されることが多い。
・しかし、呼気よりも吸気時間が長く設定された換気法をIRVという。
・吸気時間の延長により、吸気ガスが均等に分布する、呼気時間の短縮によりPEEP様効果となる。

⑥CPPV
・呼気終末時も気道内圧を陽圧に持続する換気法を持続的陽圧換気(CPPV)という。
・その際の呼気終末の気道内圧をPEEPという。
・CPPVは機械的換気下であり、自発呼吸においてPEEPを付加した場合持続的気道陽圧(CPAP)という。
・吸入酸素濃度を高くしても、PaO2が80Torr以上にならない例に対してPEEPを付加する。

①作用
a:酸素化能の改善
・PEEP付加により末梢気道から肺胞への陽圧効果により肺胞が持続的に拡張されるため、機能的残気量ならびに肺コンプライアンスが増加、シャント率が減少し酸素化能が改善する。
・PEEPレベルを5cm H2O上昇するごとに機能的残気量は400ml増加する

b:虚脱部の改善時期
・機械的陽圧換気を行うと、健常部が拡張し、ついで気道内圧の上昇に伴って虚脱部も開通する。呼気相において、気道内圧が大気圧に戻ると、また虚脱してしまう。
・PEEPを付加して呼気時も陽圧に保つと、開通状態が維持される。
・PEEPの付加だけでは虚脱した肺胞は改善しない。高い気道内圧が必要。
・PEEPは開通状態を維持するため

c:過膨張
・健常部に対しては過伸展となる。
・過伸展が持続されると、肺間質の水腫、肺毛細管の透過性亢進、サーファクタント活性低下、局所コンプライアンス減少、その結果健常部も障害される。

②PEEPレベルの設定
・PEEPの至適レベルは定まっていない
・PEEPを上昇するとシャント率減少、PaO2は上昇、心拍出量は低下する。

③副作用、合併症
・心拍出量減少
静脈還流低下、心室中隔の左室側への偏位、体液性因子
・肺の圧損傷
・尿量減少
心拍出量減少、アルドステロン分泌増加、ADH分泌増加、腎血流分布変化
・脳圧亢進

a:心拍出量
・陽圧換気自体静脈還流を低下し、心拍出量を減少するが、PEEP付加により胸腔内圧が上昇するため循環抑制作用は増加する。
・PEEPにより
気道内圧上昇→胸腔内圧上昇→右房圧上昇→静脈の中枢と末梢との圧較差減少
・しかし、PEEP適応症例の肺は硬いため気道内に生じた高い陽圧は閉塞した末梢気道や肺胞を再開通させるが胸腔内圧はそれほど上昇しない。
・不必要に高い陽圧が加わると胸腔内圧は上昇する。

b:尿量減少
・PEEP付加時は心拍出量の低下に伴い腎血流も低下し尿量減少する。
・右房内の容量が減少した場合には、伸展レセプタに作用して抗利尿ホルモンの分泌が促進される。

c:脳圧上昇
・PEEPにより
胸腔内圧上昇→上大静脈還流量減少→脳静脈血流量増加→脳圧上昇

d:肺胞破裂、気胸、気腫
・PEEPが高いほど気胸や気腫などの圧外傷を発生しやすい、閉塞した末梢気道や肺胞には気道内圧が及びにくいため、PEEPによって生じた高い気道内圧は全肺野へ均等に分布されない。
・既に過伸展や肺気腫状に変性した肺胞および末梢気道を主に拡張し、その結果破裂する。
・急激な気道内圧の上昇やファイティングなどによって肺胞が破裂して気胸および気腫が発生する。

auto PEEP
・病的肺において自動的に発生
・気道抵抗が高い部位では呼気ガスの排出に要する時間が正常部位より長くなるため、呼気が完全に呼出される前に次の吸気ガスが送気される。

2.部分的補助換気
・自発呼吸があり、人工呼吸器がサポートし換気量増加、呼吸仕事量を減少させる様式
・トリガー機構が必要
・患者の吸気努力を感知し、ガスを送気する。
・ほかに食堂カテーテルを留置して横隔膜活動電位をトリガーに採用する方法もある。
・横隔膜の興奮を電気信号として採取し、これを吸気運動の発現とする。
・従来の信号に比してより早期に自発呼吸を感知できるので、適切な換気補助となる。

①補助換気
・従量式の補助呼吸では、人工呼吸器から送気されるガス量は事前に設定されているが、設定値が適切でないと患者の自発呼吸に合わないため、以上な呼吸となる。
・患者の一回換気量より送気量が多い場合、患者の吸気が終了しても強制送気が行われるため、肺胞内圧が上昇し圧損傷を引き起こす。
・患者の一回換気量より送気量が少ない場合、送気が終了しても患者は吸気を続ける。結果回路内圧が低下して、再度人工呼吸器がトリガーされオートサイクリング(一回の患者の吸気中に複数回人工呼吸器が送気する)が起こる。

