11.人工呼吸器の基本構造と保守および医療ガス

人工呼吸器は肺の機能を代行(主に換気)、つまりや警報は生命に直結するトラブル

人工呼吸器の作動原理

・吸気時に呼気弁が閉じ、患者の肺に陽圧がかかって吸気が起こる。
・呼気時には呼気弁が開き、気道内圧と大気圧の差にやって呼気ガスが呼出される。
・呼気時は胸郭と肺の弾性収縮力のよってガスは呼出される。

人工呼吸器の基本構造

①駆動源接続部
・電気と医療ガスを駆動源とする
・電源は非常電源(赤または緑の電源コンセント)または内蔵バッテリーから供給
・人工呼吸器本体と医療ガス配管末端を接続するホースをホースアセンブリと呼ぶ
・誤接続防止のため、ピン方式やシュレーダ方式の安全策がある。
・アダプタプラグやホースアセンブリの識別色は酸素が緑、治療用空気が黄で区別

②人工呼吸器本体
換気量、気道内圧、酸素濃度、温度など測定に関するセンサがある。各種警報機能や安産機構が作動するようになっている。
・ガスの流れの制御
吸気側:
供給された医療ガスを圧力調整器により一定のガス圧に調整し、電磁弁の開閉により換気量、吸気流量、吸気波形、換気回数などが調整され患者に送気される。

呼気側:
呼気側回路の末端には呼吸回路内のガスが一定の方向に流れ、再呼吸が起こらないようにする呼気弁がある。呼気弁はダイアフラム方式、バルーン方式がある。

・酸素濃度調整部(ブレンダ)
患者が吸入するガスの酸素濃度を厳密に調整するもの
酸素流量と治療用空気流量をそれぞれの電磁弁で調節しながら直接吸気ガス回路内で混合するものが多い

・安全弁機構、呼気弁開放機構
安全弁機構:
気道内圧が気道内圧上限アラームを超えて異常に上昇した場合に開く

呼気弁開放機構:
停電時や電源スイッチがオフになっている場合や医療ガスの供給が停止した場合

・片側駆動機構
酸素もしくは治療用空気のどちらか一方が停止または低下した場合に正常に供給されている医療ガスで人工呼吸器が作動するようになっている

③呼吸回路
・ホース
人工呼吸器本体と患者をつなぎ、人工呼吸器本体から患者までガスを送気、患者から呼出されたガスを外界へ導くための管、蛇管とも呼ぶ。成人用、小児・新生児用(ホースヒータを必ず装備)、使い捨て回路など

・Yピース
吸気側回路および呼気側回路のホースの接続口と気管チューブのスリップジョイント(コネクタ)との接続口を持つY字状のコネクタ

・加温加湿器・人工鼻
患者に送気されるガスの加湿、加温を行う。

・ウォータートラップ
呼吸回路内に貯留した水を溜める部分をいい、呼吸回路で最も低い部位に位置する。

・ネブライザー
気管支拡張剤や粘液溶解剤などの薬液を細かい浮遊した粒子を作り、吸気ガスと一緒に吸入させるもの。

・バクテリアフィルタ
吸気側フィルタ:
医療ガス配管や人口呼吸器内部からの異物を除去
呼気側フィルタ:
患者の気道から排出される雑菌などから人工呼吸器内部のガス系路図の汚染を防止するため

④グラフィックディスプレイ
グラフィックディスプレイからの換気条件や警報設定のタッチ入力、患者の気道内圧、換気量、流量に関する表示や換気力学評価などの情報が容易に把握できる。

