13-2. NPPVとその管理法
はじめに
①急性呼吸不全
・発症前呼吸器疾患を伴わない。
・元の状態に服されることが期待されるため、 侵襲的な呼吸管理を含めた呼吸管理を基本とする
・従来の方式によるIPPVの対象となる疾患は患者の了解が得られればNPPVの対象となる。
②慢性呼吸不全
・慢性呼吸器疾患を伴う。
・在宅酸素療法(以下HOT)により、低酸素血症(hypoxemia)を防止し、悪化の徴候を早期に把握し、可能な限り非侵襲的な方法での管理を基本とする。
・常に患者の状態を評価し、急性増悪時は速やかに治療を開始する。
・非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV)の導入により、II型慢性呼吸不全の管理が変化。
・非侵襲的な方法で限界がある場合、適応があれば侵襲的な方法を行う。
呼吸不全の急性増悪時の管理と人工呼吸の適応
①急性呼吸不全
酸素吸入、薬物療法など最大限の治療にもかかわらず(p362.表13-1-5)のような指標になれば人工呼吸使用を考慮する。
②慢性呼吸不全
・ショック、重篤不整脈、呼吸微弱があれば挿管下人工呼吸となる。
・通常はhypoxemiaの改善のため、酸素吸入を行いながら急性増悪の原因治療のため、気管支拡張薬、利尿剤、抗生剤の投与を行う。
・CO2ナルコーシスに注意
・PaO2≧50〜60Torr、SpO2≧90%を目標に治療。
・ベンチュリーマスクなどの使用にもかかわらず、PaCo2が70〜80Torrと上昇し、PaO2が50〜60Torr以下であればNPPVの適応となる。
NPPV療法
・近年適応範囲、使用頻度が上昇。
・在宅NPPV患者の中でCOPD患者が多い。
・挿管人工呼吸器から抜管後のNPPV使用への効果は疑問あり
・詳しくはガイドライン参照
http://fa.jrs.or.jp/guidelines/NPPVGL.pdf
NPPVの定義とその効果
・NIV(non invasive ventilation)には、CPAP、NPPV、NPVなどがある。
CPAP-上気道確保(+)呼吸補助(-)
NPPV-上気道確保(+)呼吸補助(+)
NPV-上気道確保(-)呼吸補助(+)
CPAPの効果
血液ガスの改善、睡眠時無呼吸、低呼吸の改善、睡眠時無呼吸による短期覚醒の減少、睡眠構築の改善、過大な胸腔内圧変動の改善
NPPVの効果
高PaCo2血症(REM睡眠時の低換気による)の改善、覚醒中のPaCo2値のリセッティング、睡眠呼吸障害、呼吸筋疲労の改善、低PaO2血症の改善
NPPVの適応
・通常鼻マスクを利用して行われる
・慢性呼吸不全増悪時、急性呼吸不全など口を閉じることが困難な症例にはフルフェイスマスクの利用も考慮
・患者はマスクへの不快感を示すことが多い。
・患者への十分な説明と同意が必要。
使用条件
・循環動態が安定、意識清明で患者の協力が得られる、誤嚥を生じない、自力排痰可能、気管挿管が必要ない、顔面の外傷がない、マスクをつけることが可能、消化管が活動していること
例外)
・co2ナルコーシスなどのNPPV治療により意識が回復する可能性のある場合
・睡眠中の使用では、NPPVが有効に働けばPaCo2の低下、自発呼吸の消失、無呼吸が起こりやすくなるため、コントロールモードあるいはT(timed)モードを使用する。
・急性期呼吸不全でNPPV使用にエビデンスがある病態、COPD増悪、急性心原性肺水腫(主にCPAP)、移植後、化学療法後免疫抑制下の患者、COPD患者の人工呼吸器からのウィーニング
※従来式NPPV専用機種における換気モード
Sモード:自発呼吸のみを補助する。PEEP(EPAPに等しい)+pressure supportに相当。IPAPとEPAPの時間と呼吸数は患者の自発呼吸に依存する。
Tモード:設定した分時呼吸数とIPAP時間に従って調節換気を行う
S/Tモード:自発呼吸に応じてSモード運転を行う。一定時間内に自発呼吸が検出されない時にIPAPが供給される。
CPAPモード:吸気呼気ともに一定の圧をかける
①急性呼吸不全 1項目以上
COPD増悪におけるNPPV適応基準
・呼吸性アシドーシス(pH≦7.35かつ/あるいはPaCo2≧45Torr)
・呼吸補助筋の使用、腹部の奇異動作、肋間筋の陥没、呼吸筋の疲労または呼吸仕事量の増加、あるいはその双方が示唆される臨床徴候を伴う重度の呼吸困難
一般的に適応注意、禁忌とされるもの
・非協力的で不穏な場合
・気道確保ができていない
・呼吸停止、昏睡、意識障害
・循環動態が不安定
・自発呼吸がない
・最近の腹部、食道手術後
・顔面外傷、などマスクがつけられない、フィットしない場合
・2つ以上の臓器不全
・心筋梗塞、不安定狭心症
・咳嗽反射の消失または減弱
・ドレナージされていない気胸
(場合によればドレナージしていればOK?)