②持続気道陽圧(CPAP)
・自発呼吸のもとで、持続的に気道内圧を陽圧に維持する。呼気終末も陽圧。
・持続的に気道内圧を陽圧に保つには呼気側回路の末端にPEEPバルブを接続、または回路最末端部を水の中に留置する。

利点:
a:酸素化能の改善
・付加するPEEPレベルに比例して機能的残気量が増加し、PaO2は上昇する。

b:胸腔内圧上昇の軽減
・自発呼吸を残したまま行うため機械的陽圧換気下のPEEP付加時(CPPV)に比して気道内圧および胸腔内圧が低く抑えられ、PEEPによる副作用が軽快する。

c:肺胞の開通
・CPAPにおいても虚脱肺胞の再開通は、TPPが最大となる自発呼吸の吸気相、PEEPの付加は呼気相における虚脱を防止する。

d:呼吸仕事量の軽減
・CPAPを行うと機能的残気量が増加するため、肺における圧量曲線の特性によってコンプライアンスのスロープが急峻な部位で呼吸を行うことになり、同じ一回換気量であっても吸気に要する仕事量が減少する。すなわち、CPAPは肺の換気効率を改善して吸気仕事量を減少させる。

使用上の注意:
・CPAPは呼吸の全サイクルにおいて気道内圧は陽圧に維持される。吸気時には回路内圧は低下する。
・吸気時の圧低下が大きいと、患者の呼吸仕事量は増大するとともに、機能的残気量は増加しないため酸素化能は改善されない。その上呼吸仕事量の増加により、PaCo2は上昇する。
・CPAP施行時に呼吸仕事量の増大を防止するには、吸気と呼気における呼吸回路の圧較差を2cmH2O以内に止めるべきである。
・そのために、回路内へのガス供給量を多くしたり、またはリザーバーバッグの容量を増大するなどの工夫が必要である。

適応:
・肺内シャント率が増加し、FiO2をあげてもPaO2が50〜60Torrなどの低値を示す症例
・しかしCPAPは自発呼吸にPEEPを付加するので、自発呼吸でPaCo2を正常レベルに維持できる肺胞換気量が必要。
・呼吸筋の負担を減らしたい例も適応(ウィーニングなど)

3.間欠的強制換気(IMV)
・強制換気の合間に患者が自発呼吸を行えるもの。
・調節換気では送気時以外では患者が吸気努力を行なってもガスを吸入できないが、IMVでは強制換気以外にも適時ガスを吸入する機構がある。

①方式
a:定常流方式
・規定した流量のガスが継続して呼吸回路に吹送されるので吸気努力開始時にガスの流入がスムーズになる。
・常に吸気時の最大流速以上のガスを流す必要がある。
・強制換気時には排気口の呼気弁を閉じて肺に送気している。

b:ディマンドバルブ方式
・患者の吸気努力により回路内が陰圧になり、吸気弁が開きガスが流入する。
・ある程度以上の吸気努力が必要
・吸気により弁が開きガスが送気されるまでの時間もあるため患者は違和感を感じ、時間的なズレにより気道内が陰圧になる。
・プレッシャーサポートを併用する

②利点
陽圧換気が有する欠点の軽減化:
・自発呼吸があるため、陽圧換気の欠点である胸腔内圧の上昇、肺内における吸気ガスの分布異常などが軽減される。
・したがってIMV施行時PEEPを付加するとCPPV使用時より平均気道内圧が低いため、循環や圧外傷の影響が少ない

ウィーニングの促進
・on-off方式(人工呼吸器を外し、自発呼吸を行う期間を徐々に長くする)では、ウィーニング開始当初からある程度以上の吸気努力の継続が必要となり、使用していなかった呼吸筋が協調性を回復するまでの時間がかかる。
・IMVでは強制換気の回数を漸減する事で負担を減らすことができる。
・on-off方式とIMVではウィーニングにかかる時間は変わりないと研究あり。慢性呼吸不全例ではon-offの方がいいと報告あり。

高二酸化炭素血症をともなう例に良い:
・慢性呼吸不全急性増悪により高二酸化炭素血症に陥っていた症例に、調節換気を開始して肺胞換気量をいきなり是正すると、急激にPaCo2が低下するとともに循環虚脱や痙攣などを発症することがある。
・このような症例に強制換気数を少なく設定したIMVで人工呼吸を開始すると、ゆっくりと肺胞換気量を改善でき、安全である。

新生児に用いやすい:
・新生児は呼吸数が多く、一回換気量も少ないため、換気補助が行いにくい。
・IMVでは自発呼吸が行えるので、IMVは適している。

呼吸管理が行いやすい:
・IMVでは、患者の自己調節機能によって自発呼吸の換気量が決定され、PaCo2が正常範囲内に維持される。

③欠点
自発呼吸との同調の不備:
・IMVの強制換気は患者の呼吸に関係ないので、換気能力が改善されて、呼気相に強制換気が加わると人工呼吸器と同調しなくなる。
・気道内圧の上昇、気管支痙攣、圧外傷が誘発
・この欠点を改良したのがSIMV