加温加湿器

目的:
通常の呼吸では、鼻腔、咽頭、喉頭を通過する間に徐々に加温加湿され、肺胞に達する。
気管挿管や気管切開患者では乾燥した空気が直接肺胞に送り込まれる。

気道粘膜の線毛運動の低下、喀痰の粘稠化、気道内の痰や異物の喀出が困難となる。

①無気肺や肺炎などの呼吸気合併症
②気道抵抗の上昇
③粘稠な痰による気管チューブの閉塞

至適な加温加湿:
吸入気温度、32〜34℃
相対湿度、95〜100%
絶対湿度、30〜35mg/L

加温加湿の方法:
①加温加湿器
pass over型
貯水槽の中の水面とガスを接触させ、その時の水温に準じた湿度を患者に送る。
ヒーターで37℃に加温すれば、相対湿度100%となる。

②人口鼻
呼吸回路のYピースと気管チューブの間に装着し、吸入気ガスを加温加湿する装置。細かいメッシュの層でできていて、患者の呼気ガス中の水分と熱を蓄え、次の吸気時にそれを利用してガスを加温加湿することができる。
人口鼻はディスポで供給されるため、感染等の問題はない。

加温加湿時の注意点:
加温加湿器給水時
加温加湿チャンバーをバイパスして呼吸回路を直結したのちガスポートより給水し、速やかに呼吸回路を加温加湿チャンバーのガスポートに再接続しなかった場合、気道内熱傷などの重篤な健康被害を引き起こす。
最近は自動給水チャンバーが多い。

人口鼻と加温加湿器の併用禁忌
人口鼻の過度の吸湿による流量抵抗の増加や人口鼻の閉塞の危険性あり。

人工呼吸器の管理

①医療機器の安全使用を確保するための責任者の設置
②従事者に医療機器の安全使用のための研修実施
③医療機器の保守点検計画の策定および保守点検の適切な実施
④医療機器の安全使用のために必要となる情報の収集とその他の医療機器の安全使用を目的とした改善のための方策の実施

人工呼吸器使用中に見られるトラブル:
・呼吸回路のトラブル多かった。今は少なくなっている。
・設定、操作部、電源、酸素供給、本体のトラブルが続く

・トラブルがあった時は、患者やモニターに変化がないか確認する。
患者への声かけ、胸郭の動きの変化、バイタルサイン、皮膚粘膜の色の変化…
・換気および酸素化の維持に努める
用手蘇生器(バックバルブマスク、ジャンクソンリース回路)や麻酔器などによる換気の維持、医療ガス配管端末器および酸素ボンベからの酸素投与による動脈血酸素化の維持に努める

人工呼吸器に関する医療事故防止対策:
①適応範囲
・人工呼吸器および麻酔器を適用対象とする。ただし、手動式人工呼吸器およびCPAPは除く

②具体的対策
・呼吸回路の外れや閉塞、ガスリーク等で換気が正常に行われない異常が発生した場合に、その異常を検知し、警報を作動させる各種機能があるが、それとは別に警報機能付きパルスオキシメーターやカプノメーター(反応早い)で患者の異常を捉える生体情報モニターを併用する。
・人工呼吸器が使用できなくなった時を考え、手動式人工呼吸器を用意しておく。

・低圧警報または低換気警報が作動するか確認するために注意喚起シールを貼付
・シールは人工呼吸器の前面等、見やすい位置に貼付、特に警報設定ダイヤルの近くに貼付。

・人工呼吸器の保守点検の実施を徹底させるために、定期点検済みシールを貼付

・人口呼吸器使用前、中、後のチェックリストを作成、使用

トラブルが起こった時の対応:
・まず患者の安全を第一に考える
・トラブルの原因を調べる
※人工呼吸器の使用を中止し、用手蘇生器により人工呼吸を続け、代替人工呼吸器を用意する
・当該人工呼吸器の再使用を禁止
・人工呼吸器修理担当に連絡して、点検修理を依頼
・トラブル発生時の状況を簡潔明瞭に記録

人工呼吸器に関する感染予防

人工呼吸管理中の感染予防:
・気管挿管や気管切開下で人工呼吸管理が行われていると、感染防御機構を備えている上気道をバイパスするため、感染症に罹患する危険性が高い。
・人工呼吸器本体や呼吸回路を介して他の患者や医療従事者に感染する危険があるため、取り扱いに注意。