・嘔吐、腸管閉塞、新鮮消化管出血
・大量の気道分泌物、排痰できない
NPPV使用後、挿管人工呼吸に移行する場合
Brochardらは 2つ以上満たせば
・NPPV使用後1時間以内に呼吸数が35回/分以上で入院時より高い
・pH7.3以下で入院時より低い
・PaO2 45Torr以下
・neurogical scoreの1〜2点の低下
・喀痰喀出困難
NPPV不成功の予測因子
・初期のpHが低い(7.30〜7.22)
・NPPV使用後短時間でのpHの上昇、PaCo2の低下、呼吸数の低下が見られない
・apacheⅡやSAPSⅡで示される重症度が高い
・x線上浸潤影がある
・マスクを長時間つけられない
・意識障害または改善しない
②慢性呼吸不全
使用目的
睡眠時呼吸異常、呼吸筋負荷、呼吸困難、高PaCo2血症などの改善
慢性期仕様の場合、在宅人工呼吸(home mechanical ventilation:HMV)
長期NPPV適応基準
1)肺結核後遺症、脊柱側弯症などの拘束性換気障害
1.自他覚症状として、起床時頭痛、昼間の眠気、疲労感、不眠、昼間のイライラ感、性格変化、知能低下、夜間頻尿、労作時呼吸困難、体重増加、頸静脈怒張、下肢浮腫等の肺性心徴候のいずれか。以下の2つを満たす
①昼間覚醒時低換気(PaCo2≧45Torr)
②夜間睡眠時低換気(SpO2 <90%が5分間以上または全体の10%以上)
2.自他覚症状がなくても、著しい昼間低換気(PaCo2≧60Torr)
3.高二酸化炭素血症を伴う呼吸器系増悪入院を繰り返す
2)慢性期COPD
・最大限の包括的内科治療を行なっている
・導入3〜4ヶ月後に血液ガス、睡眠時呼吸状態、QOL、NPPVのコンプライアンス評価を行い継続の必要性を評価
1.呼吸困難感、起床時の頭痛、頭重感、過度の眠気
2.体重増加、頸静脈怒張、下肢浮腫などの肺性心徴候
3.
①PaCo2≧55Torr
②PaCo2 <55Torrであるが夜間低換気による低酸素血症(SpO2 <90%)
③PaCo2 <55で安定しているが、高二酸化炭素血症を伴う呼吸器系増悪入院を繰り返す
3)肥満低換気症候群 n CPAPを使用
1.高度肥満(BMI≧30)
2.日中の高度傾眠
3.慢性のPaCo2≧45Torr
4.睡眠呼吸障害の重症度が重症以上
(AHI≧30、SaO2≦75%)
4)チェーンストークス呼吸
CPAP療法、酸素療法、サーボ制御圧感知型人工呼吸器(ASV)が有効と考えられている
5)神経筋疾患
睡眠時NPPVの適応
・慢性肺胞低換気(VT60%以下はハイリスク)
・昼間にSpO2≦94%、PaCo2≧45
・睡眠時AHI≧10、SpO2<92%
睡眠時に加え覚醒時のNPPVの適応
・呼吸困難による嚥下困難
・一息に長い文章を話せない
・肺胞低換気、昼間にSpO2≦94%、PaCo2≧45
NPPVの保険適用
急性呼吸不全
PaO2/FiO2が300Torr以下または、PaCo2≧45Torrの場合に限り算定可能。
慢性呼吸不全
・睡眠時無呼吸症候群の患者は対象とならない
NPPV使用の問題点
適切な患者選択、不快感のないマスク使用、患者の状態に応じたセッティングなど医療側の努力を要する。
慢性期使用では在宅人工呼吸となり、独居、突然死リスクマネジメントの整備が課題。
今後の呼吸管理として、薬物、理学、栄養療法に加えて酸素療法、CPAP、NPPV、挿管気管切開下人工呼吸を如何に有効に利用するかは急性慢性ともに必須の課題。
NPPVの実際
IPAPの設定は8〜10cmH2Oで開始し、患者の不快感、PaCo2、一回換気量、呼吸数に応じて変える
EPAPの設定は4cmH2Oのまま
SpO2は95%を目標に、PaCo2が高い場合はco2ナルコーシスを考慮して、SpO2は90%を維持するようにモニターする。開始後1〜2時間で血液ガスを測定し、改善の程度でNPPV継続か挿管人工呼吸を行うか判断する。
ネーザルハイフロー(nasal high flow:NHF)酸素療法
・元来鼻カニューレでは6l/分を超える使用は酸素ガスが十分に加湿できず、鼻粘膜にぶつかり刺激したりそれ以上の吸入酸素濃度の上昇は期待できなかった。
・NHFは一定濃度の吸入器酸素が投与できる高流量システムの1つとして、30〜60l/分程度の酸素、空気混合ガスを経鼻カニューレを通して吸入させる。
・酸素吸入濃度として21〜100%が可能
効果
・1回換気量、呼吸数に影響を受けずに一定濃度の酸素濃度を供給可能
・大量の混合気ガスが上下気道の死腔に溜まった呼気ガスを洗い流すことによって呼気co2の再吸入を減らす。解剖学的死腔を減らす
・口を閉じることにより軽度のPEEPを作り出す
・十分に加温加湿されているので快適性がある。
・NPPVに対して、不快感が少なく従来の酸素療法に比べ高濃度の酸素投与が可能なのでⅠ型呼吸不全に適応されると報告。
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