補助呼吸の有する問題点:
・IMVは吸気流速、送気量があらかじめ設定されているので、人工呼吸器からの送気と患者の吸気流速、吸気量が異なると人工呼吸器との不同調を起こす。
・呼吸仕事量の増加、気道内圧の異常

呼吸仕事量の増加:
・従来のディマンドバルブ式は、自発呼吸の認知と弁の開閉の遅れ、気道抵抗によって呼吸仕事量が増加する。呼吸困難や閉塞感を訴え、努力呼吸を有する。
・最近は、反応性の改善、患者の吸気流速に合わせて適時流量を制御するため、定常流方式より吸気仕事量は少ない。

4.同時式間欠的強制換気(SIMV)
・人工呼吸器が患者の吸気を感知し、強制換気を患者の吸気開始時に同調して行う方式。
・胸腔内圧の上昇が少なく、循環動態への影響が軽減されるとともに、気胸発生の危険性も減少する。さらに人工呼吸への違和感が減少する。

a:方式
・施行法は機種によって異なる。
・ある機種では、1呼吸サイクル(強制換気の回数を6回に設定した時の1サイクルは10秒間)
・前半の40%の期間が、自発呼吸に対する応答期になる。
・この応答期に吸気努力が発生すると、SIMVではその吸気に一致して強制換気が行われる。
・応答期間以外に自発呼吸があっても強制換気は行われない。
・応答期に自発呼吸がなければ、応答期終了時に強制換気が行われる。

b:問題点
・応答期の方式によっては実施された強制換気数が設定回数と多少ずれることもある。また、SIMVの強制換気は患者の吸気に一致して開始する。
・流速が一致するわけではない。

5.PSV
・ディマンドバルブ方式の欠点である弁解放の遅れ、呼吸回路、気管チューブの抵抗などの結果呼吸仕事量が増加することを軽減する目的
・自発呼吸の吸気流速に合わせて人工呼吸器が送気流速を適時調節するとともに、患者が吸気努力を行なっている間は回路内圧を一定に保つことによって自発呼吸を補助する。
・患者の自発呼吸と人工呼吸器との同調性が高まり、吸気仕事量が減少する。

①サポートの実際
・PSVは気道内圧又は回路流速の変化によって患者の自発呼吸の開始を認知する。
・患者の吸気流速に対応してディマンドバルブを適時調節し、患者が必要とするガスを送気しながら、気道内圧を設定したサポート圧にあげる。
・患者の吸気努力が持続している間は、ディマンドバルブから送気しているガス流量をサーボコントロールし、気道内圧を設定したサポート圧に維持する。
・すなわち、PSVはあらかじめ設定した陽圧を付加し患者の吸気努力を軽減する。
・PSVは患者が吸気を終了すると人工呼吸器からの送気は直ちに中止され、呼気バルブが開いて呼気となる。
・吸気終了時の認識法は人工呼吸器によって異なる。
・吸気流速の減少、気道内圧のサポート圧よりの上昇、吸気時間の延長など
・PSVは患者の吸気努力によって1回換気量、吸気流速、吸気時間などが決定される。
・PSVでは圧が規定されているため、一回換気量や分時換気量は病態の変動に伴って変化する。

②長所
a:同調性の改善
・患者の呼吸状況に合わせて吸気ガスを送るため、人工呼吸器との同調性が改善
・自発呼吸を抑制したり、停止させる薬剤(鎮痛薬や筋弛緩薬)の使用量が減少する。患者との意思疎通が改善。

b:呼吸パターンの改善
・吸気時間は設定したサポート圧に比例して延長するとともに、吸気時における胸部と腹部との呼吸筋の同調性が改善する。

c:吸気仕事量の軽減
・人工呼吸器装着時に自発呼吸を行うと、患者の吸気仕事量が増加するため酸素消費量も増大する。PSVはそれらを軽減する。

③PSVの短所
a:トリガーに要する呼吸仕事量
・PSV施行時も吸気をトリガーさせるには、患者自身の吸気努力によって回路内圧を低下させなくてはならない。
・肺コンプライアンスが低い例や気道抵抗が高い症例では、高速のディマンドフローを用いてPSVを行なってもトリガーに要する吸気仕事量を軽減することはできない。
・これらの例では、患者が吸気を開始しても気道内圧が低下してトリガーされるまでに時間がかかる。
・PSVによって患者の吸気仕事量が軽減されるのは、あくまでも患者と人工呼吸器との同調性が高められる事によって、もたらされるものであり、人工呼吸器のトリガーに要する吸気仕事量は従来の換気様式と全く同じ。