使用中の人工呼吸器の取り扱い方法:

呼吸回路
①呼吸回路の交換、加温加湿器内への滅菌蒸留水の補充などで呼吸回路を取り扱うには慎重に行い、清潔の維持に努める
②吸引などにおいて呼吸回路を一時的に外すときには、外した呼吸回路の先端部分を清潔なガーゼの上に置くなどして清潔を保つ。
③個々の患者に使用中の呼吸回路は、継続して使い、汚染が肉眼で確認されたり、作動不良を起こすような時は交換する。
④呼吸回路内に貯留した水分はウォータートラップなどから、適時除去する。その際、水分が患者側に流れ込まないように注意しなければならない。

加温加湿器
①加温加湿器内に滅菌蒸留水を補充する際は出来る限り慎重に取り扱い清潔の維持に努める。
②呼気側の呼吸回路に水分が過剰に貯留する場合には、気道内分泌物中の細菌などにより汚染された感染源となる。適切な加湿状態になるように加温加湿器の設定を調節する。貯留した水分や分泌物が加温加湿器に流れ込まないようにする。

ネブライザー
ネブライザーから出てくるエアロゾルは細菌などで汚染されると重大な感染症を引き起こす。薬液の調合、注入、補充は無菌的に行う。

フィルタ
呼吸回路の清潔を維持するために使用されるバクテリアフィルタは定期的に交換する。

呼吸療法関連機器の消毒:
①クリティカル:
体内の無菌の組織や血管内に使用される
②セミクリティカル:
粘膜や創に接触するもの
③ノンクリティカル:
医療機関の表面や人の皮膚に触れるもの

高水準消毒:多数の細菌芽胞を除く全ての微生物を殺滅できる

中水準消毒:結核菌、栄養型細菌、ほとんどのウイルスおよび真菌を不活性化、必ずしも細菌芽胞を死滅させるわけではない

低水準消毒:
ほとんどの細菌、数種のウイルスおよび数種の真菌を死滅させることはできるが、結核菌や細菌芽胞などの抵抗のある微生物を殺滅できるか期待できない。

医療ガスの基礎

医療ガス
①酸素、液化酸素
・気体の酸素が充填されているため、ボンベ内圧力から残量を知る
②治療用空気
圧縮空気:
・自然界の空気を圧縮し、清浄化したもの。
合成空気:
・液体酸素と液体窒素を気化混合して空気と同じ組成(21%と79%)
③亜酸化窒素
・液体の亜酸化窒素が充填される。ボンベ内圧力からは残量はわからず、重さから知る。
④二酸化炭素
・ボンベ内は液体、大気中に放出されると断熱膨張と気化熱で冷却する。
⑤窒素
・湿気を含まず純度が高いことから、手術用機器の動力源として使われる。
⑥吸引
・圧力は-40〜-80kpa

供給方法
①中央配管方式
・医療施設内の場所に医療ガス供給源を設置して、そこから各部署に設けられた配管を介して医療ガスを供給する。

定置式超低温液化ガス供給設備からの供給
・液化医療ガスを超低温で貯蔵し、蒸発器で気化させて供給される。

マニフォールド
・左右それぞれに複数のボンベを連結して設置して、中央に左右バンクの切り替え装置が設けられた高圧ガスボンベの集合装置で、片方のバンクが空になるともう一方のバンクから自動的あるいは手動的に切り替える。

空気供給装置(エアーコンプレッサ)
エアーコンプレッサによる供給:
自然界の空気を圧縮し清浄化したもの。粉塵、水分、有害ガスや、コンプレッサ自体から発生カーボンなどが含まれる可能性あり。

