19.在宅人工呼吸

HMVの現状

・欧米では1940年代後半から1950年代前半にかけて大流行した小児麻痺の後遺症である呼吸筋麻痺患者が多い中で開始された
・1980年代前半からNPPVが開始された
・日本では、1975年ごろ、神経難病看護の領域で必要に迫られてHMV実践が開始された。
・HOTと異なり全国で合意のガイドラインがないまま1990年代にHMVの保険適用が開始されてもHMV療養者数は増加しなかった
・1997年以降増加、ここ数年定常状態

・NPPV症例は神経筋疾患の割合減少し.COPD、肺結核が増加
・TPPVでは神経筋疾患が多い

NPPVとTPPV

1.NPPVかTPPVか?
・NPPVは導入の容易さ、簡便性、侵襲度が低い
・肺胞換気量確保の確実性の面ではTPPVが優れている
・誤嚥、喀痰などの分泌物の自己喀出が困難な場合気道確保が必要でTPPV適応となる

2.NPPVからTPPVへ
・誤嚥、自己喀出が困難で気道確保が必要な場合
・高二酸化炭素血症を伴う呼吸性アシドーシスあるいは低酸素血症が改善しない場合
・まずNPPVの条件設定の変更、改善なければTPPVへ

3.TPPVからNPPVへ
・TPPVのデメリット、発生困難、気管チューブの管理などが患者のQOLを損なうこともあり、そのような症例にNPPVを導入することでTPPVに伴うデメリットを克服しQOLの向上につながる可能性がある。
・重要なのが喀痰などの気道分泌物を自己喀出できること
・気管切開孔閉鎖後NPPVを導入すると気道確保が必要となった場合に再気管挿管が必要となる
・患者の安全から気管切開部を閉鎖せずにNPPVを試す。
・一定期間NPPVでも問題なければ気管切開部の閉鎖を考慮する。
・気管チューブをレティナに変更し、NPPV時にはレティナボタンを装着。

病態とメカニズム

・HMVの適応は、肺胞低換気、言い換えれば高二酸化炭素血症を伴うⅡ型呼吸不全が中心となる。
・覚醒時に高二酸化炭素血症を伴う患者では、基礎疾患とは無関係に高二酸化炭素血症は睡眠時にさらに増悪すると言われている
・夜間のみの換気補助だけで昼間にも十分な治療効果が現れることもわかっている
・覚醒時から睡眠へ移行すると気道抵抗は増加し、呼吸筋への負荷増加
・機能的残気量は立位、座位から仰臥位へ変わるだけで1l弱も減少、ノンレム睡眠からレム睡眠に移行しても0.5l減少する。肺内含気量が減少し低酸素血症を引き起こす。
・レム睡眠時は横隔膜の活動は覚醒時と変わらないが、肋間筋などの活動は抑制される。レム睡眠時には換気血流比不均等となりガス交換が障害される。
・COPDなど肺過膨張により横隔膜の機能障害が起きていると、睡眠中肋間筋の活動抑制により換気量が著明に減少

換気応答とリセッティング

・換気応答とは高二酸化炭素血症や低酸素血症に反応して換気が刺激される
・二酸化炭素に対する換気応答は二酸化炭素レベルの変化が持続すると設定が変化するという特徴がある。
・高二酸化炭素血症が持続すると換気応答の反応がなくなる
・低酸素血症に対して酸素療法を行うと換気の酸素応答鈍化し低酸素血症も換気刺激となりにくくなる
・HMVでは高二酸化炭素血症や低酸素血症の改善効果、リセッティング効果で改善した高二酸化炭素血症の維持が期待できる。

適応と前提条件

・患者とその家族が本療法の意義と限界や具体的な方法を理解し、地域の医療介護支援体制を活用して病院外で生活する意思を自発的に表明すること

準備とチェックポイント

・適応が決まれば実施導入の準備とトレーニングを開始
・HMVのイメージが実感できないために本人、家族、介護者などの態度決定にためらいがある場合、同行往診によって既に実施中の患者、家族に引き合わせる機会を用意すると有効

診療体制

・TPPVは往診訪問看護体制は高率に確保さらている。
・NPPVは外来受診可能な症例が多いため差がある
・地域ケアネットワーク形成はNPPV群で低い

就労・経済状況

・HMV開始後、療養のため仕事を辞めざるを得ない人、経済的になんらかの節約を強いられる人がいる。

介護体制、福祉資源利用状況

・申請方法がわからず介護保険を受けていない患者もいる
・介護保険導入前後で介護状況の改善を感じていない実態あり
・過半数が要支援、要介護1なので認定介護度に対する満足度の低さが理由
・ほとんどが身体障害者手帳を取得していたが、認定等級に対する満足度の低さがある。

人工呼吸器

・NPPVでは従圧式が多い
・神経筋疾患患者には一定の換気量が保証される従量式が良い場合もある
・NPPV用の人工呼吸器にはバックアップ用のバッテリーが内蔵されていないため長時間換気補助を要する患者の場合は外部バッテリーーの準備が必要

インターフェイス

・NPPVの場合、インターフェイスとしてのマスクが重要。
・通常は鼻マスク
・開口によるリークが問題となる時はチンストラップ顔マスクが用いられる

加温加湿

・冬季の乾燥した時期に、口鼻気道の乾燥が問題となる。
・機器に付属しているものだけでは不十分なことあり、部屋の加温加湿を始動することもある

機器および保守管理体制

・小型化、静音、省電力、操作性に対する改善要望多い
・保守、管理体制に関する説明を病院から受けていない、保守管理体制が定期的であること、時間対応を知っている患者が少ない

在宅NPPVの有用性

・有効であると説得力を示すエビデンスはない
・長期酸素療法にNPPVを加えると二酸化炭素蓄積への効果、息切れ感も改善する報告あり
・睡眠時無呼吸症候群や夜間低換気に伴う低酸素血症は夜間の肺高血圧を招く睡眠呼吸障害がNPPVで、改善するという報告あり。

在宅TPPVの意義

最大限の自己実現を図りながら療養と生活の場の選択肢を病院外の自宅またはその他に準備すること。同時に目的そのもの。

今後の課題

・診療介護体制では特に夜間、休日体制のさらなる充実。
・またHMVを継続する上で、介護者の休養目的などのレスパイトケアの充実が喫緊の課題

・在宅ネットワーク形成の更なる充実
・在宅ケア資源、経済的支援のさらなる充実
・診療介護体制のさらなる充実(特に夜間休日)
・レスパイトケアの整備
・人工呼吸器、関連物品のさらなる改良


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