※フロートリガー
・トリガーに気道内圧の低下を用いない
・吸気側と呼気側とにおける流量の差を採用
・回路内にある程度の定常流を流し、その変化を吸気側と呼気側の2カ所でモニターしている。
・自発呼吸がないときは吸気側と呼気側とで測定した流量は一致する。
・自発呼吸が出現すると、ガスが患者の気道へ流入するため呼気側の流量は減少する。
・両者における流量の差の出現を吸気開始と解しトリガーに用いている。

b:吸気終了認識の不備
・コンプライアンスの低い肺では、吸気流速が小さいためPSVの停止基準にすぐ達してしまう(吸気流速が低い)
・患者が低い流速によって吸気を持続していても、停止機構が作動して人工呼吸器からの送気は終了する。
・送気が止まっても患者は吸気を続けており、胸腔内圧は再度低下し、その結果吸気仕事量は増加する。

c:病的肺
・気道抵抗の高い肺に過剰のプレッシャーサポートをかけると、auto PEEPが発生する危険性が増す。

④サポート圧の設定
・目的によってサポート圧の設定は異なる
・SIMVまたはCPAP施行時に吸気仕事量の軽減を意図するならば、低いサポート圧(3〜5cmH2O)で十分である。
・PSVではサポート圧を増すと、そのレベルに比例して一回換気量が増加する。
・PSVによって積極的に一回換気量の増大を目的とするならば、高いサポート圧が必要。
・臨床的には15〜25cmH2Oから始め、徐々に3〜5cm H2Oずつ下げていく。

⑤適応
・自発呼吸のドライブが十分あり、その上吸気トリガーに要する吸気仕事量がそれほど多くない症例がPSVの適応である。
・また自発呼吸が存在する換気モード施行時には、人工呼吸器により負荷される吸気仕事量を軽減するために低いサポート圧のPSVを併用する。

⑥施行時の注意点
a:換気量の変動
・PSVも患者の吸気努力によりトリガーされて作動するため、鎮静薬あるいは麻薬などによって呼吸が抑制された例は、人工呼吸器をトリガーできず無呼吸となる。
・一方病態の変化が激しい急性期例、あるいは大量に気道内分泌物が存在する例などでは、気道抵抗や肺コンプライアンスが変動しやすいためPSVで管理すると一回換気量が変化する。

b:リークによる高いCPAPの発生
・気管チューブと気管壁との間にカフ漏れが存在し、そのリーク量が人工呼吸器の呼気認識量より多い場合に人工呼吸器は患者の吸気終了を認識できない。その結果ディマンドバルブは開いたままとなり設定サポート圧が持続しサポートレベルのCPAPが生じる。

6.APRVとBIPAP
・2つの回路内圧を一定の時間ごとに繰り返す換気様式
・APRVでは、一定の回路内圧を付加し周期的に回路を開放することにより回路内圧が短時間低下する。
・低圧相から高圧相に移行する際には肺内にガスが流入し、反対に回路内圧が低圧相に下がるときはガスが呼出させる。
・APRVとBIPAPでは自由に自発呼吸が可能
・自発呼吸が消失しても周期的に回路内圧が変動するため換気量が得られる。
・APRVとBIPAPはmodified CPAPと考えられ、 CPAPの利点を生かしながら換気量の増大を図る。

特徴:
・APRVは低圧相の時間が1秒以内と短く、周期的に高圧相から圧を開放する。
・BIPAPでは、低圧相がAPRVより長く持続する。

適応:
・低コンプライアンス例や高気道抵抗例では必然的に高い回路内圧が必要である。
・このような症例に対して、 CPAPだけでは肺胞低換気が起こる。
・一方CPPVやSIMVで管理すると、気道内圧の上昇による圧損傷の発生が懸念される。
・肺が虚脱しやすい場合には気道にある程度の圧を持続して付加すれば防止できるが、それでは呼気の排出が行われず二酸化炭素が蓄積する。その上胸腔内圧が高く維持されるため、静脈還流量が減少する。
・APRVでは、気道に高い圧が加えられるが、周期的に圧開放を行うため、肺の虚脱防止と二酸化炭素の呼出も得られる。
・ARDSのように呼気相に気道内圧が低下すると肺が虚脱する病態に対して有効と言われている。
・また、PCVやIRVからのウィーニングにもAPRVとBIPAPが用いられる。
・極端な頻呼吸を呈する呼吸不全患者では、自発呼吸の一回換気量が制限され、何らかの陽圧補助が必要である。
・SIMVでは、自発呼吸の吸気と同調することが不可能であり
・PSVでは、送気ガスが患者の吸気流速に同調しにくいこと、自発呼吸が全てトリガーされるという問題
・上記の例でもAPRVとBIPAPは適応となる。

7.比例補助換気(PAV)
・呼吸運動を行うために呼吸筋が発生する圧を人工呼吸器がリアルタイムに計測し、一定の割合で軽減する換気様式。
・患者のデマンドに応じて常に一定の割合で呼吸補助を行う。

各種換気モードのまとめ

1.調節換気(CMV)
・人工呼吸器のタイマーによって定期的に規定した条件で送気
・自発呼吸のない患者に使用

2.VCV
・人工呼吸器からの送気量が規定

3.EIP
・吸気が終了してもすぐに呼気に移行しない期間
・1呼吸サイクルの10%くらいの期間
・吸気ガスの不均等性を改善

4. PEEP
・呼気終末を陽圧に保つ
・調節換気ではCPPV、自発呼吸では CPAP
・FRCの増加によりPaO2は上昇
・通常 PEEPレベルは5〜15cm H2O
・CPPVでは副作用がある。(循環抑制、尿量減少、圧外傷、脳圧上昇)

5.PCV
・設定した吸気時間を規定した圧で保つ方式(吸気時間と回路内圧の両者をあらかじめ規定)
・同一の一回換気量ではVCVより最高気道内圧は低く、平均気道内圧は高い
・吸気ガスがVCVより均等に分布する
・圧規定方式であり、患者の病態によって一回換気量は変動する。
・同じ設定圧でも吸気時間によって一回換気量は変動する。