混合ガス供給装置による供給:
液体酸素と液体窒素の混合

・吸引装置
吸引ポンプにより吸引力を作り、配管を介して院内各部署の吸引を行う

・配管端末器
医療ガス供給源から供給される医療ガスの取り出し口をいう。壁付式、天井吊り下げ式、天井懸垂式などがある。配管端末器に人工呼吸器のホースアセンブリのアダプタプラグを接続。誤接続防止として、配管端末器の中央口の周りには2〜3の小さな孔があいていて、ここにホースアセンブリのアダプタプラグのピンが入るようになっており、孔の位置と数によって誤接続を防止する。

・ホースアセンブリ
配管端末器やボンベなどから、人工呼吸器へ医療ガスを供給するホースをいう。誤接続防止で医療ガスの種類によって、ガス別特定のアダプタプラグがついてる。

②その他
患者または医療機器のそばに移動式の医療ガス供給源を置き、そこから医療ガスを供給。

・高圧ガス容器(ボンベ)
医療ガスが気体または液体の状態で高い圧力で充填されている。この中のガス圧力調整器で減圧してから供給される。

・エアーコンプレッサ
移動式のエアーコンプレッサで圧縮空気の配管設備がない部署において必要な時に用いられる。

③ボンベの取り扱い
保管場所:
・通風、換気の良い場所に保管、温度は40℃以下に保つ
・火気、引火性のある可燃物を置かない。
・ボンベが転倒しないよう固定しておく

使用方法:
・火気、可燃物のあるところで使用しない
・ボンベと圧力調整器の接続には専用のパッキングを使用、グリースや油を用いない
・バルブの開閉は静かに行い、この時圧力調整器のメータには顔を近づけない。
・使用後にはバルブを閉め、圧力調整器内に残ったガスを全て流して圧力を0にしておく。

安全弁作動時の対処方法:
・ボンベの周囲での火気の使用を直ちに中止する。
・ボンベの周囲より可燃物を除去する
・窓や戸を開放し、ガスを室外へ放出する。
・ボンベからのガスの噴出が停止するまでボンベに近づかない。

④ボンベの色別区分
・ボンベと配管では色が違う
例:酸素ボンベは黒、酸素配管は緑
・ボンベの誤使用を防止するため、バルブのガス別特定化を行なっている。

⑤ボンベの残容量
・二酸化炭素は40L未満と40L以上ではバルブの形が違う。
・酸素ボンベの残容量は、ボンベの容量と圧力表示値から残容量を把握できる。
・亜酸化窒素や二酸化炭素など液体の場合圧力表示値からは把握できない。

⑥医療ガスの持つ危険性
物理的特性によるもの:

高圧エネルギーによる危険性は、粗暴な取り扱いや環境の温度の上昇によってボンベの安全弁が作動することによって高圧ガスの噴出や圧力調整器を急激に開閉することによる圧力計部の破損

重さによる危険性は、ボンベの転倒による人身、建物などに障害が起こる危険性がある。また、ボンベが転倒した際には、ボンベのバルブが開いて高圧ガスが噴出する危険性もある。

化学的性質による危険性:
・支燃性のある酸素、亜酸化窒素による燃焼事故、酸化エチレンの毒性および可燃性による事故、窒素、二酸化炭素の大量噴出による酸素欠乏事故

供給上のトラブルによる危険性:
・供給の中断、供給圧力低下による停止、医療ガス供給源での操作ミスによるガス供給異常、誤接続など

人為的ミスによる危険性:
・医療ガス供給源、配管末端器、ホースアセンブリ、圧力調整器などの保守点検の不備、警備装置の見落とし、異常発生に対する対応の遅れ、医療ガス関連機器の操作上のミス、異種ガスの取り違え

人工呼吸器使用時の心構え

機器(警報、安全装置)に頼らない

人工呼吸器にのせる≠手間が省ける
※かえって手間がかかると言う事を知らなければならない

よく患者を診ること
最終的には自分の目で見て、耳で聞き、手で触れ、鼻で臭いを嗅ぎ

確かめることが必要

トラブルには常日頃から備えを
機器に親しむこと
機器をよく知ること



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