6.IRV
・吸気時間より呼気時間を長くした
・酸素化能を改善する
・非生理的で調節換気時しか使えない

7.補助呼吸
・患者の吸気努力によって回路内圧が下がる(あるいは回路内流量の減少)と、人工呼吸器がトリガーされ送気する。
・圧トリガーではほぼ-1cm H2Oにトリガーを設定。
・吸気開始時は自発呼吸にほぼ一致するが、流速および吸気時間は固定されている。

8.CPAP
・自発呼吸のある患者に行う。(PaO2上昇)
・比較的高い PEEPを付加してます、平均気道内圧は低く維持
・換気効率が良くなり、呼吸仕事量は減少
・施行時は吸気と呼気時における気道内圧較差を少なくする。

9.IMV、SIMV
・強制換気の合間にも、自発呼吸を行える
・平均気道内圧が減少するため、機械的陽圧換気の欠点を軽減
・ウィーニング時や小児に向く
・強制換気が患者の吸気開始時に同期させる方式をSIMVという

10.PSV
・患者の吸気流速に合うように流量調節
・低いサポート圧(5cm H2O)によって、SIMVやCPAP時の吸気仕事量が軽減される。
・高いサポート圧を用いると一回換気量が増加する。
・人工呼吸器との同調性が良いため、ファイティングを起こしにくい。

11.APRV、BIPAP
・2つの回路内圧を交互に行う方式
・回路内圧が変動するときに換気が得られる
・高い流速を用いるため、頻呼吸例にも適応となる。

人工呼吸の適応

・人工呼吸の実施は、
①肺胞換気量の維持
②呼吸仕事量の減少
③ガス交換能の改善などを目的として行う
・したがって、自発呼吸が不足しているかまたは消失している例、強い努力呼吸を呈する例、さらに吸入酸素濃度を高くしても十分なPaO2が得られない症例などが人工呼吸の適応となる。

1.人工呼吸が適応となる病態
・心肺蘇生術、薬物により呼吸中枢が障害、神経筋疾患(ポリオ呼吸筋麻痺、重症筋無力症、ALS)、フレイルチェストなど
・肺炎、肺水腫、肺線維症など肺に障害がありガス交換能が低下した症例
・ARDSなど急性呼吸不全例は過換気を呈しているが、酸素療法に反応しない低酸素血症をきたすため人工呼吸を必要とする。
・外傷、重症感染症、侵襲の大きい手術を施行した症例など、急性呼吸不全の発生が強く予想される例も人工呼吸を施行する。
・循環動態の悪化が持続すると呼吸筋への血流量が減少して、換気運動に失調をきたす。
・したがって著しい心不全例や出血性ショックに陥った例にも人工呼吸が適応となる。
・心不全例に対して人工呼吸を行うと、呼吸に要する負荷を軽減するだけでなく、酸素化能を改善して心筋に対しても良好に作用する。
・また、 PEEPを付加した積極的人工呼吸療法は、左心不全患者に対して胸腔内圧の上昇によって末梢静脈と中心静脈との圧較差を減少し、前負荷を軽減する。
・急性増悪によって慢性疾患患者のガス交換能が著明に悪化した場合も人工呼吸が適応になるが、その決定には慎重な配慮が必要。

2.人工呼吸の開始時期の決定
①急性呼吸不全
・換気力
・酸素化能
・換気効率
・血液ガス分析ではPaO2 30Torr以下、PaCo2 70〜90Torr以上、pH7.10以下、生命危機の限界を示す。
・急性呼吸不全例では体力は温存されているが、生体による代償機転は不十分
・そのため比較的早期から人工呼吸を開始
・呼吸停止、肺胞換気量低下(PaCo2 60〜70Torr以上)であれば人工呼吸開始
・PaCo2は上昇していないが、肺胞レベルにおいて酸素の取り込みが障害されている場合は、まず酸素吸入を開始。それでもPaO2が上昇しなければ末梢気道や肺胞の虚脱によりシャント形成がされていると考えられ、何らかの方法で気道を開通させたり、肺胞の再拡張を促進しなければならない。
・吸入酸素濃度を60%にしても、PaO2 60Torr以上にならないほど酸素化能が悪化した例には積極的に人工呼吸を施行すべきと言われている。

②慢性呼吸不全の急性増悪
・人工呼吸の適応が最も難しいのは慢性呼吸不全患者が呼吸器感染などによって急性増悪をきたした場合である。
・COPDでは、通常から抵抗が高い気道を介して換気を行うため呼吸仕事量が増大するとともに、肺胞死腔が増大し、ガス交換率が悪化している。
・したがって、これらの患者が急性増悪をきたすと、換気の予備力が乏しいため重篤な呼吸不全に陥りやすい。
・慢性呼吸不全の患者には平常時から血液ガスに異常をきたし、低酸素血症や高二酸化炭素血症に順応して日常生活を送っている例が多い。
・しかし、呼吸性アシドーシスに対しては重炭酸イオン濃度を増加してpHの低下を軽減する代償機転が働いている。
・また急性増悪に陥るとより一層血液ガス値が悪化するが、低酸素血症や高二酸化炭素血症に対する安全域が健常人よりも広い、その上COPDでは人工呼吸期間が長引くと肺の圧損傷を代表とする人工呼吸による合併症の発生率が高い。
・人工呼吸器に依存性を示す例もあり、呼吸筋が機能低下をきたし、ウィーニングが、困難になる。
・このように人工呼吸管理上に多くの問題点があるが他の呼吸不全例よりCOPDの急性増悪では、薬物療法や各種理学療法の効力が発揮されやすい。
・一方強力な薬物療法の実施にもかかわらず、病態が悪化する気管支喘息重積状態の症例に対しては、人工呼吸の実施が必要とされる。
・人工呼吸を施行すると
①分時換気量の増大によるPaCo2の正常化
②呼吸仕事量の軽減
③気道分泌物の積極的排除
・喘息発作に対する人工呼吸中には気胸、肺炎、低換気、気管チューブに関連した事故、さらに人工呼吸器のトラブルなどの発生頻度が高いことが報告
・慢性呼吸不全例では
①平常時から血液ガスが悪化している
②代償機転が働いている
③人工呼吸による合併症が起こりやすい
④ウィーニング困難
⑤保存療法が効果的
などの理由により急性呼吸不全とは別の基準が必要
・慢性呼吸不全例における人工呼吸の開始については、高二酸化炭素血症に加え、
①意識障害
②呼吸数異常(RR>40またはRR<6)
③pH≦7.20
④強い低酸素血症(PaO2≦45Torr)
⑤呼吸筋の疲労を示唆する明らかな腹部と胸部のシーソー呼吸
⑥去痰不能

人工呼吸開始時における条件設定

1.換気様式の選択
①調節換気
・自発呼吸がない
・人工呼吸器との不同調により自発呼吸を、止めた場合
・量規定換気と圧規定換気
・従来は量規定換気、最近はPCV利用されている。
・酸素化能悪ければ PEEP付加

②部分的補助換気
・自発呼吸不十分
・換気量不足にはIMVおよびPSVを選択
・1回換気量が少ない症例に対し、比較的高いサポート圧のPSVにより換気量の増大を期待するときには、強制換気数の少ないSIMVを、併用すると自発呼吸が抑制された場合にも最小限の換気量が維持される。

2.1回換気量の設定
①一般的な考え方
・調節換気やサポート圧が高いPSV施行時には、一般的にPaCo2が40±5Torrになるように1回換気量を設定する。
・成人では8〜10ml/kg、小児6〜10ml/kg

②高二酸化炭素血症
・二酸化炭素は交感神経を、介して副腎髄質からカテコラミンの分泌を促進する。
・したがって、PaCo2が人工呼吸の開始により急激に低下すると、副腎からのカテコラミンの分泌が減少する上に陽圧換気による循環抑制作用により、人工呼吸開始直後から強い循環虚脱をきたすことがある。
・PaCo2を急激に正常レベルまで低下せず、①換気量を徐々に増す
②胸腔内圧の上昇が比較的少ないSIMV並びにPSVを、用いる。

3.換気回数
・患者の生理的呼吸数に添って設定する。
・成人では12〜16回/分に設定すれば良いが、気管支痙攣を発症している例では、一つの呼吸サイクルに要する時間が延長しており、必然的に換気回数は少なくなる。
・IMVでは、患者の換気力を観察しながら強制換気数を、決定する。

4.1回換気量と換気回数の設定上の注意
・PaCo2は分時換気量ではなく肺胞換気量で決定されるため肺胞換気量を考慮して一回換気量と換気回数を設定する。

5.吸気呼気比
・通常調節換気時はIE比を、1:2にするが、コンプライアンス低下例には吸気時間を長くして(1:1)
・閉塞性肺疾患では呼気が延長しておりIE比を小さくする(1:3)

6.吸入酸素濃度の設定
・酸素中毒や新生児の未熟児網膜症とならないように吸入酸素濃度は低く設定する。
・PaO2 100Torr前後に維持するようにする。
・吸入酸素濃度を低く設定しても低酸素血症とならないように多少高く設定する。
・パルスオキシメーターによりSpO2が97〜98%になるように酸素濃度を適時調節

7.トリガーレベル
・圧トリガーを用いる場合には-1〜-2cmH2O程度にトリガーレベルを設定している。
・フロートリガーの場合3l/分前後が適当
・トリガーレベルが鈍かったり鋭敏でもよくない

8.人工呼吸による肺損傷の予防
①人工呼吸にやる肺損傷と肺保護戦略
・吸気プラトー圧は30cmH2O以下に保つべき
・人工呼吸の施行により肺に損傷が生じる。
・肺に対して保護的な人工呼吸療法を施行しなくてはならない。
・ずり応力の発生を防止するには下屈曲点よりも高い PEEPを、付加する。
・通常の一回換気量で換気すると今度は上屈曲点に至り気道内圧は高値のなる。
・1回換気量を低くして高二酸化炭素血症を許容するようにする。
・ARDS患者に対して一回換気量を減らすだけで死亡率が2割も減少
・肺リクルートメントは虚脱した肺胞に圧をかけて含気を取り戻させること。
・CPAPまたは、高い PEEPを併用したPCVで行う。
・40〜60cmH2Oもの高い圧をかけると患者は呼吸を行いにくいし、施行中に咳をするとさらに回路内圧は上昇。
・そのため圧外傷発生の危険もあり、十分な鎮静が必須とされ場合によっては筋弛緩を、投与する。

人工呼吸器からの離脱

・人工呼吸器を装着した時から人工呼吸管理の目的は人工呼吸器を外して自発呼吸に戻すこと。
・人工呼吸器からの離脱時にはきめ細かい呼吸および全身管理が必要とされる。

1.ウィーニングの定義
・人工呼吸管理下から自発呼吸へと移行する時期
・開始時期、終了については定義は一定ではない。

2.ウィーニング開始時期と条件
・呼吸不全を発生させた病態の進行が止まり、循環動態が安定し、その上血液ガス値が安定した時点、すなわち病状が改善方向に向かい出すと直ちにウィーニングを考慮してなるべく早期にウィーニングを開始して人工呼吸期間を短くする。

①ウィーニングによる影響
・患者の呼吸仕事量が増加すると、横隔膜を含めた呼吸筋への血流量が増加する。
・その程度が少なければ心拍出量の増加で代償しうるが、その域を超える場合には相対的に肝や腎などの重要臓器への血流量が、減少する。
・その結果、腎機能低下や肝機能障害を発症することがある。
・ウィーニング開始時に尿量の減少や利尿薬に対する反応性が低下することもある。
・ウィーニング開始時期の決定因子として、酸素化能と換気量から評価している。
・酸素化能障害はCPAPの付加などによって、対応できるためたとえ酸素化能が悪くても換気力が十分であれば積極的にウィーニングを開始する。

②前提条件
・循環動態、感染、酸塩基平衡さらに意識レベルなどの改善が必至である。
・栄養状態が悪化していると横隔膜をはじめとする呼吸筋の萎縮や機能低下を引き起こし換気応答能も障害される。
・ウィーニング開始時期に栄養状態を改善する必要あるが、最近では栄養状態悪くても積極的に行なっている。

a:循環動態の安定
・呼吸と循環は一方に障害があると他方側にも悪影響を及ぼす
・ウィーニング開始時期は循環系の安定を得る。

b:感染の鎮静化
・肺に感染がある場合、鎮静化してからウィーニング開始。喀痰の性状、CRP値に注意。

c:酸塩基平衡の是正
・ウィーニング開始時期に代謝性アルカローシスがあると二酸化炭素を蓄積して自発呼吸が抑制される。開始前には重炭酸イオンのレベルを是正する。
・人工呼吸によってPaCo2が平常より低いと、呼吸中枢への刺激性が減るため、自発呼吸が出にくくなる。
・慢性呼吸不全など平常からPaCo2が高い症例は二酸化炭素を下げすぎないようにする。

d:意識レベルの改善
・呼吸抑制作用を有する薬剤の排除
・疼痛や気管挿管などの苦痛に対して麻薬や鎮静薬が投与されている。中枢神経の病変や代謝性脳症などを合併して呼吸中枢が抑制されている。
・呼吸中枢の抑制があるとウィーニング行いにくい。
・治療状況の変化をある程度理解できる程度に意識レベルが回復していることが望まれる。
・筋弛緩薬の投与はウィーニング開始前には必ず中止する。
・ウィーニング中は鎮静薬、鎮痛薬など
・呼吸中枢を抑制する薬物の使用には特に注意。

③ウィーニング開始の指標
a:急性呼吸不全
①換気予備力
・努力性肺活量
・最大吸気圧

②酸素化能
・PaO2
・PaO2/FiO2

③換気能力:
・PaCo2
・Vd/Vt

ウィーニング開始基準
呼吸数:10<RR<30
肺活量:>12〜15ml/kg
最大吸気圧:>25cm H2O
分時換気量:<10l/分

PaO2:>70(FiO2=0.4)
A-aDO2:<350

PaCo2:35< <45
Vd/Vt:<0.58

b:慢性呼吸不全
・急性増悪をきたす前の平常値がすでに安全基準レベルを逸脱していることが多く、より厳しい条件下におけるウィーニング施行が必要とされる。
・COPD症例では、急性増悪発症前の身体活動性が高い症例、一秒量と血清アルブミン値の高い例などではウィーニングの成功率高い。
・呼吸筋の酸素消費量が全酸素消費量の15%を上回る症例ではウィーニングが難しい。

④抜管時期の決定
・人工呼吸器装着時に段階的に自発呼吸の比率を増し、最終的に自発呼吸だけで換気が維持できる状況になれば、気管チューブまたは気管切開チューブの抜去を考慮する。
・抜管に際しては肺酸素化能、換気の維持力さらに換気予備力などが、どの程度改善しているかが問題。
・酸素化能の低下はNPPVで対処できると言われているが、気管チューブ抜管後は自力で喀痰排出と深呼吸を行えることが必要。
・喀痰の喀出力が弱い例では、抜管後に喀出不全によって再挿管を要する。
・抜管を行うには、①喀出力が十分②上気道狭窄なし③誤嚥の恐れがないという3つの条件が必要

3.ウィーニングの実際
・酸素化能が障害されたため高いFiO2と PEEPが、付加されている例ではFiO2と PEEPは病態の推移を見ながら減少する。
・気胸、皮下気腫などの圧外傷が存在または発生が懸念される例では PEEPをできるだけ早く下げる。
・一方肺胞が虚脱しやすく、少しでも PEEPを減少するとPaO2が著しく低下する場合はFi O2を先に下げる。

①ウィーニングの方法
a:on-off方式
・本方式では強制換気と自発呼吸とがある期間をおいて交互に存在。循環系へ及ぼす影響が大きい。
・患者にとってもウィーニング開始時からたとえ時間は短くても、最大限の努力が必要であり、大きな負荷となることがある。
・そのため本方式によってウィーニングを行う時はどの程度まで患者が自発呼吸を続けることが可能であるかを常に監視しなくてはならない。

b:SIMV
・ウィーニングに多く応用されている。
・調節換気と自発呼吸との間をスムーズに移行する方式。
・ウィーニングの際は強制換気の回数を10〜8回/分とし、その際にPaCo2の著しい上昇やバイタルサインに異常認めないならば、患者の自発呼吸数の推移に注意しながら強制換気の回数を漸減する。
・SIMVでは強制換気の合間に無意識に自発呼吸を誘発し、次第に機械的換気から自発呼吸へと変えていくため、人工呼吸器依存性の患者でも不安感なくウィーニングが行える。
・その上自発呼吸の増加とともに、呼吸筋力も訓練しながらウィーニング出来ることとが利点とされている。

c:PSV
・回路抵抗などによって生じる患者の吸気仕事量を軽減することで横隔膜の疲労を防ぐため、ウィーニングに適していると思われる。
・したがってウィーニングに際してPSVにおけるサポート圧を5cm H2O程度ずつ段階的に下げながら行う。
・呼吸数、脈拍数、血圧、発汗の有無など臨床所見を確認しながらサポート圧の低下をはかることが重要である。

d:SBT
・VAPに配慮して気管挿管の期間を短縮するために人工呼吸器からの離脱のプロトコルを定め、患者の機能を定期的に評価する。
・すなわち、自発呼吸トライアルを1日1回行って離脱の可能性を検討する。
・人工呼吸器が装着されているが全身状態からウィーニングが可能と判断された患者について、呼吸の維持を人工呼吸器を外してT-ピース回路下に変更。
・あるいは5〜7cm H2OのPSVで5cm H2Oの PEEPを付加する。
・これらの状況下で自然呼吸に耐えられるか否かを観察することによってウィーニングの施行を決定する方法。
・まず5分間観察し、問題がなければ30〜120分間観察する。

SBT成功判断基準
①バイタルサイン
・呼吸数:<35回/分
・SpO2≧90%
・高血圧、低血圧、頻脈、徐脈、がなく危険な不整脈も認めない。

②患者のアセスメント
・意識状態の変化(不穏状態と不安の悪化なし)
・循環不全(末梢冷感と冷や汗なし)
・呼吸負荷(呼吸パターン悪化、呼吸補助勤使用、奇異呼吸などなし)

②ウィーニング時の注意
期間:人工呼吸器期間が長ければウィーニングにかかる時間も長い

精神面の保護:
・自発呼吸に対して強い不安感があるため、精神的サポートが必要

肺機能の悪化:
・ウィーニング施行時は自発呼吸が含まれるため、平均胸腔内圧が低下し、静脈還流量が促進、肺血流増加により一時的に肺機能悪化の可能性あり。
・過度に水分を制限すると、気道内分泌物の粘稠度が増し、喀痰の排出が困難になることがある。

吸入酸素濃度:
・換気血流比の低い肺胞では肺胞内のガス量に比して血流量が多く、酸素は全て血液へと移行する。
・吸入酸素濃度が上昇すると肺胞内において酸素が占める割合が増加するが、ガス交換によってそれらのほとんどが血液相へと移行し、その結果肺胞は虚脱する。
・吸入酸素濃度を上げずに人工呼吸時とほぼ同じレベルで行う。

ウィーニングの継続中止:
・努力呼吸の出現(奇異呼吸)
・呼吸数:>40回/分
・PaO2<50Torr
・PaCo2の上昇傾向
・血圧上昇
・頻脈
・不整脈多発
・不穏状態
・発汗

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